第2話 あっさりの二回目

 目覚めると、牢の中にいた。


 土牢の中だ。脳裏に火の海が過る。俺は夢中で自分の躰をまさぐった。躰のどこにも火傷はない。傷一つない。痛みもない。俺は、五体満足で生きている。


 安堵の息が漏れ、しかし疑問が湧いた。 


 どういう事だ。俺は確かに焼け死んだ筈だ。それなのに無傷で、しかも牢の中にいる。これではまるで、初めからやり直したような感じだ。


 ふと、髪の長い少女の存在を思い出した。


 少女は、すぐ近くにいた。さっきまで腹に刺さっていた剣はない。無傷でしっとりとした土に横たわっている。そして、目を覚ました。


 俺と眼が合った。まじまじと見てくる。それから立ち上がり、やっぱり鍵の掛かっていない牢を出た。


「待て!」


 看守の低い声が響く。少女が左を見て、看守から離れるように下がっていく。間もなく、松明を持ち剣を下げた看守が現れた。


「今すぐ牢に戻れ」


 前と同じだ。


 俺も同じように看守の死角に移動して、二人の睨み合いを注視しつつ思案する。


 この状況は何だ。相変わらず魔法は使えない。しかし、死んだのに状況が以前に戻っている。恐らく、魔法道具の試練と関係しているんだろう。一先ずはまだ試練は失敗していない。それ以上の答えは出ないか。


 その時、少女と看守が動いた。少女が一瞬で看守の懐に潜り込む。


「……うっ」


 倒れたのは、看守の方だった。


 顎に少女の掌底が決まり、一発で意識を奪われたらしい。少女の腹に刺さる筈だった剣は、横腹を掠めるように外れていた。


 どういう事だ。


 俺はまだ何もしていない。それなら、前と同じように少女が死ぬ筈ではないのか。落ちた松明が床に炎を広げている。これは以前と同じだ。


 まさか、少女もやり直しているのか。


 少女は俺を一瞥して、出口と思われる扉に歩み寄る。俺は静かに看守の剣を拾い、少女の後を追った。


 少女が出口に手を伸ばす。すると、前は岸壁のように固かった扉はあっさり開いた。夕暮れの街並みが広がる。なんとなく状況が読めてきた。


 俺は、少女の後頭部に剣を振り下ろした。


 瞬間、出口が勢い良く閉まった。開けようとしても前のようにびくともしない。少女の頭から漏れる血だけが、音もなく淡々と広がっていく。


 これが試練か。


 乗り越えるには、少女と俺、二人が生きていなくてはならない。試練の中身は未だ得体が知れないが、一人が死ねばもう一人はどこにも行けなくなる。


 そこで、俺は自分の置かれた本当の状況に気付いた。


「……俺、死ぬしかないのか?」


 背中に熱気を感じた。振り返ると、松明から広がった炎は素手では消せない程の大きさにまで成長していた。もう時間がない。


 後は焼死するか、その前に自殺するか。


「嘘だろ……」


 俺は溜息を吐いていた。他に方法がない以上は仕方がない。苦しんで焼け死ぬのはもう嫌だ。そう自分に言い聞かせ、剣の刃を喉に当てた。


 そして、前のめりに倒れ込む。

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