第159話 選択
コポコポコポコポッ
リァンこと諸葛孔明は俺にお代わりの茶を淹れる。
だが飲む気にはなれない。
衝撃の告白を聞いてしまったからだ。
俺はリァンの話を聞いた。
戦争を始めた理由を。
それは全ては魔女王ルカこと、ここにいる日本人の少女、佐藤 留佳を日本に帰すためだと。
門というのは任意の場所に転移するゲートを開くという能力だろう。
だが門を開くには鍵を呼ばれるギフトを持つアリアが必要だった。
それだけじゃない。
発生した門は小さく、人が通れる大きさではない。
門を大きくするには多くの魂が必要だと。
つまり戦争で犠牲になった人々は留佳を日本に帰すための生贄だということだ。
リァンは淹れたての茶をゆっくりと飲む。
そして再び語りだした。
「では続きを…… 私はアリアを見つけるのと同時に戦争を起こし、多くの魂を集めてきました。ルカを日本に帰すために。
ですが貴方が現れ、魂を集めるのが難しくなってきたのです。なのでもう一つの方法を試すことにしました。それが今降っている黒い雪です。
本来門を開くには一定量の魂を門に注ぎ込む必要があります。ですが先に門を開いてから魂を注入する方法もあるのです。
しかし先に門を開くと集める魂の量を調整出来ません。門は無差別に魂を喰らっていきます。恐らく生き残れるのはこの大陸に住まう全ての者の一割にも満たないでしょう。最悪全ての者の魂が必要になるかもしれません」
「…………」
俺は先程から一言も喋っていない。
ことが大きすぎて対処しようがないからだ。
俺の理解を超えている。
一つだけ分かるのはこのままではみんな死ぬってことだけだ。
どうすれば止められる?
どうすれば門を閉じられる?
門の発動者たる留佳を殺すか?
リァンを殺すか?
それとも仲間を見殺しにするか?
分からない俺は考えるだがさっぱり案が浮かんでこないあたりまえだずるいじゃないかこんなのあとだしじゃんけんだろそれモウケッカハキマッテルノニカイケツデキルワケモナイノニナニレイセイニイッテンダヨコイツサスガサンゴクイチノグンシダナダガキニイラナイダッテヒキョウジャナイカソンナノナットクデキルカウケイレロトイウノカオレニハモウナニモデキナイノカソンナノ納得出来るわけないだろ!!
ジャキンッ ピトッ
俺はハンドキャノンをリァンの額に突き付ける!
「門を閉じろ! 今すぐにだ!」
「撃ちなさい。ですが私を殺しても何も変わりません。その内南の国バルルまで雪が降り多くの者が死にます。そして門が開き、ルカは日本に帰るだけです。その未来は変わりませんから」
「…………!?」
ちくしょう! ならば留佳を……
俺は留佳に銃を向け……られるわけがない……
「リァン……」
「大丈夫ですよ。タケオ殿は敵ではありません。貴女の味方ですよ」
そうだよ…… 撃てるわけないじゃないか。
同じ日本人でありながら、親に会いたいと願い、必死で生きてきた少女の命を絶てと?
俺はどうすればいい……
このままではみんなは……
いや、ここで嘆いていても仕方ない。
まだ考える時間はあるはずだ。
俺は銃をしまいリァンに話しかける。
「止める方法は…… 無いのか?」
「…………」
リァンは二杯目の茶を飲み干してから……
「あります。ですが誰かしら死ぬことになります。それでも良いですかな?」
「結構だ。話せ。このまま黙って時を過ごすのなんか御免だからな」
「分かりました…… タケオ殿には四つの選択肢があります。心して聞いてください。
一つ。このまま何もせず時が経つのを待つ。多くの者は死にますが、ルカ、そして貴方の恋人でもあるアリアの命は助かるでしょう。
二つ。ルカを殺す。そうすれば門は閉じられ、仲間の命は助かるでしょう。もちろんアリアの命もです。
三つ。アリアを殺す。鍵を失えば強制的に門は閉じます。仲間は助かりますが、ルカは日本に帰ることは出来ません」
「ふざけんな! どれも救いようがないだろうが! そうだ! 留佳、門を閉じろ! 俺と一緒に異界を巡ろう! 時間はかかるだろうが、必ず日本に帰れるはずなんだ!」
俺のギフトの一つである空間転移は異界に渡る能力だ。
だが行きつく先はランダムなので、狙った場所に転移することは出来ない。
時間はかかるだろうが、この方法なら……
「タケオ殿、門はすでに発動しています。もう私達の力では止めることは出来ません。諦めてください」
「そ、そんな……」
ズシャッ
俺は膝から崩れ落ちてしまう。
諦めるしかないのか?
このままでは誰かしら死ぬ。
愛を取るか、友情を取るか、もしくは同郷の不幸な少女の命を奪うかだ。
こんなのってないだろ……
「タケオ殿…… まだ四つ目を言ってませんよ? 聞きますか?」
そうだったな。方法は四つあると言っていた。
選択肢は多いほうがいい。
聞かなくちゃ……
「話してくれ……」
「では…… 集める魂についてです。私は大陸にいるほとんどの命が必要だと言いました。ですがもう少し多くの命を救う方法があるかもしれないのです。それが第四の選択肢です。
タケオ殿は分析が使えますね? 分析を発動し、あの門を見てごらんなさい」
門を? それにしてもリァンめ。俺の能力についても把握していたか。
やはり間者を抱えていたということなのだろう。
今となってはどうでもいいがな……
俺はリァンに言われた通り分析を発動する。
すると……
門:発動中
SP:3564309/5000000
こんなステータスが目に浮かんできた。
SPか。これは魂の量を言っているのだろう。
一人一つとして後百五十万人以上の魂が必要だということか。
なるほどな。このまま放っておけば大陸に住まうほとんど全ての者が死に絶えるだろう。
だがこれが一体なんだというのだ?
俺に絶望を見せたかっただけか?
「見えたようですね。先程ユンが死んだのが分かりました。もちろんユンの魂も門に食われてしまいましたが……
ですがユンの魂が門に食われる前は数値は三百二十万程度でした。恐らくですが、強き者の魂は質が高いのでしょう。先に強者の魂が門に入れば犠牲が少なくなるはずです。
タケオ殿…… 貴方が犠牲になるのです。そうすればきっと門は開き、そしてルカは日本に帰ることが出来ます。アリアや友人も生き残ることが出来るでしょう。
もしタケオ殿の魂で足りない場合は……」
ユンは俺に近寄り、小声で話しかける。
留佳に聞こえないように……
「私が後を追います…… 貴方ほどではありませんが、私の魂も足しにはなるでしょう。私とユンはルカ無しでは生きられないのです。ルカが日本に帰ってしまえば眷属化の契約は切れ、転移してきた状態に戻ってしまいます。
私はもう長くはないのですよ。ですが…… 私が死ぬところを見るとルカが悲しがりますからね……
厚かましいお願いではありますが、第四の選択をお選びの際は貴方からお願いします……」
「…………」
言い終わるとリァンはルカのところに帰っていく。
「ねえ、リァン。おじさんと何話してたの?」
「ははは、なんでもありませんよ。さぁルカ、そろそろ帰る支度をしませんとね」
二人は何事も無かったように和やかに会話をしている。
俺には四つの選択肢が与えられた。
仲間を見殺しにする。
留佳を殺す。
アリアを殺す。
そして…… 俺自身が犠牲になる……
この四つの中から選ばなくてならないのか……
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