第101話 襲来 其の四

 城塞都市ラーデに朝日が昇る。そして俺は寝不足だ。

 昨日寝る前にアリアがお気に入りのランジェリーを着て、その姿を俺に見せてきた。


 俺に見せたかったと言って、恥ずかしい気持ちを抑え顔と耳を真っ赤にさせながらお披露目してくれたのだ。

 かわいいというよりは、むしろエロい。もう興奮してしまい眠ることが出来なかったのだ。

 中学生か俺は。


 いくら眠くても敵は待ってくれない。気合い入れないとな。コーヒーを淹れ、ブラックで一気飲みだ。

 

 グイーッ


 あちち。でもこれで少しスッキリしたな。俺を興奮させた悪い子は俺の横で朝ごはんを食べている。


「んふふ。美味しいですね。ノルから食材を持ってきて良かったです」


 今日もアリアはごはんを作ってくれた。今日は炊き立てごはんと味噌汁、梅干しと川魚ではあるが干物を焼いてくれた。

 うん、純日本食だ。上手に作るようになったなぁ…… これから戦いがあるなんて信じられないくらい平和な光景だ。


 ルネも器用に箸を使いごはんを食べる。そうだ、今日はルネはお留守番なのだ。

 ごめんな。すぐに帰って来るから。今日はここで大人しくしててな。


(少し寂しいのー。でも待ってるのー)


 ありがとな。何かあったらすぐに知らせてくれ。


 しっかりごはんを食べて建物を出る。

 ルネ、行ってきます。



(いってらっしゃいなのー)


 外に出ると獣人達は戦いの準備をしていた。

 フゥもいるな。俺に気付いたのか、こちらに寄ってきた。


「タケよ。同胞には既に指示は出してある。昨日話した通りで問題無いな?」

「あぁ。だが一つ伝え忘れていた。今回は俺が先制攻撃をかける。他の者は周辺警戒に当たってくれ」


 ザワザワッ


 俺の言葉に獣人達がざわつき始める。


「どういうことだ? タケが強いのは知っているが、一人で魔女王軍に突っ込むつもりか?」

「ははは、違うよ。たしかにあの距離を攻撃するには矢や魔法では無理だ。でも俺にはこれがあるからな」


 俺は魔銃レールガンを発動する。


 ジャキンッ ドスンッ


「おー……」

「すげぇ……」

「俺、あの武器見た事あるぜ!」

「西の岩山に大穴開けたやつだろ?」


 俺と一緒に西の街道を進んだ者もいるのだろう。ある程度は知られているようだ。

 フゥはレールガンを実際に撃つのは見たことがなかったはずだ。


「その武器は…… 以前見た物だな? 不思議な力を持っているのは知っていたが……」

「これなら魔女王軍の陣に届くはずだ。だが一発撃つ度に魔力を回復しなければならない。その間、俺は無防備になるからな。万が一のことを考え、いつでも戦える準備はしておいてくれよ」


「わ、分かった。では前はタケに任せる。ではお前達! 配置に着け! 城壁上には迎撃部隊! 他は周辺警戒に当れ!」

「「「おーーー!!」」」


 獣人達はフゥの指示を受け、散っていく。

 さて俺達も行くかな。おっとしまった。フゥにお願いするの忘れてた。


「すまない。ルーはいるか?」

「ルー? もちろんだ。奴に何か用なのか?」


 ふふ、久しぶりにルーの作った風呂に入りたいからな。

 レールガンを撃つとMPのほとんどを消費してしまう。

 だが湧出で湧いた温泉に入れば回復出来るのだ。

 せっかくだからいい湯船で温泉を楽しみたい。


「ははは、なるほどな。後で向かうよう伝えておく」

「助かる。それじゃ後でな」


 まるで戦いに赴くとは思えないほど、和やかな会話をする。

 さてそろそろ行くとするか。


 俺達が東門に着く頃、後ろから俺を呼ぶ声がする。


「おーい、タケ様ー」


 振り向くと熊のルーが全力でこちらに向かってくるではないか。


「はぁはぁ…… 呼んでくれたみたいだな。嬉しいぜ! あんたとまた一緒に戦えるんだな!」


 あれ? フゥから聞いてないのか? 風呂を作ってもらえればいいのだ。恐らくそれ以外に出番は無いぞ。

 そう伝えるとすごくガッカリされた。


「なんだよ…… つまんねぇな」

「ははは、そう言うなよ。あんたの風呂は最高だからな。そうだ、今度ノルに来てくれよ。みんなにあんたが作った風呂に入ってもらおうぜ」


「がはは。考えとく。だが魔女王をぶっ殺してからにしとくわ。ほら、さっさと行こうぜ! おーい、門を開けてくれー!」

「はいよー!」


 ギィー……


 轟音を立て城門が開く。ルーは俺のために早速土魔法を発動し、セカセカと露天風呂を仕上げていく。今回は俺一人でいいので、小さい風呂を作ってもらうことにした。


「先生いいなー。私も入りたいですぅ……」

「遊びにきたんじゃないんだから……」

「がはは。でも戦いの最中に風呂に入るなんて、世界であんただけだろうな」


 違いない。だが仕方ないだろ? 魔力を回復するには温泉に浸かるしかないのだ。

 勝つためだ。うん、これは仕方のないことなのだ。と自分に言い聞かせる。


 湧出を発動させると、みるみるうちにお湯は溜まっていく。

 簡単だがこれで全ての準備が整った。

 後はレールガンを撃ち込むだけ。


「いいみたいだな。それじゃ俺は戻るよ。タケ様、気を付けてな」

「あぁ。お前もな」


 ルーは持ち場に戻るそうだ。

 それじゃ俺も仕事を始めよう。


「アリア、少し離れててくれ」

「はい! 先生頑張ってくださいね!」

 

 ん? 先生だって? アリアは俺と付き合いだしてから名前を呼んでくれるようになった。

 でも未だに先生って呼ばれる時もある。別に構わないが、呼び分ける理由があるのかな?

 一応理由を聞いてみよう。


「ふふ、だって恥ずかしいんですもん。外にいる時は先生って呼びますね。二人でいる時は名前で呼んでもいいですか?」


 と、ちょっと頬を染めている。なるほどね。まだ照れがあるのだろう。

 それじゃ先生、頑張っちゃおうかな!


 ジャキンッ


 俺は匍匐体勢を取り、レールガンを構える。

 スコープに目を当て、狙いを定める。

 高性能スコープを使っても、さすがに五十キロ先の標的はハッキリは見えないな。

 まぁ当ればいいさ。あくまでこの攻撃は牽制だ。


 レールガンの威力は半端じゃない。

 だが与えるダメージはどんなに威力が高かろうと点のダメージでしかないのだ。

 速度が音速を超えるので多少の範囲ダメージは狙えるが、グレネードランチャーほど広範囲ではないしな。

 

 よし、スコープ内に魔女王軍の陣を捉えた。

 トリガーに指をかける。


「アリア! 耳を塞いでろ!」

「はい!」


 チキ……


 ズガアァァァァァンッ











 爆音と同時にスコープで捉えた魔女王軍の兵士が宙を舞う。

 陣からもうもうと煙が上がる。


 これでよし…… 魔女王軍は混乱しているだろうな。

 これを何回か繰り返せば撤退してくれるかもしれない。

 だが今は…… 少し休まないとな。


「先生! 大丈夫ですか!?」

「すまん…… 手を貸してくれ……」


 俺はアリアに肩を貸してもらい、温泉に向かう。

 MPが回復するまで温泉に浸からないと。


 チャポンッ


 湯に浸かると、じんわりと魔力が体内に入ってくる感覚を覚える。

 気持ちいいな…… ははは、戦いの最中とは思えん。


「あー、いいなー。私も入りたいですぅ……」

「アリアは後でな。大丈夫だと思うが警戒は怠るなよ」


「はーい。先生は私が守りますから安心してくださいね!」

「心強いな。頼むよ。アリア、戦いが終わったら一緒にどうだ?」


「え……? んふふ、先生のエッチ」


 それはイエスと受け取っていいのだろう。

 さてと、次の攻撃は三十分後だ。それまでゆっくり風呂を楽しむか。

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