第49話 女神見習いと少女の日記


 アルさんのおかげで家の中は綺麗だけど外がボロボロなので修繕してみる。

 ようやくヒュージアントに壊された壁も元通り……


 「ま、これで勘弁してやろう」


 嘘です……これが限界です。あくまで修繕スキルだからアルさんみたいに作り変えることはできないんだよね……家の外と中のギャップは健在です。



 リディはアルさんという人が家の中を綺麗にしたことは理解しているようだけど……アルさんが神様だってことは言ってない……

どうも帝国には大々的に神様が降臨することがないみたいなんだよね……降臨があったとしてもリディは知らないみたい。


 私が外壁を修繕しているのを興味深そうに見つめていたリディはおもむろに家へ入っていき……以前あげた袋を手に戻ってきた。



 「エナ……これも直せる?」


 リディが袋から出し、手に持っていたのは1冊の本だった。


 「あれ、これってリディが大事に持ってきたやつだよね?」

 「……ん、お母さんの日記」

 「すごい大事なものじゃん……ちょっと見てもいい?」

 「……ん」


 リディから日記を受け取り壊さないように慎重にチェック……

 結構ボロボロだな……表紙はハゲてるし中身も所々破れたり穴が開いたり……文字も滲んでるな……


 「リディ……修繕スキルを使えば少しは綺麗になるかもしれないけど、失敗したくないからもう少し修繕のスキルを上げてからでもいいかな?」

 「……ん、わかった」



 それからしばらくは集落跡でゲットしたものを修繕しては壊し修繕しては壊す……を繰り返した。

 何も知らない人が見たら変な人だけど……リディとブランしかいないから問題なし。


 その結果、レベルも上がり……はじめて修繕した頃より格段に綺麗な仕上がりになった。

 ……失敗しない限り何度でも修繕し直せるのはいいところだよね……どんどん綺麗になっていくんだから。

 ちなみに失敗っていうのは何も起こらないだけ……壊してしまうとかそういう心配はない。


 「リディ……そろそろ試してみようか?」

 「……ん、お願い」


 リビングの椅子に向かい合わせに座り……日記に修繕をしていく。

 少しずつ、慎重に慎重を重ねて時間をかける。リディやブランもジッと見つめている。

 集中すること1時間くらいかな……


 「……ふぅ。これが今できる修繕の限界……」


 表紙は元に戻ったものの古びたまま……中身は破れや穴はなくなったけど若干文字が滲んでる……読めなくはないけど……


 「ごめん……またレベルが上がったら試してみようね」

 「……ううん、読めるだけで十分」


 リディは嬉しそうに(ほんの少し口角が上がってる)表紙を撫で、ゆっくりと日記を開いていく……ブランもリディの肩から興味津々の様子。開いたら壊れてしまいそうで読むのは久しぶりなんだって……


 ……お茶の準備でもしようかな。


 しばらく日記を読み続けていたリディ……突然ポロポロ涙を流し瘴気が漂ってきた。


 「リディ……大丈夫?」

 「……ん、平気」


 次第に落ち着き瘴気も消え去った。

 

 「……ん」


 リディが日記を私に差し出している。どういうことだろ……


 「……私も読んでいいってこと?」

 「……ん」


 リディがコクリと頷いた。


 「じゃあ……」


 リディから受け取った日記をそっと開くーー



***


 愛するあなたへ


 いつか話せたらいいけど、それができなかった時のために記します。


 かつてあなたのお父さんはとある高位貴族の令嬢に婿入りを熱望されていたのに、庶民のわたしを選んでくれたの……私たちは駆け落ち同然に街を飛び出して結婚したわ。

 

 そして長い旅の末、辺境の小さな村にたどり着いたの……そこで畑を耕したり、お父さんは狩りにいったり、村の警備隊で訓練したり忙しい日々を過ごす中であなたの妊娠がわかったの。

 わたしやお父さんは泣いて喜んだわ……決して裕福ではなかったけど幸せに暮らし、あなたの誕生を待ち望んでいたわ。


 でも……お腹が目立ち始めたころ悪夢がやってきたの。どこからか出現した魔物……私たちを守るため、お父さんが足止めすることを選んだのよ。

 お父さんは命をかけて私たちを守ってくれたわ……でも、村はもう暮らせるような状況じゃなかった。


 辺境の村から1番近い教会へ身を寄せ過ごすうち自身が呪われているとわかったの。いつ呪われたかはわからないけど最近だろうって……

 でも……この呪いは帝都の教会に莫大な費用を持っていかなければ解くことができないみたい。

 そんな呪いをかけられるのは高位貴族ぐらいだと……多分、お父さんを奪った私のことが許せなかったあの方が呪いをかけたのだと思う。


 そこの教会の神父さんの勧めもあって日記を書くことにしたのよ……字が下手なのは文字を勉強中だから、ごめんね?


 何があってもあなたを産んで見せるわ。

 男の子ならお父さんの名前を女の子ならリディア。

 女の子だと疑わなかったお父さんが考えた名前よ……

 リディ……たとえ会えなくてもあなたを愛しているわ


 母より


***




 若干滲んでる部分もあるけど大体こんな内容だった……そりゃリディ泣くわ。私もウルッときた……


 他のページには毎日起きたことや、料理のレシピ……思いつく限り書き留めたみたい。


 「リディ……あなたは愛されて生まれてきたんだね」

 「……ん」

 「だから、誰がなんと言おうとリディは望まれて生まれてきたんだよ……こんなに日記から愛を感じるもの」

 「……ん」


 ブランもリディに何か伝えているようだ……


 「いつか、この日記にある料理を作ってね?」

 「……ん、頑張る……だから、街に行く」

 「……え?」


 何がだからなのかなリディさん? ……街へ行くって……


 「……街に行ってブランの登録する」


 なんか今から行こうとしてません?


 「リディ! もう日が暮れるから今日はやめとこう?」

 「……でも」


 決意が鈍るかもしれないって心配なのかな? ブランがぐるぐる飛び回って邪魔なんだけど。顔にブランの翼がバサバサ当たるんですよ……


 「うーん……今から行くとあっちに泊まることになるけど、平気?」

 「……ん、明日にする」


 お泊まりは躊躇したのね……あっさり明日に変更されたよ。


 そっか……じゃあリディが寝た後にでもこっそり街まで行ってカーラさんに伝言を頼もう……明日、連れていきますって。


 リディは明日に備えて早めに寝るそうです……え、ご飯は? あ、食べる……あれ、お風呂は?

 結局いつもと変わらない時間に就寝しましたとさ。

 

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