ex 故に彼は微笑んだ。

 エルを見送った後、シオンは一人になった。

 命を削って力を供給させる裏技も、これ以上やれば死に至る。故にシオンはその術を解いた。


「……あと、どれだけ動ける?」


 自ら精霊術を行使する為の力を生み出していた期間、シオンの体には徐々に、契約した精霊から供給される力が溜まっていっていた。

 だけどそれも微量な物で、肉体強化をいつまで意地できるかも分からない。当然そんな状態なのだから、応急処置でもそれなりの力を消費する回復術などは論外だ。

 こんな状態で脱出しようというのだから、絶望的にも程がある。

 だがしかし……彼は笑っていた。

 ああして精霊を助けても、ちっとも精霊の信用を得られない。

 そして思わず手を止めてしまった事は、エルを傷つけたくないという思いもあっての事なのに、それを苦しめているとまで言われてしまった。


 ……それは彼にとって精神的に辛い事の連続。例えそれらが自業自得の話であっても、命を削ってまで助けようとしているのにそれなのだから尚更だ。

 だけど……それでも、彼は笑っていたのだ。

 だって手を止められた。

 精霊を傷付けてしまったが故に、その先に進む事に抵抗を覚えた。それがたまらなく嬉しかった。

 ……そういう些細な事が自分が変われた証となってくれるから。故に彼は笑みを浮かべた。

 決して笑っていられる状況では無いのに。


「……とにかく、進むんだ」


 彼はゆっくりと前へ進んで行く。

 その先にどれだけ敵が残っているかも分からない。誰もいなかったとしても、そこまで辿りつけるかも分からない。

 そもそも此処を出た所で、待っているのは治安の悪い裏の世界。此処を出れば助かるという訳でも無いのだ。

 だけど、死ぬわけにはいかない。

 絶対に死ねない。

 彼は彼で、藁をも掴む思いで助けたい相手がいるのだから。


 そして最終的に……彼の血に濡れた足跡は、地下アジトを出たすぐの所で止まっていた。

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