第73話 マルカでの戦い 其の二

 俺達がマルカ入国は果たした翌日。

 今日から首都ラーデに向かうため、編成を行わなければならない。


 編成はそれぞれの街道、そしてノルの町の跡地に補給と援軍を送る部隊の四つだ。

 東の街道は虎獣人のフゥ。

 中央の街道はアリア。

 そして西の街道は俺。


 それぞれ伝達要員として竜人をつけている。

 ルネは今回はここに残ってもらう。

 何かあったらルネのギフトである経路パスを発動して連絡と取り合うのだ。


(ふえーん、パパ寂しいのー。連れてって欲しいのー)

 

 わがまま言わないの。ルネの役目はとっても重要なんだからね。


(ふえーん、ふえーん)


 とキューキュー泣いている。しょうがないな。泣き止むまで抱っこしてあげよう。


「ふふ、ルネったら寂しいのね。大丈夫だよ。すぐに帰ってくるからね」

「キュー」


 アリアは歳の離れた妹のようにルネを可愛がっている。

 ハンカチを取り出してルネの涙を拭いてからほっぺにキスをした。


「それじゃそろそろ行きますね。先生、ご無事で……」

「アリアもな。何かあったらすぐに知らせてくれ」


「はい…… みんな! 行きます!」

「「「おー!!」」」


 中央の街道を担当する獣人はアリアの声に雄叫びで応える。

 みんな、頑張れよ。


「ははは、皆気合いが入っているな!」


 とフゥが笑う。彼は東の街道を担当する。

 陽動部隊だが、東の街道は道幅が広く、油断していると囲まれてしまうかもしれない。

 一番危険な役回りであるが、今のフゥからは不安は微塵も感じられない。


「自信がありそうだな」

「自信? そうでもないさ。だがここまで来たんだ。やれることをするまでだ。それでは私達も向かうとしよう」


「気をつけてな」

「あぁ! ではラーデで会おう!」


 フゥは六万の獣人を引き連れて東の街道に向かう。


 俺は泣き止んだルネを補給部隊担当に竜人に渡す。


「ルネのこと頼んだぞ」

「はっ! タケ様、お気をつけて!」

(パパー、バイバイなのー)


 俺はルネに一時の別れを告げる。

 そして俺と行動を共にする獣人の前に。


「行くのか?」


 と熊獣人のルー。彼は高度な土魔法が使えるからな。

 今回の俺のパートナーに選ばせてもらった。


「あぁ。すまんが街道までは先導してくれ。俺はこの国は初めてなんでな」

「分かった。お前ら! 行くぞ! 魔女王からマルカを取り戻す! ついでにアイヒマンをぶっ殺す! 分かったか!」

「「「おー!!」」」


 うわ、すごい雄叫びだ。大地が震えるようだ。


 ザッザッザッザッ


 ルーの先導のもと、俺達は西の街道に向かった。

 


◇◆◇



 俺達が西の街道に向かい、歩くこと数時間。


 ザッザッザッ ザッ


 突如隊列が止まる。着いたのか? 

 俺は先頭にいるであろうルーに会いにいく。

 すると……


「おう、来たか。ここが西の街道だ」


 ビュォォォォッ


 ルーが指差す方には崖があり、見えるのは空と西の海岸線を走るナジャフ山脈だけだ。

 崖の下には川が流れている。

 この川はベルテ川だ。エルフの国ヴィジマに続いている。


 そして崖には杭が打ち込まれており、その上に明らかに頼りない木の板が打ち付けられている。


 うん、なるほど。


「これは渡りたくないな……」

「だろ? ここを通れば絶対に死人が出る。でもあんたが安全に通れるようにしてくれるんだよな?」


 そういうことだ。

 これから崖に向かってレールガンを撃ち込む。

 なるべく効率的に進みたい。一度ルーに聞いてみよう。


「最短ルートで進みたい。どこに魔銃を撃てばいいか教えてくれ」

「ちょっと待ってろ…… えーっと、地図ではラーデがこっちでトンネルの強度を考えて、さらに補修工程を減らすには……」


 ルーは考えている。

 そういえば獣人の多くはドワーフの国バクーで出稼ぎとして鉱山の掘削作業に従事していた者が多いと聞いた。

 ルーも経験があるのだろう。


「あっちだな。でもほんとにこの岩山に大穴を開けられるのかよ? 信じられねぇな……」

「ははは、まあ見てなよ。それじゃ始めるぞ。危ないから下がっててくれ」


 ザワザワッ


 俺の指示に従い、獣人達が下がっていく。

 それじゃ始めるかな……


 イメージする。

 地球で最も強力な火器の一つ。

 火薬ではなく、電磁誘導により飛翔体を加速して撃ち出す兵器を。

 初速は秒速五キロを超え、二百キロメートル先の標的を射抜くことが出来る。


 だが俺のレールガンはそれ以上。

 物体は移動速度が速ければ速いほどその破壊力を増す。

 俺の魔力をほとんどを消費するその一撃に耐えられるものなどない。


 そのイメージのまま……

 発動!


【魔銃! レールガン!】


 ジャキンッ


 俺の両手には虚空から現れたレールガンが握られている。

 威力が半端じゃないからな。

 匍匐して撃たないと俺の肩がイカれてしまう。


「き、昨日見たけど、やっぱりすげぇな……」


 とルーは驚いている。ふふ、驚くのはこれからだ。


 チャキンッ


 オドで作った弾丸を込め、そしてトリガーに指をかける。


 ギュオォォォォンッ


 う……!? 相変わらずこの感覚には慣れないな。

 体から魔力のほとんどを抜かれていく。

 どうせ温泉に入ればMPは回復するんだ。

 気にすることはない。


 チキッ……


 トリガーにかけた指を引く……



 ドゴオォォォォォォォンッ

















 ガラッ カランッ


 辺りは土煙に覆われている。


 ゆっくりと煙が晴れていく。


 そして目の前に見えるのは……


「お、おい! 見ろ! トンネルが出来てるぞ!」

「すげぇ! 一体どんな魔法使ったんだよ!」

「これならラーデまですぐだな!」


 獣人の歓声が聞こえる。だが俺はその声には応えられない。

 今にも意識を失いそうだからな……


 俺の代わりにルーが獣人達に指示を出してくれた。


「ぼやぼやするな! まだ穴が開いただけだ! 落盤しないように天井を補強しておけ!」


 ガシッ


 ルーは俺の腕をつかんで起こしてくれた。

 レールガンを撃つとフラフラになることは昨日伝えてある。


「おい、大丈夫か!?」

「あぁ、何とかな…… すまんが今から風呂に入らせてもらうぞ……」


 激しく場違いではあるが、魔力を回復するためだ。

 急ぎルーは土魔法を駆使して一人用の浴槽を作ってくれた。


「こんなもんでいいか…… おい、準備出来たぞ!」


 ありがとな。俺は浴槽に目掛け湧出を発動する!


 ブシャァァァッ


 勢いよく温泉が噴出する。

 俺は温泉に浸かり、魔力回復に努めることにした。

 決してサボってるわけじゃないぞ。



◇◆◇



 その後もレールガンを撃っては温泉に入るのループを繰り返す。


 その間土魔法を使いすぎて魔力が無くなった獣人を風呂に入れたりしている内にかなり時間が経っていた。

 

 灯り取りと換気のために所々で崖側に向かってレールガンを撃ったのだ。

 トンネルの先には綺麗な夕日が見える。


「今日はここまでにしようか」

「そうだな。おいお前ら! 今日は終わりだ!」

 

 ルーの指示を受け、獣人達は各々休息を取る。

 休む場所がトンネルの中なので居心地は最悪だ。

 だが贅沢も言ってられん。


 俺もどかっと床に座り堅パンと干し肉をかじる。


「まず……」


 本当は温かい物を食いたいのだがここはトンネルの中だ。

 下手に火を使えば一酸化炭素中毒になってしまうからな。


 ふふ、それにしてもおかしいな。俺は時間操作で寿命を止めている。その弊害か何も食べなくても生きていけるはずなのに。

 アリアと過ごす中で、何故か心が食事を欲するようになってしまった。

 アリアはしっかり食べてるだろうか?

 かわいい弟子を想いつつ、適当に食事を済ませると……


「がははは! タケ、今日は大活躍だったな!」


 熊獣人のルーが笑いながら俺の横に座る。

 ルーは俺を誉めてくれたが、こいつの土魔法、そして獣人達の指示出しなど見事なものだった。

 

「それはこっちの台詞だ。あんたリーダーの素質があるな」

「よせよ。上に立つのなんかめんどくせえ。そんなのは団長に任せて、俺は気楽にやってる方が性にあってるよ」


 はは、ルーも俺と同じ考えだったか。

 こいつとは上手くやってけそうだな。


「しかしよ、今日だけで百キロは進んだんじゃねえか? 見てくれ、恐らく俺達は今ここにいる」


 ルーは地図を出して俺に見せる。どれどれ?

 百キロ進んだということは…… 

 後二日掘り進めればラーデ付近に出られるな。


「それにしてもトンネルを掘るとは恐れ入ったよ。これなら西の街道の出口に魔女王軍がいても後ろから攻撃出来るだろうな。ふふ…… あいつら皆殺しにしてやるぜ」


 皆殺しか。よほど恨んでいるのだろう。

 そういえばルーも収容所で連れ去られた獣人達の行く末を知っているのだろうか?

 フゥは誰にも言っていないって言ってたな。

 一応聞いてみよう。


「なぁ、少し聞くが…… フゥから聞いたんだが、収容所でアイヒマンに連れていかれた獣人のことを聞いたんだ。あんたも彼らがどうなったのか知ってるのか?」

「いいや? でも団長はアイヒマンにバクーに連れていかれたって言ってたぜ。あの中には俺の嫁さんがいるんだ。もしかしたら死んでるかもな…… だが俺は諦めねえ。必ず見つけてみせるさ」


 マジかよ…… これは言えないな。


「そうか。見つかるといいな」

「あぁ。それじゃ俺も寝る。また明日な」


 ルーは立ち上がり暗闇に消えていった。

 

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