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「ああああああああああああああああああああああああああッ!」
ただ、叫び散らした。
自身を鼓舞する為に。生き残るために。
だけどそんな事が生存率を上げてくれるわけではない。きっと激痛のショックを多少和らげてくれる位だ。
全力で地を蹴り向かった先には、それを待ちかまえたかのように精霊が待ちかまえていた。
その手に携えるは、精霊術で作ったと思わしきハルバード。
振り下ろされる寸前、左手から風を噴出させ軌道を変えて回避する。だけどその背に激痛が走る。
俺の行動を読んだかのように、天井間際に跳んでいた男が蹴り飛ばしたのだ。
そのまま地面にたたき落とされるが、すぐに体勢を整えがむしゃらに正面に跳んだ。
ハルバードを振り下ろした直後の精霊にタックルをかまし、そのまま突きぬける。
だが再び背中に激痛。それも先の比では無い。
「が、あああああああああああああああああッ!?」
激痛と衝撃で一気にバランスを崩し床を転がる。
その最中に見えたのは精霊の手から離れたハルバートを振るった背の高い女。その女が振るったハルバートは俺の背を確かに切り裂いた。
だけど、そんな事だけで猛攻は終わらない。
「ぐ……ッ」
左腕が床に着いた瞬間、地面から文字通りトゲが生えた。
細く長いそれは俺の左腕を貫き、床に血をまき散らせる。
そしてまき散らした血が、文字通り飛んできた。
「……ッ!」
まるで弾丸の様に。重力が真逆になった空間で水滴が落ちた様に。そして銃弾の様に。俺に向かって跳んできた。
瞬時にトゲから左手を抜いて回避するが左肩を貫かれる。
そして激痛に顔を歪ませながら体を動かした先には男の拳。
「ッハ……ッ!」
鳩尾に拳を叩きこまれた。
意識を失うほどの。否、一瞬意識を失ったんじゃないかと思うほどの重い一撃。その余韻がまるで抜けていない時に、碌に動かなくなった左腕に何かが突き刺さる。
それは先程の鎖。囲いから脱出しようとする俺を引き戻すが如く、宙に浮いた体は引っ張られる。
「ッそがあああああああああああああああああああッ!」
俺はそのまま空中に風の塊を出現させ、一気に踏み抜いた。
自殺行為だ。ある程度体勢を整えられたさっきのとは違う。片腕が動かず、しかも全身の激痛が増しバランスも悪く、更に鎖で引かれて到達地点に大きなズレが生じる。
元から屋内で使うのは危険が伴うのに、これだけの状況が揃えばもう立派な自殺だ。
だけど鎖を切ろうとすれば、そのワンクッションの間に畳みこまれる。他の逃げ方をしても畳みかけられる。自らの行動で死ぬかもしれないこの行動が、今俺が取れる唯一の生き残りの道。
風を踏み浮いた直後。推進力を得ると同時に、左腕に尋常じゃない痛みが走る。
当然だ。鎖の先に掛る体重が掛っているのだから。きっと抜けにくくなっているソレが人体に与える影響は深刻だ。
そして抜けにくいは抜けないでは無い。
……抜けた。それはまるで、かえしが付いた釣り糸を、無理矢理引き抜いた様に。
つまりは肉が抉れた。おそらく鎖を切れば自然と消滅するシステムになっているのか、先に足で喰らった時には感じなかった感覚が左腕を中心に発生し、それは意識をも抉り取る。
そして次に目が覚めた時、目の前にあったのは床だった。
激しい推進力を纏った体が、受け身を一切取らずに床に叩きつけられる。
そしてバウンドする様に再び体が宙に浮く。
揺らぐ視線のその先にはブラックホールの様な何かが展開されていた。
そしてそれらから、まるでアサルトライフルの様な銃弾が一斉射出される。
咄嗟に目の前に展開した結界は、数発でひびが入りついに粉砕。全身が銃弾の雨に晒される。
それでも。
……まだ意識は残っていた。
それはきっと相手にとって想定外だったのだろう。
俺に当たらない銃弾は後方。奴らの方に飛ぶ。そしてソレらを防ぐ術は持ち合わせている筈だ。だけどそれをしているためか、後方からの追撃は無い。
つまり奴らはコレで決める気だったのだ。俺を囲んでいた連中の中で、何もしてこなかった奴らが作り上げた戦いを終わらせる術式。アイツらに残されたのは、精々が死体処理位だったんだ。
だけど俺の意識は確かにある全身に銃弾が当たるが、激痛止まり。何発か貫通するがそれでもまだ死なない。
……突破する。
……突破、するんだ!
「うおあああああああああああああああああああああああああッ!」
再び鼓舞する様な雄叫びを上げる。
意識を失わない様に。生き残るために!
そして貫いた。ブラックホールを突きぬけた。
つまりは猛攻を、一時的にでも生き延びた。
この体でまともに動けるかは分からないが、それでも一歩状況は好転した。
そう、たかがブラックホールを超えたぐらいでそう思ってしまった。
精霊術。それは魔法の様な力。少なくとも詳しく知らない俺にとっては魔法と変わらない。何が起きるかなんてわからないのに。
そして……例えそんな物が絡んでいなくても、何が起きるかなんてのは、まるで分からないのに。
視界に記憶に残っている顔が映った。
その手には剣が握られている。
そして次の瞬間、俺の体から血が吹き出し、着地もできずに再び地に転がる。
「……ァ」
視界の先が血の海だった。
俺から流れ出た血液が床を支配する。白かった床を、ただただ赤く染めて行く。
そして俺を切り捨てた三十代前半程の男は、きっと俺を見降ろしながら言った。
「俺の術が効かない化物だと思ったが、評価すべきはそれだけだ。殺すべきタイミングで殺さなかった。あの時お前は俺を殺しておくべきだった」
そんな言葉を聞きながら、俺の意識は薄れて行く。
それは幻覚すらも見せたのだろうか。その先に思わず手を伸ばしたくなる存在が見えた。そんな気がした。
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