第2話 異世界への第一歩って感じ

「えーっと。取り敢えず、何者?」



 それに対する林の反応は予想外のものだった。


「立ち話もなんだし、家に来る?」


 美人の家にお誘い。

 普通なら色々怪しいとこが有り過ぎて、その提案には乗らないだろう。

 普通ならば。


「是非!」


 若干、前のめりで答える鋼詩。悲しいかな、それが男の性だ。

 そうして鋼詩が着いていったのは同じビルの一階、エレベーターを迂回するようにして、入ってきた時とは丁度逆側になるだろうか。

 そこにはドアは一つしかなく、薄暗く感じるのはこの場所独特の雰囲気のせいだろう。

 日当たりが悪く、照明も付いてなく、唯一の灯りはドアの横に設置された看板只一つ。

 その看板にはこう書かれていた。


『異世界館』と。


 余りにも分かりやすすぎる名前。

 鋼詩でなければ警戒して、中に入るのに二の足を踏む程の怪しさだ。そう、鋼詩でなければ・・・。


「へー。洒落た名前のお店ですね。自宅兼職場ってやつですか?」


 そのドアを開きながら林は答えた。


「名前は分かりやすいでしょ?あんまり凝りすぎても、何のお店か分からなくなったら意味無いしね。ここの半分が職場で残り半分が自宅よ」


 先に入っていく林に続いて鋼詩も中に入っていく。

 中は落ち着いた雰囲気の喫茶店といった感じだ。

 壁には幻想的な風景画がいくつも飾られていて、なかなかお洒落だと思ってしまうぐらいにしっかりしていた。


 そうして鋼詩があちこち眺めていると、林がカウンター席の向こうからカップを2つ持ってきた。


「コーヒー甘めで良いわよね?」

「あ、はい。ありがとうございます。・・・にしても、何でも知ってるんですね」


 カップを受け取り近くの椅子に座り、一口飲んでみた鋼詩は思っていることを素直に聞いてみた。

 それは、コーヒーがかなり甘めに作られていたからだ。

 鋼詩は甘党で、コーヒーは甘いのしか飲めない。

 ブラックも飲めないこともないが、飲むと確実に頭痛がしだすのだ。


「まあ、一応管理者やってるからね。今日は休みを利用して異世界にいく方法を試しに来たんでしょ?」


 同じようにコーヒーを飲みながら話す林は、鋼詩の向かいに座り話す。

 暫くの間、室内には時折返事をする鋼詩の声と、実に楽しそうに話す林の声が響いた。

 どれぐらい話をしていただろうか。

 鋼詩が異世界館から出る頃にはすっかり太陽は沈み、辺りは完全に闇が支配する真夜中になっていた。


「・・・取り敢えず帰って寝よう。情報量多すぎだわ。俺は頭悪いんだぞ・・・ったく」


 ビルから出て、バイクに乗る鋼詩は音楽を聴きながら遠回りして帰ろうと、家とは反対方向に向かって走り出す。

 途中でコンビニに寄り、コーヒーを飲みながらタバコを吸い、またバイクを走らせ家につく。




 鋼詩が帰った後の異世界館には、一仕事終えたような顔をした林が満足そうに机に突っ伏していた。


「コレで私もやっとこさ自由…………そうでしょ?」


 誰も居ないはずの対面を見て話す林は、そこに誰かが居ると確信している。

 そこから返事は無いが、相槌をうつ彼女は満足げだったが……。


「え?……いやいやいや、聞いてないし。は?言ってないならノーカンでしょ!……うっわ!汚えー!」


 抗議の声を上げるが、虚しく空に消えて行く。

 納得はしていないだろうが、渋々、本当に渋々と言った顔で頷いた。


「はぁー……分かったわよ。それとなく、で良いのよね?ガッツリじゃなくて……はいはい」


 再度机に突っ伏すが、その様子は先程とは全く違っていた。








ーーーーーーーーーー


結構なスローペースで書いてます。


大体、月に一話位の更新になると思います。


ご意見やご感想、評価。気軽にして下さい。

まだまだ書き慣れない所もあるので。


ここ迄お読み頂きありがとうございます。


ではまた、次回。

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神様の誕生日 笑い猫 @warauneko

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