第107話 愛してる 其の二

「愛してる……」

「私もです……」


 俺達はお互いを求めあった。


 何度も何度も交じり合う。


 今アリアの命を救うにはこれしかなかった。


 可能な限り。

 体力が続く限り。

 俺の精をアリアに放つ。


 そして幾度目だろう。もう数えていなかった。

 最後の精を吐き出し、俺達は共に果てる。

 そして意識を失うように俺達は眠っていた。









「んぅ……」


 アリアの声を聞いて目が覚める。

 彼女は俺の腕の中で眠っていた。

 優しくその頬を撫でると、ゆっくり目を開ける。

 顔色は良さそうだな。


「おはよ」

「…………」


 答えない。いつものように頬と耳を赤くしてうつむいてしまった。


「もう、酷いですよ。あんなにいっぱいするなんて……」

「痛かったか?」


 上手く出来なかったか? たしかにいたすのは久しぶりだ。数千年はその手の行為はしていなかったからな。


「ううん…… タケオさんは優しかったです。でも…… し過ぎですよ……」

「ははは、それは否定出来ない」


 ふふ、もう大丈夫そうだな。これで当面の危機は去ったということだ。

 だがアリアの変異は解けていない。未だサキュバスの姿を留めている。

 ステータスを確認してみるか。アリアに向け分析を発動する。



名前:アリア

年齢:19

種族:???

HP:3590/4083 MP:4994/5800 EP:3542/3809 

STR:4509 INT:6096

能力:水魔法10

ギフト:鍵


状態:

変異:進行中 87/100

魔力消化:重篤

精力枯渇:軽微

魔力阻害:重篤


New! 

ギフト:時間操作(解除不能)



 よかった。やはり俺の精を取り込んだことで体力と魔力が回復している。

 精力枯渇も軽くなっているな。

 だがこれもやはりといったところか……

 新しいギフト、時間操作が付与されている。

 しかも解除不能か……


 伝えなくちゃな。


「アリア、少しいいか?」

「は、はい……」


 俺達は裸のまま向かい合う。

 そしてアリアの頬に手を置いてオドを流す。

 これで自身のステータスを確認出来るはずだ。


「アリア、すまない。俺のせいで……」

「ん……」


 アリアは俺の言葉をキスで遮る。

 そしてゆっくり口を離し、少し怒った顔で俺を見つめる。


「もう…… そんなこと言わないでください。タケオさんは私の命を救ってくれました。初めは転移の森で。そして今回もです。だから謝らないでください。私は感謝してるんですから。

 それに…… 嬉しいんです。これでタケオさんと同じ時間を生きることが出来るんだもん」

「アリア……」


 その言葉を聞いて何も言えなかった。この子は覚悟してたんだ。

 こうなることを望んでいてくれたんだ。

 嬉しいよ…… でもな。まだなんだ。


「まだ命の危機は去っていない。ステータスを見たから分かるだろう。変異はまだ進行中だ」

「はい、分かってます。自分のステータスを見て分かりました。私は変異を自分の意思で防いでいます。でもそれは体に負担をかけます。このEPっていう項目ですね。これが無くなったら徐々に体力を奪われる…… 

 自分の体ですから。分かるんです」


 そうか。今は体力魔力共に充実しているが、変異の進行を止めるためにアリアは頑張っているのだろう。

 幸い今は変異は止まり、自身でその進行を食い止めている状態だ。

 だがこのままでは……


「アリア、大人しくしてるんだ。このままではその内完全に魔物に変異してしまう。恐らく進行度が百に達したら……」

「私の心は死ぬっていうことですよね……?」


 分かっていたか。恐らくそういうことだ。

 完全にアリアを救うには進行度をゼロにする必要がある。

 元の姿に戻してあげなくちゃ。


「どうすればいいかはこれから考える。だがな、必ず助ける」

「んふふ、期待して待ってます」


 と言ってかわいく笑う。あれ? 心配してないのか?

 アリアに聞いてみると……


「だって信じてますから。私タケオさんの恋人ですよ。好きな人を信じるのなんて当たり前でしょ?」

「ははは、なるほどね。それじゃ俺はこれからどうするか考える。アリアはここで大人しくしてるんだぞ」


「大丈夫です! 今は少し動けますから! あ……」


 立ち上がろうとしたが、アリアはベッドに倒れ込む!? だ、大丈夫か!?


「こら、無理しないでくれ! 体力は回復したが、変異は続いてるんだ。無理して体力を使うと変異が早まるかもしれない。いいね、大人しくしてるんだ!」

「はい…… ごめんなさい……」


 俺はアリアを寝かせ、床に投げ捨てた服を着る。これでよし……

 部屋を出る前にアリアに軽くキスをしておいた。


「行ってくるよ」

「あ、あの……」


「なんだ?」

「あの…… 今夜も来てくれませんか? わ、私まだ完全にEPが溜まってないみたいだし……」


 お、おう。お誘いを受けてしまった。

 これは来るしかないな。

 少し腰が痛いが、アリアのためだ。


「分かった。それじゃ!」

「行ってらっしゃい!」


 バタンッ


「おはよう!」

「うわ!? び、びっくりした!」


 部屋を出るとそこにはフゥが立っているではないか。

 ちょうどいい。フゥに話があるんだ。


「すまん。相談に乗ってくれ」

「相談? タケよ。その前にだな…… ここは仮とはいえ、私の家なのだぞ? それをお前、あんな大声出して…… アリアは大丈夫なのか?」


「キ、キコエテタノカ……?」

「聞こえないほうがおかしいだろ。それも一晩中…… あんな声を聞かされる私の身にもなってくれ」


 俺はフゥに謝ることしか出来なかった。

 


◇◆◇



 俺はお詫びとしてフゥに濃い目のコーヒーを淹れる。

 フゥは飲み慣れたようで、砂糖も入れずブラックのままコーヒーをすする。


「美味いな。で、相談とはなんだ?」

「それなんだがな……」


 俺は昨日ルネと一緒に見た魔物の記憶について話す。

 魔物が元は魔人であったこと。

 アイヒマンが関わっていること。

 ドワーフのソーンという男のこと。

 見たこと全てを話す。


「くそ…… アイヒマンめが。あの悪魔は人の命を何だと思っているのだ?」

「すまん。ラーデを落とす時に殺しておくべきだった。で、ここまでで何か気付いたことはあるか? もし何か知ってるなら教えて欲しい」


 たしかフゥを含めて獣人は隣国バクーで出稼ぎをしていたはずだ。

 ドワーフと関わりがある者が多いはず。

 それにソーンという男が作った薬だ。あれが魔人を魔物に変えた。

 それについて聞いてみると……


「いや? そんな薬は聞いたことはない。だがソーンという男は知っている。直接は関わりは無いが彼は有名な錬金術師だ」

「錬金術? ドワーフが?」


 これは俺の中のイメージでしかないが、ドワーフってのは無骨で鉄を打っているイメージだ。どちらかというと脳筋って感じだな。


 まぁ所変われば姿も変わるか。現にサイコメトリーで見たソーンの姿はほとんど人族だったし。


「ドワーフが鍛冶だと? ははは、そんなわけあるか。たしかに彼らは地下にいるのが好きだがな。ドワーフは手先が器用でな。だから薬の配合に向いているのだ。

 彼らが作るポーションは最高だぞ。これを見てくれ」


 チャポンッ

 

 フゥはテーブルの上に赤い液体が入った瓶を置く。

 これは?


「ソーンが作ったポーションだよ。これは強烈でな。ソーンにしか作れない。筋力を一時的に高め岩を土のように掘ることが出来た。この薬のおかげでだいぶ稼がせてもらったよ」


 ほう、そんな薬を。すごいな錬金術って。

 フゥの話ではポーションの調合方法は広く出回っているが、誰でも作れるものではないらしい。

 配合が難しく、砂粒一つの重さの誤差が出ると効果を失うそうだ。

 だがドワーフは生来の器用さで、質の高いポーションを作り続けていると。

 そのソーンが魔人を魔物に変える薬を作ったのか……


「だが信じられん。ソーンという男は実直で、曲がったことが嫌いな男だと聞く。そんな男が魔女王に協力するなど……」

「アイヒマンが関わってるんだ。弱みを握られてるってとこだろ」


 これでかなり情報が集まったぞ。やることは決まったな。

 ソーンに会う。魔人を魔物にする薬を作ったくらいだ。

 それを戻す薬だって作れるかもしれない。

 むしろアリアを助けるにはソーンに頼るしかないだろう。


 だがどうする? どうやってソーンに会う? 

 このまま大軍勢を率いてバクーに侵攻するか? 

 駄目だな。今の目的はアリアを救うことだ。

 それに今ソーンがどこにいるかも分からない。


 俺が悩んでいると……


「キュー!」


 ん? この声は……


「ルネ。どうしたんだ?」

「キュー!」


 と鳴いて俺の膝に乗ってくる。

 そしてそのまま俺の顔を見上げて……


(話は聞いたの! パパ! 私の出番なの!)


 ルネが? よく分からんが、ルネは自信満々だ。

 今はルネの話を聞いてみよう。

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