第94話 復興祭 其の二

 ドンチャン ドンチャン


 ノルの町のあちこちで太鼓の音が鳴り響く。昨日新しいこの町に、五十万人近い獣人がマルカに帰ってきたのだ。

 俺は彼らを歓迎すべくマルカの復興祭を開くことにした。


 本当は一日休んでから開催したかったのだが、隣国バクーには魔女王の軍勢が控えている。いつ戦争になってもおかしくない。

 主要な面子が長いことノルの町にいるのは危険なのだ。


 だが危険を冒してもなお、祭りを開く必要がある。これはけじめの儀式であり、そしてマルカを追われた獣人にとっての戦いでもあるのだから。

 

 破壊し尽されて、同胞の多くを殺された獣人が一からこの地で生活していく。これだって立派な戦いなのだ。


 俺達は商業区の一画に壇を用意した。すでに出店は営業しているが、一応形式として俺が開催の挨拶をすることになった。 

 いつもだったら断るところだが、俺の顔は多くに知られてるからな。でも一人では恥ずかしいので復興に携わったアリア達にも一緒に壇に上がってもらう。


「ふふ、先生頑張ってくださいね!」

「キュー!」

「はぁ…… 緊張してきたよ。それじゃさっさと終わらせてくる」


 アリア達に見送られ、俺は壇の先頭に立つ。

 目の前には数十万の獣人。視線が一気に俺に刺さる。

 さて始めるか。


「あー、ごほん! みんなよく来てくれた! 今日からここが新しい君達の家となる! 以前のように暮らせるようになるには時間がかかるかもしれない! 苦労をかけるかもしれない! だがマルカを救えるのは俺達しかいないんだ! みんなでこの国を建て直していこう!

 俺は魔女王に立ち向かうため、竜人の国バルル、エルフの国ヴィジマ、そしてここマルカの三国を国家連合とした! 知っている者もいるだろう! 自由ラベレ連合だ! 俺達は強い国を作る! そして魔女王を倒し、本当の自由を手に入れる!

 今日はその前祝いと復興を兼ねてのお祝いだ! 大いに楽しんでくれ!

 美味い酒! 美味い料理を用意してある! これを明日からの活力にしてくれ!

 ここにマルカ復興祭の開会を宣言する!」


「「「おーーー!!」」」


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッ


 歓声と共に鳴りやまないほどの拍手が続く。いいから、楽しんできてくれって。


 ふぅ、緊張した。やっつけのスピーチだったが上手くいったかな? みんなのもとに戻ると……


「先生かっこよかったですぅ……」

「キュー!」

「グルルルル。いい話だったぞ」

「うおぉ…… 涙が出てきた! タケよ! ありがとう!」


 フゥは感動したのか、泣きながら俺を抱きしめる。

 うん、そういうのいいから。さっさと離してほしい。


「感動してくれるのは嬉しいんだが…… ほ、ほら、フゥも楽しんでこいよ。長いことラーデにいたんだ。あんまり新しいノルの町を知らないだろ? 行ってこいよ」

「そ、そうだな。ではお言葉に甘えさせてもらおう」

 

 フゥを皮切りに三々五々散っていく。祭りを楽しんでくれよ。


(パパー。今日は私はベルンドと遊ぶのー。少し寂しいけど我慢出来るのー)


 ごめんなルネ。俺の我がままを聞いてくれてありがとな。


(今度いっぱい遊んでなのー)


「では御子様。行きましょうか」

「キュー」


 ベルンドはルネを抱っこして町に消えていった。

 実は今日はアリアと一日過ごす予定だ。アリアには伝えてないけど。


「え? ルネ、行っちゃいましたよ」

「そ、そうだな。あのさ…… よかったら俺達で祭りを楽しまないか?」


「え? それって……」

「まぁいいじゃないの! 行くよ!」


 グイッ


 ちょっと強引にアリアの手を握る。さぁ俺達も祭りを楽しむぞ!

 手を繋ぎながら雑踏の中を進む。

 辺りからいい匂いが漂ってくる。

 おや? あそこにいるのは……


「はーい、よってらっしゃーい。ノルの名物、大判焼きだよー。焼きそばもあるよー」

「大判焼きを十個だ!」

「私は焼きそばを五つ!」


 エルが出店を開いていた。それにしても大判焼きと焼きそばをチョイスしたか。

 出店の前は行列が出来ていた。大盛況だな。


「先生、食べませんか?」

「いいね。俺達も並ぶか」


 俺達に気付いた獣人が列の先頭に行ってくれと言ったが、特別扱いはしないでいいさ。

 

「ははは、気にしないでくれ。俺達も祭りを楽しんでるんだからさ」

「で、ですが…… タケ様の前に立つなんて恐れ多い……」


 むぅ、そんな偉い人間ではないぞ? むしろどこにでもいるおっさんに過ぎんのだが。

 そんなことをアリアに言ったら笑われてしまった。


「あはは、もう先生はみんなにとって特別な存在なんです。みんな尊敬してますよ。それに何て呼ばれてるか知ってますか?」

「んー、知らない。言わなくていいよ。聞いてもくすぐったくなるだけだし」


 かつて訪れた世界でも色々な呼び名があった。勇者、英雄王、破壊神。でも俺は一介の地球人。タケと呼んでくれるだけでいいのだ。


 さて俺達の順番が来た。


「いらっしゃーい。って、タケさんとアリアちゃん! 来てくれたのね!」

「あぁ。大繁盛だな」

「エルさん! 大判焼きと焼きそばと二つずつください!」


「はーい。二人は特別にタダでいいわよー」


 だから駄目だって。復興に携わった者が率先して俺を特別扱いするんじゃない。


「ちゃんと払うよ。全部で十クラウンな?」

「まいどありー。それにしても大判焼きって美味しいですね! 作った自分がびっくりしてるもの! また新しいお料理教えてくださいね!」


 ははは、もちろんだ。エルは料理が上手いもんな。他にも多くの出店がある。お好み焼き、焼き鳥、射的なんてのもあった。おや? 射的をやってるのは、サシャとフリンじゃないのか?


 大判焼きを頬張りながら二人の様子を見てみることに。

 まずはサシャが弓を引く。


 ヒュンッ


 ボスッ


 サシャが放った矢は的に命中することなく、地面に突き刺さる。

 うわ、へたっぴだな。


「きー! 私は弓が苦手なのよ! 剣なら負けないのに!」

「ははは、しょうがないな。こうするんだよ」


 フリンはサシャを背中から抱きしめ、弓のレクチャーを始めた。おいおい、こんなところでイチャイチャするんじゃないよ。


 ギリギリッ


 ドスッ

 

 おぉ、さすがは魔導弓の使い手だ。矢は見事的の真ん中に命中する。


「すごいわ! さすがフリンね!」

「ふふん、見直したかい?」

「「「…………」」」


 うむ、周りにいる獣人が白い目で二人を見ている。これが正しい反応なのだ。


「んふふ、あの二人は変わりませんね」

「あぁ。あれが脳内お花畑っていうんだ。駄目な例として覚えておくんだぞ」


 二人に絡まれると同種に思われそうなので声をかけずにその場を離れることにした。

 他にも食べたい物はあるが、まずは焼きそばからだな。

 さすがに焼きそばは食べ歩きが難しい。


 ベンチがあったのでそこに座って食べることに。

 飲み物でも買ってくるかな。

 そこにちょうどよく出店があった。


「梅酒ー、お子様には梅ジュースもありますよー。いかがですかー?」


 おぉ、リリンよ。なんていいところで商売をしてるのだ。

 

「アリア、ここで待っててくれ。飲み物を買ってくるよ」

「あ、私も行きます!」

「いいから。座ってて」


 アリアを残し、俺は屋台に並ぶ。


「あ、タケさん! いいスピーチでしたね! かっこよかったですよ!」


 と、巨乳を揺らしながら話しかけてくる。うむ、相変わらず目に毒だ。


「う、うん。緊張したがね。それじゃ梅酒と梅ジュースを一つずつ貰おうかな」

「あれー? 梅酒二つじゃなくていいんですかー? 濃いやつ用意しますよー?」


 濃いの飲んだらいらん付与効果が付くだろ! この梅酒には精力を高める効果がある。しかも酒が弱い者にはさらに発情という謎効果も付いてしまうので大変危険なのだ。


 リリンの調合により効果は抑えられてるはずだが、まだ昼だしアリアにはジュースでいいだろ。


 飲み物を受け取ってアリアのもとに戻る。


「はい、梅ジュースだ」

「ふふ、ありがとうございます。なんだかデートしてるみたいですね。すごく楽しいです!」


 デートしてるみたいか…… 

 実はデートなんだよね。

 俺はアリアと二人になりたかった。

 少し悩んだが、やはり俺は……

 

 おっと、焼きそばが冷めてしまうな。先に食べるとするか。

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