第108話 手がかり 其の一

 ルネは俺の膝に座って自信有り気に顔を見上げる。

 俺の話を聞いていたらしく、ドワーフの錬金術師ソーンを見つけるための案を持っているらしい。

 

 ルネ、話してくれるか?


(はいなのー)


 ルネの考えが頭に入ってくる。なになに……?

 サイコメトリーを使うだって? それでソーンの居場所が分かるっていうのか。

 でもサイコメトリーを使うには探す対象の所持品を触る必要があるんだろ? 

 俺達がソーンの持ち物を持ってい…… いや、なるほどな。

 

(パパ、頭いいのー。分かっちゃったのー)


 ははは、ありがとな。つまりこれだろ? 

 俺達の前にはソーンが作ったというポーションがある。

 所持品というより商品ではあるが、ソーンが作ったものに変わりはない。


 これを使ってソーンの居場所が分かるんだね?


(そうなのー。でもこれだけじゃ詳しく分からないの。ボンヤリ見えるだけなの)


 ルネの話では今の状態ではざっくりどこにいるか分かる程度らしい。詳しく調べるにはもう少し情報がいるな。


 そうだ。魔物の死体にもソーンの薬が残ってるかもしれないだろ? ポーションよりは得られる情報は少ないかもしれないが、無いよりはマシだ。

 ルネ、やれるか?


(ちょっと怖いけど頑張るの! アリアを助けるためなの!)


 ありがとな。なら善は急げだ。俺はルネと一緒に魔物の死体を調べに行くことにした。

 席を立とうとした時フゥが話しかけてくる。どうしたのかな?


「すまん。私達にも何かさせてくれ。アリアは大切な仲間なんでな。家族みたいなものだ。このまま何も出来ないでいるのは歯痒くてな……」


 とフゥが悲しそうな表情を浮かべる。

 昔を思い出すな。死んでしまった妻ララァがいた世界を。

 あの世界も種族同士で争っていた。お互いを憎みあい、手を取り合うことなんかなかったんだ。

 でも俺とララァが新しい国を作って、そして俺達の考えに同調してくれる人が集まって、最後は世界から争いを無くすことが出来た。


 この世界も同じだな。他種族に排他的な考えを持っている竜人族が、同種族同士で殺し合いをしていたエルフが、そして人族に恨みを持っている獣人族が俺と一緒に戦ってくれている。


 そう思うと思わず目頭が熱くなってしまう。


(グスン。パパ、泣かないで欲しいの。どこか痛いの?)


 ははは、違うよ。嬉しいんだ。だからちょっと涙がね。


「どうしたのだ? 何か変なことを言ったか?」

「いや、何でもないよ。フゥ、ありがとな。もし時間があったらでいい。ソーンに関わる物があるなら探してきてくれ。それと今日も魔女王軍の襲撃があるかもしれない。注意しておいてくれよ」


「分かった! 今日は守りに徹することにする。ならば昨日のようにはいかんさ。安心して仕事をしてきてくれ!」


 ははは、頼もしいことで。そうだな。今日はフゥに任せても大丈夫だろ。

 少し細かい指示だけ出して俺はルネと共に魔物の死体を調べに向かうことにした。



◇◆◇



 

(うーん…… 見えないのー)


 とルネはインキュバスの死体に触りながら眉をひそめている。

 そうか。やはり死体からでは昨日以上の情報は引き出せないみたいだな。

 ルネが見たのは昨日と同じような光景だった。

 魔人が拘束され、そしてソーンに薬を打たれて魔物に姿を変える光景。


 恐らくこのままバクーに行ってもソーンを見つけるには時間がかかる。

 俺がいない間にアリアのEPが尽きてしまえば、体力を消耗しながら変異が進んでしまうはずだ。

 あまり留守には出来ない。長くても数日以内に事を済ませなければ。


(ふー、疲れたのー……)


 とルネが地面にへたり込んでしまう。

 ありがとな。少し休憩にしようか。


 こんな小さい子に無理はさせられない。俺はルネを抱っこしてフゥの家に戻ろうとした。

 その時だ。


 カーン カーン カーン


 警鐘が鳴り響く!? 敵襲か!? 


 俺は急ぎルネを安全な家屋に入れ、すぐに魔銃を構える。

 昨日のように空からの襲撃がくるかもしれない。

 だが魔物は現れず。その代わりに聞こえてきたのは……


「敵襲だ! 人族と魔物の混成部隊! 東から来るぞ!」

「急げ! 門を破られるなよ!」

「仲間の仇だ! ぶっ殺してやる!」


 獣人達は東門に向かっていく。どうする? 今日は調べものをしようと思っていたが…… 

 ん? そうだ! いいことを思いついた! 

 ルネ! すまないがそこにいてくれ! 建物から出るんじゃないぞ! すぐに迎えに行くから!


(ほんと? ちょっと怖いのー)


 大丈夫だ! それと後でお願いしたいことがある! 待っててな!

 建物の中にいた家主にお願いしてルネを預かってもらう。そして俺は急ぎ東門に向け走りだした。


 俺は獣人達を追い、東門に到着。そこには熊獣人のルーがいるではないか。


「お!? タケ様じゃねえか! アリアはもう大丈夫なのか!?」

「そんな場合じゃないだろ! ルー、お前が出るのか?」


「あぁ! 団長に頼まれてな! この部隊はマルカ最強の傭兵部隊だ! 俺達がいれば猫の子一匹通さねえよ!」

「心強いな! すまんが俺も出る! で、ちょっと頼みがあるんだ。可能な限りでいい。接近戦に持ち込んでくれ。それと数人でいいから人族を捕えるんだ」


「捕えるだと!? ぶっ殺しちゃ駄目なのか!?」

「可能な限りだ! こちらに危険が及ぶようなら無理はしないでくれ」


「分かったよ! あんたのことだ。何か考えがあるんだろ? 指示は出しておく! それじゃ行くぞ! 門を開けろ!」


 ギィー…… ズズゥンッ


 轟音を立て、門が開く。


 俺とルー率いる一万人を超える獣人が東門を抜ける。

 目の前には大地を疾走するサイクロプス。

 でかっ。あんな魔物もいるのか。

 それと騎兵の混成部隊か。


 魔物だけでも数を減らしておかないとな。

 敵との距離はおよそ一キロ。後数分でここまでくるだろう。

 ならあの武器だ。

 魔銃を発動する!


【魔銃! スナイパーライフル!】


 ジャキンッ


「相変わらずすげえ力だな!」

「そうでもないさ! ルーも射程に入ったら攻撃頼むぜ!」


 魔法と弓矢ではまだ届かない。ならここは俺の一人舞台だな。


 トリガーに指をかけ……


 ガォンッ


 ビシャアッ


 オドの弾丸はサイクロプスの大きな単眼に命中。

 ごめんな…… 俺は謝りながら次の標的にライフルを向ける。


 ガォンッ


 ビシャアッ


 命中。魔物は頭を吹き飛ばし、地面に倒れる。

 すまん…… 魔物は元はアリアと同じ種族なんだ。

 それを薬によって姿を変え、俺達を襲っている。


 本当は静かに暮らしていただけなのに。

 今は意識を失い魔物として俺達の敵として俺達の前にいる。

 ごめんな。俺は君達を助けられない。

 出来るのは痛みを感じさせずに逝かせてやることだけだ。


 ガォンッ


 ビシャアッ


 その後も俺はスナイパーライフルを撃ち続ける。

 サイクロプスの数は減ってきたが、騎兵は相変わらずこちらに向かってくる。

 そろそろだな……


 俺は武器をライフルから近距離戦闘用の棍に持ち代える。

 オドを通せば剣にも槍にもなる優れものだが、俺の目的はこいつらを生かして捕えること。

 なるべく殺さないようにしないと。


「ルー! 来るぞ! 構えろ!」

「おう! やってやろうぜ!」


 ダッ


 俺は棍を構え駆けだす! 目の前には二人の騎兵!

 敵は同時に俺目掛け槍を突く!


 トンッ


 ビュッ


 槍は俺を貫くことはない。棒高跳びの要領で棍を地面に突き立て一回転。

 そのまま横に振りかぶって……


 振りぬく!


 ゴスゥッ メキョッ


「うげっ!?」「ぐぉ……」


 しまった! 力を込め過ぎた! 一人目の頭蓋が兜ごと陥没する。即死だな。

 だが一人は生きている。そのまま死ぬんじゃねえぞ!


 次だ! 騎兵が四人俺を囲む! 


 ダッ ダッ ダッ ダッ


 円を描くように馬を操る。そのまま距離を詰めて刺し殺すか? 

 させるかよ。俺の棍はある程度だが伸縮自在。横に構え、一気に……


「伸びろ!」


 ブォンッ


 バキィッ ベキィッ バキィッ ボキィッ


『ヒヒィーンッ!?』

「うわぁっ!?」


 ドサッ


 俺が狙ったのは馬の足。馬も専用の鎧を装着しているので防御力は高いだろう。

 でもな、俺の棍は特別製でな。神木ユグドラシルの若木を削った逸品なのだ。

 折れず、曲がらず、そして無用に人を傷付け過ぎない。

 一人殺しちまったけどな。


 俺は落馬した騎兵に突きを打ち込む。

 水月を打たれた兵士は反吐を吐き、ダウンする。

 これで一日は動けないだろ。


 まだ次々に騎兵はやってくる。周りを見ると殺されている獣人もいるな……

 ルーは勇敢に槌を振るい、騎兵の頭を叩き潰していた。

 だがその体には多くの傷を負っている。


 そろそろ限界か……


「弓隊! 魔法部隊! 攻撃開始! 援護頼む! ルー! 生きてる敵を捕えろ! そのまま撤退だ!」

「何だよ!? まだ戦えるぜ!」


「いいんだよ! 敵の数は減っている! これなら門は守れるはずだ!」


 一連の戦いで主力のサイクロプスはほとんど倒したことになる。

 騎兵だけではラーデの分厚い城壁は破れないだろう。

 

 俺の指示に従い、獣人はラーデに戻り始める。

 

「よし! これで最後だ! 門を閉めろ!」

「おう!」


 ギィー…… ズズゥンッ


 はぁはぁ…… ちょっと疲れたな。だが敵軍に被害を与え、そして門は守られた。

 結果は上々だろう。それに俺の目的も果たせたしな。


 獣人達は魔女王軍の兵士を捕えた。その数、全部で二十人か。


「ふぅ…… 何とかなったな。でもよ、こいつらを捕えてどうすんだ? 見せしめに殺すのか?」


 とルーは聞いてくる。

 違うんだな。俺が考えているのは……

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