第51話 2019/12/03/火~04/水 隠しきれない動揺

 私がしっかりしなくちゃと思った。

 いつも通りにふるまおうとして、でも、ゴミを出し忘れたり、夜眠れなくて気持ち悪いミステリーを読んで朝寝坊したり、してしまった……。

 でも、できるだけ気づかれないようにはできたと思う。


 なにせ私は普段からおおざっぱ。

 きついときは、気持ちを楽にして、気にしない。

 それでスコちゃんが、不安にならないならば、それでいい。


 キレイに整った動物病院で、ケージごと獣医師にスコちゃんを預けてしまうと、なんと手術は午後からだと言われた。

 せっかくの大安吉日も、午後は大凶なのだ。

 しかし、吉日に受け渡しできたという、安心感はある。


 そして、今日は4日。

 今頃はおなかをすかせているのかなあ、スコちゃん。

 ササミを持って行ってあげよう。


 ハーブ鶏のササミだよ。

 ぷりっぷりだよ。

 動物病院から変な時間帯に連絡はなかったから、手術は成功したのだろう。


 ううう。

 おなかの毛をバリカンでカットされたのかな、とか、簡単な手術のはずだ、よろしくお願いしますと心はさまざまに乱れる。

 神様へのお祈りも、昨日は忘れてしまった。


 今朝はラジオ体操にも行ったし、お祈りもした。

 お酒も『菊正宗ピン』をなみなみとついで。



 さけられない犠牲ならば、なるべく最小限であってほしいではないか。

 麻酔が切れて、あいーたたた! ってなるよりは、なんか痛い……くらいで済めば。

 跡も残らない手術のはずだと信じている。


 頭の中で、もう一人の私が「あんなにちっちゃいのになあ……」って、スコちゃんを不憫に思っている。

 しかし、避妊することで得られるメリットは、ペット側にもある。

 交尾できない苦痛が一生、なくてすむのだ。


 夕べは、薄暗い廊下で角を曲がるたびに、物陰にいたのが「スコちゃん!?」に見えて、心臓に悪かった。

 なんのことはなく、車に取り付けるキッズシートなのだが、たたずむ姿がちょうどスコちゃんのお座りした感じに見えた。

 大丈夫、きっと大丈夫だと、己に言い聞かせる。


 過敏になってはいけない。

 白髪が出てしまう。

 十代の頃に経験済みだ。


 実は、大学でいじめられてる子を見つけてしまって、どうやったら助けられるかと気をもんだのだ。

 そしたら、頭髪に白いものが出てしまい。

 なんで親でもないのに、こんなに心配しているのだ、と適当にアドバイスして終わりにしたんだった。


 人を信用しよう。

 たとえ一回でも、避妊手術に失敗したことのある獣医師だったら、あそこの動物病院は評判が悪くなっているはずだ。

 でも、エントランスの雰囲気も、廊下の空気も心地よいものだったし、信じよう。


 ヘンな電話はまだない。

 大丈夫だ。






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