第92話 復興 其の九 燃料

 ドカカッ ドカカッ


 俺はドラゴンに変化したルネに乗って街道をひた走る! うん、いつも通りお尻が痛い!

 今回は俺とルネの二人旅ということで特に休憩はせず、ラーデに向かったわけだが、かなり無理をしてしまった。


(少し止まったほうがいい?)


 とルネが経路パスを使って聞いてくる。

 いや大丈夫だ。ラーデに着いたら回復するから。そのまま行ってくれ!


(分かったのー)


 どうせ後一時間もすればラーデに着く。

 予想通り、街道を抜けると獣人の国マルカの元首都であるラーデが見えてきた。


 ラーデは高い城壁に囲まれている。守りの要として今は虎獣人のフゥにここを任せているのだ。


 城壁の上から声がする。俺が来ることは事前に伝わっているのだろう。


「おーい! タケ様が来たぞ! 門を開けろー!」


 見張りの獣人が叫び、指示を出す。すると俺が到着すると同時に分厚い門が開き……


「タケ様ー!」

「お待ちしておりました!」

「英雄殿がいらしたぞ!」

「うおぉー!」


 と色々な声で俺を迎えてくれる。ははは、なんだかくすぐったいな。俺はワラワラと集まる獣人達に俺は手を振って応えることに。


(すごいのー。パパは人気者なのー)


 そんなことはないよ。おっと、俺は仕事をしに来たんだった。

 ルネから降りて獣人達に向け叫ぶ。


「すまん! 通してくれ! フゥに話があるんだ!」

「し、失礼しました! こちらにどうぞ! おーい、道を開けろ!」


 案内してくれるのか? 俺は少女の姿に戻ったルネを抱いて獣人のあとをついていく。

 ラーデは元首都ではあるが、全てが破壊しつくされ、残っている家屋はほとんど無かった。

 だが今は簡易ではあるが、家らしき建物が建っている。

 よかった。さすがにテント暮らしじゃ疲れも取れないだろ。


「ははは、これですか? 将軍の指示で建てたのですよ。おかげで雨風に晒されることなく、過ごせています」

「将軍? フゥの奴、そんなふうに呼ばせてるのか?」


「いいえ。私達がそう呼んでいるだけです。本人は嫌がっていますがね」


 なるほど。からかうネタが出来たな。

 フゥがいるのは他と比べると大きい建物だった。

 中に入ると……


「タケ! よく来てくれた!」

「将軍! 久しぶりだな!」


 と、フウをからかいつつ再会を喜び合う。


「止めてくれ。私はそんな器ではないさ」

「周りはそう思ってないみたいだけどな。それじゃ報告を聞こう」


 さてと。それじゃ話を聞くとするか。


 まずは城壁からだ。俺がラーデを発つ前は手入れがされておらず、崩れている箇所もあった。俺が城門をぶっ壊したってのもあるがね。

 だが今は何とか修復を終え、魔女王の襲撃があってもそう簡単には突破されないほど頑丈に強化してあるらしい。

 たしかに遠目から見てもしっかりと整備されているようだった。


 現在ラーデには二十万を超える獣人が駐屯している。彼らが一斉に修復作業にかかったのだろう。よくやってくれたと思う。


「なるほど…… で、今のところ攻撃は無いんだな?」

「あぁ。だが時折偵察は来ているようだ。矢も魔法も届かない場所から数騎での偵察なので、こちらから撃って出ることは無い」


「それでいいさ。だが常に注意しておいてくれ。何かあったらすぐに報告を。最悪ラーデを捨てても構わん」

「ははは、タケならそう言うと思った。まぁ死なない程度にラーデは守るつもりだ。ここに眠る同胞のためにもな……」


 フゥは悲しそうな目をした。そうだな。ここは長いこと強制収容所として多くの獣人が集められ、そして死んでいった。

 アイヒマンという人族がラーデを治め、死んだ獣人の肉を食わせていたんだ。今思っても反吐が出る。あの時殺しておけばよかった……


 とは言っても過去の話だ。後悔していても始まらない。

 いつかは獣人にした行いを後悔させてやればいい。


 そうだ。城壁の修理の他に言うことがあったんだよな。

 それについて尋ねてみると……


「おぉ、そうだった。これを見てくれ」


 ドンッ


 フゥはテーブルの上に石を置く。結晶か? 無色透明の結晶のような石だ。


「これは?」

「魔石だ。バクーの鉱山で見たことがある。ラーデの地下に隠されていた。大方貴族様が隠し持っていたのだろう。

 魔女王達がここに侵攻してきてから財産は全て没収されたが、これは免れたらしい。だがこれは魔力は内包してはいるが、あまり価値が無い石でな」


 価値が無い石をどうして隠していたのだろうか? だが魔石というぐらいだ。使用すれば何かしらの効果を得られるかもしれない。


「この石の利用方法は?」

「最近発掘された石だからな。ちょっと外に出てくれ」


 外に? フゥは魔石を持って建物のそとにある庭に出る。

 魔石を地面に置いてから距離を取る。


「これぐらい離れればいいか。そこで見ていてくれ」


 フゥは石を拾う。それを魔石目掛け投げる!


 ビュッ ドゴォンッ


 ば、爆発した!? 地面には穴が開いているが、そこまで威力は無いな。ちょっとびっくりした。


「ははは、驚いたか。この魔石はな、鉱山で採れるのだが、今見た通り衝撃を加えると爆発する。だが見ての通りそこまで威力は高くない。だが鉱山ではこれは厄介者でな。下手にハンマーで叩くと爆発するから落盤の危険があるのだ」


 なんだ、威力が高ければ武器として利用出来たかもしれないのに。

 たしかに威力だけで考えれば魔法で事足りる。

 でも利用価値の無い魔石のために俺を呼び出したのか?


 いやフゥのことだ。何か考えがあるのだろう。


「他の用途は? 俺に話したくて連絡を寄こしたんだろ」

「あぁ。この石はな、衝撃を加えると爆発するが、もう一つ特性を備えている。これを見てくれ」


 フゥは指先から種火を出す。そういえばフゥは四大元素魔法の全てを使えるんだったな。弱いけど。

 その種火を懐から出した魔石に着ける。

 するとチリチリと音を立て、魔石が燃え始めた。


「燃える石か」

「そういうことだ。どうだ? これを使えば復興の役に立つと思ってな」


 なるほど。たしかにこの魔石があれば生活インフラの内の燃料は確保出来そうだ。

 現在ノルの町では水道はマルカを流れるベルテ川から水を引いており、下水道も作ってある。

 街道の整備もばっちりで、ヴィジマからノル、そしてノルからラーデへと食料等を輸送出来る。

 通信は各拠点に竜人を配置しており、ルネの経路を使えば遠くにいてもやり取りが出来る。

 後は燃料だけだったのだ。マルカは木があまり生えていない。ノル、ラーデにいる百万近い獣人が生きていくには大量の燃料が必要だ。


「そういえば今まで薪はどうしてたんだ?」

「買っていたのさ。隣国のバクーからな。他にはあまり言いたくないが…… ヴィジマの木を黙って切っていたこともある」


 なるほどね。資源の乏しい国ならではの悩みだな。だがこの魔石があればしばらく燃料には困らないだろう。


 フゥの話ではラーデの地下に大量の魔石が隠されていたらしい。恐らく先見の明がある貴族がこの魔石を大量購入して一儲けを企んでいたのだろうな。


「ある程度残してくれればいい。この魔石は全てノルに持っていってくれ。役に立つはずだ」

「分かったよ。ありがとな。後で使いを出すよ」


 フゥのおかげでマルカ復興が一歩近づいた。間もなく町も完成する。後は獣人をノルの町に移住させるだけだ。


 そうだ! いいこと思いついた!


「フゥ、祭りをしないか? 新しいノルの町が完成したらみんなでお祝いをしよう!」

「祭りか…… それは素晴らしいな! だが、私はここを離れるわけにはいかんし……」


 それは何とかする。警備の兵士を倍に増やすとかさ。とにかくフゥはマルカ復興に必要な人物だ。

 だからこそ祭りを開くなら参加してもらわないと。


 他にも細かい打ち合わせを終わらせ、俺がノルに帰る時間となった。


「タケよ。復興を祝う祭り、楽しみにしてるぞ!」

「あぁ! 必ず知らせる! それじゃ!」


 俺はドラゴンに変化したルネに跨りノルを目指す。


(パパー。お祭りってなーに?)


 お祭りっていうのはみんなでお祝いすることなんだ。美味しい料理もたくさん出るぞ。


(楽しみなのー)


 そうだな。なら早く祭りを開けるように復興を進めないとな!


 ドカカッ ドカカッ


 俺達は祭りの話をしながら夜の街道を走り続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る