第93話 復興祭 其の一
マルカ復興を始めて今日で一月が経つ。作業は順調に進み、家屋、商業施設は完成し、新しい産業として養蚕、各種日本食、絹製品などもすぐにでも操業出来る状態になっている。
そして今日は各部門の責任者を集め、最後の打ち合わせを行う。
アリアはセカセカと人数分のコーヒーを用意してくれた。
今回の参加者は俺、アリア、ルネ。農業部門からテオ、建築部門からフリンとサシャ、そして復興部門の最終責任者ベルンド。その下部組織として絹製品担当のルージュ、酒部門としてリリン、日本食部門としてエルに参加してもらう。防衛担当のフゥにも来てもらった。
こうして見ると大勢集まったなと実感してしまう。アリアを救うために降り立った世界だが、こんな流れで世界を救うとは思わなかったな。
いつもだったら魔王とかを倒して終わりだもんな。
さて話を始めよう。今回の議題はマルカ復興の最終確認と獣人の移住、そして復興祭についてだ。
「ごほん。今日は集まってくれてありがとう。この一月でここまでやれるとは思わなかった。皆の働きに感謝する。
では各種部門から報告を頼む。まずはテオからだ」
テオは農業の最終責任者と同時にヴィジマにいる獣人の面倒を看てきた。現在ヴィジマにいる獣人は八十万人いるそうだが、ノルの町に移住したいという獣人は五十万人に収まった。
残りは緑の多いヴィジマで農業を続けたいと言っているのだとか。
「ダークエルフからの反発はなかったか?」
「正直に言うと長老会議は面白くないと言っていた。だが今のヴィジマは獣人の助けがなければ農地を管理出来ない。我らとしても残ってくれると助かるのだ」
そうだな。今のヴィジマは森林の半分以上を失っている。それを利用して農地にしたのだが、広すぎるのだ。人口の少ないエルフだけでは管理出来ないだろう。
両者が得をするのであれば問題無い。残った獣人にはしっかり働いてもらおう。
次は建築部門のフリンとサシャから報告があった。代表してサシャが発言する。
「タケに指示された広さで家を建てたんだけど、ようやく終わったよ。私達の最初の案だったら半分も終わってなかっただろうね。一応町の図面も持ってきたよ。
街道に面した箇所が商業区。少し離れたところに養蚕や調味料、酒を作る工業地区、残りは住宅区にしてある。この作りなら匂いとか騒音で苦情が出ることは無いだろうね。
後タケが持ってきてくれた魔石が余ったみたいだから街灯を作ってみた。あの魔石すごいね。一度火を着けたら一週間燃え続けたよ」
ほう。指示されたこと以外にそんなことをしてくれるとは。やはりサシャとフリンは優秀だ。
「でも街灯はフリンの案でね。私じゃ、あんなこと思いつかなかった」
「そんなことはないさ。サシャだってみんなのことを考えて一生懸命図面を作ってたじゃないか」
「ううん…… フリンには勝てないわ……」
「サシャ……」
前言撤回だ。人前でイチャイチャし始めるバカップルぶりは変わってないようだ。
こいつらは放っておいて次にいこう。
「うわぁ…… いいなぁ……」
とアリアが二人を見て呟く。いや、アリア。あれは駄目な例だ。参考にしないように。
「ごほん…… それじゃ次はルージュ」
「はーい」
ルージュは絹製品の担当者だ。一度サンプルであるドレスを見せてもらったが、見事な物だった。少し値段は高めに設定したが、それを買おうと一生懸命稼いでもらえばいい。頑張れば手が届く値段であれば励みにもなる。
労働に対するモチベーションを高めるのだ。見事なシルクのドレスをプレゼントされたら誰だって喜ぶだろう。
そして酒部門としてリリン。俺が作った梅酒は何故か精力アップのバフが付いた物だったが、リリンの絶妙な配合により付与効果を抑え一般に販売しても問題無い出来に仕上がった。
実際飲ませてもらったが、最高だった。さすがダークエルフ随一の酒好きだ。彼女に任せて正解だったな。
正解といえばエルの存在を忘れてはならない。彼女が作る料理は絶品だ。味噌、醤油の製造の他、日本料理を教えたら尽くマスターしたのだ。
それを広めるため、一度ヴィジマに帰って宿屋やレストラン、パブを経営していた獣人に対し料理教室を開いてくれた。
ノルの町で日本食が食べられる日は近いだろう。
そしてそれらの販売責任者としてベルンドが頑張ってくれている。他にも誰もやりたがらない養蚕を行ってくれている竜人には感謝せねばなるまい。だが時々
「グルルルル。しょうがないではないか。あんな丸々太った美味そうな芋虫を前にしたら……」
「はいストップ。それ以上言わないでいいから」
ほら、アリアが恐がってるだろ。今の話を聞いただけで鳥肌が立っているではないか。
ともあれ全て順調というわけだ。これで準備は整ったな……
「ではノルの町に移住する獣人に知らせてくれ! ここまで歩きで二日はかかるだろう。そこでだ! 復興の祝いとして祭りを開催する! 祭りは今日から三日後だ! 各自準備を怠るなよ!」
「「「おー!!」」」
祭りと言っても俺達は主催者側だからな。祭りが成功するかは俺達にかかっている。最後の頑張りだ。
「グルルルル。で、祭りとは何をするのだ? 私の国では男性器を模した像に供物を捧げるのが有名だが」
「あはは、違うわよ。足にロープを括り付けて高い木の上から飛び降りるのよ!」
「え? 魔族の祭りでは裸になって町を練り歩くのが一般的でしたよ?」
なにその奇祭? そんなんで楽しめるか!
「い、いや、ただ美味しい出店があって、お酒を飲んでワイワイやるだけでいいんだけど……」
「「「…………!?」」」
いや、なにびっくりしてんだよ。これが普通だろ。
「グルルルル。信じられん。それでは怪我人も死人も出ないではないか。神に捧げる供物が……」
「別に生贄とか用意しなくていいからな。とにかく、ただ楽しめばいいから!」
全くこいつらときたら…… あ、そうだ! いいこと思いついた!
「ちょっとベルンド君。こっちに来たまえ」
「グルルルル。悪い予感しかしない。なんだ?」
俺は思いついた計画を話す。すると……
「グルルルル。面白そうだ。だが私だけでは無理だ。人手がいる。そうだな…… テオ殿とフゥ殿を借りるぞ」
「あぁ。でもくれぐれもアリアには知られないようにな……」
「ん? 私がどうかしましたか?」
ぎくりっ!? 聞かれていたか。
「ナ、ナンデモナイヨー」
「片言になってますけど…… ふふ、おかしいですね。それじゃ私も準備しますね!」
ほ、よかった。
とまぁ、こんな感じで俺達は復興祭の準備を始める。
みんなに楽しんでもらうのもそうだが、もう一つ目的がある。
それは…… ふふ、まだ言えないな。
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