第四の国バクー

第97話 報せ

 ピチチッ ピチチッ


 ん…… もう朝なの? 私は一人、ベッドを抜け出す。


 シャッ


 カーテンを開けると、外はよく晴れていて今日も一日良い日だと予感させてくれる。

 ふふ、世界が輝いて見えるね。


 トントントントンッ


 階段を降りて一階のキッチンに向かう。

 お米を研いで、お味噌汁を作って、タマゴヤキを焼いて。

 収納から壺を取り出す。中には真っ赤な梅干し。

 梅干しを小鉢に入れて朝ごはんの完成だ。


 私はタケオさんを起こすため、一階にあるタケオさんの部屋に向かう。

 本当は私もタケオさんと寝たいんだけど、それはもう少し先になりそう。

 寂しいけど仕方ないよね。


 トントンッ


「タケオさーん。おはようございます。ごはんが出来ましたよー」

「…………」


 返事が無い。まだ寝てるのかな? よし、こっそり入っちゃえ。

 部屋の中に入ると、タケオさんはルネを抱いてスヤスヤと眠っていた。

 ルネはいいなぁ…… 一緒に寝られて。


 悔しかったので寝ているタケオさんにキスをする。


 チュッ


「…………ぐぅ」


 ふふ、まだ起きない。もうちょっといたずらしちゃえ。

 私はタケオさんの顔中にキスをした。


 するとようやくタケオさんは起きてくれる。

 じっと私の顔を見つめ……


 ガバッ


「きゃあん!?」

「悪い子だ! お仕置きだ!」


 タケオさんは私を押し倒して、いっぱいキスをしてくれた。

 嬉しさが込み上げる。最後にしっかり私を抱きしめて、大人のキスをしてくれた。


「ん…… ふふ、おはようございます」

「おはようアリア」


 こうしてタケオさんと一緒にいられるなんて夢みたい。

 私達って本当に恋人同士になれたんだね。


 タケオさんが私に告白してくれてから一週間が経つ。

 そして私達はノルの町にある会議室兼集会所として建てた建物をそのまま借りて、そこで生活している。


 二人は眠そうに目を擦り、着替え始める。

 私がそれをジッと見ていると……


「こら、見るんじゃない」

「キュー」


 あはは。怒られちゃった。仕方ないので朝ごはんを並べてあるリビングで待っていることに。

 タケオさん達はすぐに来てくれた。


「おぉ、今日も美味そうだな。でもいいのか? ごはんを作るのは俺の役目だったのに」

「ふふ、いいんです。私が作りたいんですから」


「そうか…… それじゃお言葉に甘えるかな」


 そう言ってタケオさんとルネは食卓に着く。

 二人は美味しそうにごはんを食べてくれていた。

 あ、タケオさんがルネのほっぺについたごはん粒を取っている。


「キュー」

「はは、お行儀よくな」


 二人を見ると本当の親子みたい。

 もし将来、タケオさんとの子供が出来たら、こんなことするのかな? 

 うぅ、想像したら嬉しくなってきちゃった……


「アリア、どうした?」

「いいいいえ!? なんでもありません! と、ところでタケオさん、あのですね、私もタケオさんと一緒に寝たいんですけど……」


 と言うとタケオさんは困った顔をする。

 このお願いは毎日しているんだけど、返って来る答えはいつも同じ。


「すまんな…… まだ駄目なんだ。アリアが近くにいると…… そ、その我慢出来なくなりそうでな……」


 やっぱり。タケオさんの気持ちは嬉しい。

 だって私が好きだからそばに居過ぎるのはよくないって言ってくれてるんだもん。

 私はタケオさんの奥さんであるララァさんの話は知っている。

 タケオさんと結婚したから望んでいないのに不老長寿になっちゃったんだよね。

 しかもそれは自分で解除出来ないもの。


 もし私もタケオさんと一緒になったら……

 少し怖い。死ねないということが。

 私の好きな人が全員死んでしまっても私は生き続けなければいけない。

 想像すると恐くなる。


 でもタケオさんがずっとそばにいてくれるなら……

 

「まぁそれは戦いが終わったら考えよう。今は目の前のことに集中すべきだ。マルカの復興は終わった。だが隣の国には魔女王軍がいるはずだ。戦いに備えないと」

「はい、分かっています」


 少し空気が重くなる。そうだね。まだ戦いは終わってないんだ。

 でも私達はこれまでバルル、ヴィジマ、マルカの三つの国を魔女王から取り返した。

 残りは三つ。

 

 ドワーフの国バクー、そして私の故郷コアニマルタ。最北端の国コアニヴァニア……

 全ての国を魔女王ルカの手から取り返すんだ。

 そして私達は本当の自由を手に入れる。


「アリア、箸が止まってるぞ?」

「ご、ごめんなさい! ちょっと考え事をしてて……」


 朝ごはんを食べ終え、私達は仕事に向かう。


「それじゃアリア、また後でな」

「はーい、いってらっしゃい」


 タケオさんは今日はリリンさんと一緒に梅酒作りだ。

 梅酒は人気で、あっという間にストックが無くなっちゃったんだって。

 仕込んでいる梅酒はあるけど、普通に作ると毒抜きは一年かかる。

 でも獣人のみんなのために時間操作を使って新しく梅酒を作るって言ってた。


 さぁ私もお仕事に行かなくちゃ! 今私は回復術師として病院で働いている。

 マルカではあまり回復魔法が使える人はいないので、持ち回りで働いてるんだ。


 用意された私専用の部屋で患者さんを待っていると……


 コンコンッ


「どうぞー」


 ガラガラッ


 入ってきたのは……


「アリアじゃないの。今日はアリアの番なんだね」

「サシャさん? どうしたんですか?」


 ダークエルフのサシャさんが訪れた。少し顔色が悪いね。具合悪いのかな?

 

「い、いや、ちょっと飲み過ぎてね…… うぷっ」

「あー、二日酔いですね。もう、最近ずっと宴会してるじゃないですか」


 マルカ復興祭が終わって一週間が経つのに、まだみんな興奮してるみたい。

 たしかに飲み屋さんとか遅くまでやってるもんね。


 私はサシャさんに回復魔法をかける。すると……


「ふぅ、落ち着いてきたよ。ありがとね」

「飲み過ぎ注意ですよ。今日はお酒は控えてくださいね」


「約束出来るかなぁ……? 今日はルージュ達と女子会を開くことになっててね。そうだ、アリアもどう? 話を聞かせてよ! タケとくっついたんでしょ? そういえばもう抱かれたの?」

「…………!?」


 昼間からなんてこと聞いてくるのよ!? で、でも私も悩んでることはあるし、せっかくだ。ちょっと聞いてみよう。


 私はタケオさんが先に進めないでいることを話す。それに男の人は浮気する生物だって聞いたことがある。

 タケオさんのことだから心配ないと思うけど、もしこのまま私達がキスだけの関係だったら……


 悩みをサシャさんに話すと笑われてしまった。


「あははは! アリアは幸せ者だね! タケはアリアを大切に思ってるよ。だから手を出さないんだ。あんただって本当は分かってるんだろ? ならそれでいいじゃないか」

「や、やっぱりそうですよね? 少し安心しました……」


「アリア、タケを離しちゃ駄目だよ。あんないい男はそういるものじゃない。あーぁ、フリンと出会ってなくて、タケが人族じゃなかったらよかったのに」

「タ、タケオさんはあげませんからね!」


「あははは、分かってるよ。それじゃありがとね!」


 サシャさんは病室を出ていく。

 話を聞いてよかった。安心出来たよ。

 タケオさんはぶっきらぼうなところがあるから少し心配だったんだ。

 

 いけない、仕事の続きをしないと。


「次の人、どうぞー」

「グルルルル。お願いします……」


 ベルンドさんだった…… うわ、お酒臭い。この人も二日酔いだね。

 もうみんな何やってんのよ。


 こうして病院にやってくる人を癒し続ける。

 もうすぐお昼だね。そろそろ休もうかな。

 最後にもう一人だけ治療しておこう。


「次の人どうぞー」


 バタンッ


 え!? びっくりした。ノックもせず入ってくる人がいる。

 あれ? タ、タケオさんだ。なんでここに?


「ど、どうしたんですか?」

「アリア、集まってくれ。ラーデ付近に魔女王軍が現れた」


 魔女王軍が…… 平和な時は長くは続かないよね。

 私は支度を整え、タケオさんと集会所に向かう。

 覚悟はしていたけど…… 新しい戦いが始まるんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る