第154話 決戦 其の十二
俺達は今驚くべきことを聞いた。
戦争の原因はアリアにあるということを。
俺の真向いに座る元魔女王軍の将、クロイツは言ったのだ。
魔女王ルカの国コアニマルタは特別なギフトを持つアリアを狙って魔族の国コアニヴァニアに戦争を仕掛けたと。
たしかにアリアは特別なギフトを持っていた。
『鍵』だったよな。だが発動方法が分からず、何の効果かも分からない。
そういったギフトはたしかに存在する。
俺も異世界を周る中で謎の能力をこの目で見てきたからだ。
だから俺はアリアのギフトには固執せず、彼女の能力を伸ばしてきた。
ここに来て奴等の本当の目的が分かった……
ルカは他国に戦争を仕掛けた理由を。
奴等は支配を目的としていない。狙いはアリアだったのだ……
だが疑問も残る。
アリアだけを狙うなら別に戦争を仕掛ける必要は無い。
間者なりを使って拐えばいいだけの話だ。
それが出来たはず。だがそうしなかった。
クロイツが魔女王軍から抜けてきたのに理由があるのかもしれない。
もう少し話を聞かないと……
ん? 目の前に座っているクロイツが明らかにソワソワしている。
トイレか?
「トイレならそこのドアを出て……」
「違う! タケオ殿! 私達には時間が無いのだ! 早く南に逃げないとここで皆死ぬことになる!」
「「「…………!?」」」
死ぬだって? みんなは驚いてるみたいだけど、俺はもう覚悟を決めている。
「いいや、死ぬのはルカの方だ。前回はやられはしたが、こっちはもう体制を整えている。これからコアニヴァニアに進軍して……」
「そういうことではない! 違うのだ…… このままでは……」
クロイツは言葉を詰まらせる。
違う? 何が違うっていうんだ?
「話してくれ……」
「あぁ…… リァン様は…… 門を開けるつもりなのだ……」
門? 何のことだ?
ザワザワッ
クロイツの言葉を聞いたベルンド達がざわめき始める。
明らかに同様しているのが分かる。
「門? ま、まさか…… 捕食者のことか?」
「バルルではそう呼ばれているのか。獣人の間では死神と呼ばれている。まさか死神が現れるというのか!?」
「あれっておとぎ話なんじゃないの? エルフの里ではソウルイーターって……」
なんの話をしているんだ?
「グルルルル…… タケは異世界人だから知らないのだな。私も信じていなかったのだが、門と呼ばれる伝承は各国に存在する。バルルでは子供達のおとぎ話として捕食者と呼ばれている。
かつて大陸には我らより栄えていた国が数多く存在していたそうだ。だがある日突然捕食者が天から降りてきてな。大陸に生きているほとんどの者の命を喰らっていったそうだ。
生き残った者は僅かでな。運よく捕食者の手から逃れた人々は苦しみながら生きることになったと」
他にもフゥやサシャの話も聞いたが、似た内容だった。
門…… そしてアリアの持つギフトである鍵……
つまりアリアは門を開けるための鍵ってことなのか?
バンッ
突然クロイツは立ち上がる。
そして俺達に警告を始めた。
「時間が無い! 間も無く黒い雪がこちらでも降り始める! 生きたければ南に向かうしかない! もうすぐここにも降ってくるはずだ!」
「「「…………!?」」」
黒い雪だって!? そ、そういえばラベレ砦に着いた時にフゥから聞いた。
北の大地が黒く染まっていたと……
カーン カーン カーン
警鐘が鳴り響く! 今度は何だよ!?
バンッ
ドアが開き、部屋に入ってきた者がいる。
獣人だが、ひどく焦っている。
「どうした!?」
「う、上に来て下さい! 異常事態です!」
何なんだよ! 俺達は急ぎ階段を上がり、砦の屋上に向かう!
そして目に飛び込んできたのは……
黒
その一言しか浮かんでこなかった。
雪が降っていた。
クロイツの言った通り黒い雪が。
斥候に出ていた飛竜が北の空を飛んでいた。
必死になってこちらに向かってくる。
だが突然力尽きて墜落する。
そして黒く積もった雪の中に消えていった。
「「「…………」」」
言葉を失った。
俺達はただ茫然とその光景を眺める。
雪は次第とこちらにも降ってきているようだ。
段々と白かった地面が黒く染まって迫ってくる。
「タ、タケよ…… 私達はどうすればいい……?」
「…………」
はぁ…… 結局こうなるんだな。
まあいいか。
最初に決めたことを実行するのみだ。
ルネ、俺達の仲間全てに南に向かうよう伝えてくれ。
それとバルルにいる長老にはいっぱいお客さんが行くから優しく出迎えてくれって伝えるんだぞ。
(パパ、恐いの…… 私達死んじゃうの?)
大丈夫だよ。俺が何とかしてくるから。
「フゥ! ベルンド! しっかりしろ! 各町には指示を出しておいた! これから全力で南に向かえ! 指揮は任せた!」
「タ、タケはどうするのだ!?」
「いいから行け! グズグズすると間に合わなくなる! 捕えた人族も連れてってくれ! 縄は切っておくんだぞ!」
「分かった! 皆、急げ! 逃げるぞ!」
バタバタバタバタバタバタッ
フゥの指示に従い、皆砦を出ていく。
ここに残ったのは俺……とベルンド。ルネもいるな。
「逃げないのか?」
「グルルルル…… 逃げるさ。だがな、その前に聞いておきたい。行くんだろ?」
「キュー……」
そういうことだ。
話に聞くとあの雪は毒、もしくはドレインの効果があるみたいだな。
俺一人なら気を纏えばある程度ではあるが防げるだろう。
「そうだ。結局こうなっちまったな。すまん」
「ははは、タケは頭がいいのか馬鹿なのか分からんな。伝承に過ぎないがあの雪の中を一人で進むのだ。死ぬぞ?」
「そうならないよう努力するさ。君子危うきに近寄らず。俺は君子じゃなかったってだけのことさ。ほら、お前らも行けよ。間に合わなくなるぞ」
「キュー……」
ガシッ
(パパ、行っちゃ嫌なの…… 一緒に逃げるの……)
大丈夫。必ず帰って来るから。
アリアを助けて、あの黒い雪を止めてみせる。
約束するよ。
帰ってきたらまたいっぱい遊ぼうな。
(パパ! 駄目なの! 一緒に来るの!)
バッ
ルネをベルンドに預ける!
「頼む! 行ってくれ! ルネを頼む!」
「グルルルル! 生きて帰ってこい! 必ずだ!」
「キュー! キュー! キュー……」
ルネはベルンドに抱かれ、砦を出ていった。
下を見ると大勢の兵士が俺に手を振っている。
ははは、いいからさっさと行けよ。
これ以上は見ていられなかった。
名残惜しくなっちまうからな。
俺は一人屋上に残り天を仰ぐ。
間も無くここにも黒い雪が降ってくるだろう。
懐からタバコを取り出す。
火を付けて深く吸い込む……
「ふー……」
立ち上る紫煙を眺める。
もう一度深く吸い込むとチリチリを先が赤く燃えた。
「ふー…… それじゃ行くか……」
ジュッ
吸い殻を投げ捨て、俺は誰もいなくなった砦を出る。
しまった。ポイ捨てしちまった。
喫煙者の風上にも置けん。
後で片づけにこないとな。
全てを終わらせてから帰って来るんだ。
アリアと一緒にな。
ギュッ ギュッ
俺は雪を踏みしめ歩く。
向かう先は北だ。
ルカ、そしてリァンがいるであろうコアニヴァニアに入る。
間も無く最後の戦いが始まる。
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