第84話 復興 其の一

 アリアと休日を過ごした翌日、俺達は広い天幕の中で皆が来るのを待つ。

 今日はヴィジマから主要な面子がやって来るのだ。

 

 アリアは会議に必要な資料を集め、そしてルネは一人昨日捕らえた巨大蚕テラビクスを抱いて遊んでいる。


「って、ルネー! なんで籠から出してるのー! 早く閉まってー!」

 

 アリアは虫が大の苦手らしく、テラビクスを怯えた目で見つめていた。

 いかん。これでは準備が進まない。

 ルネ、ごめんな。


 俺はルネの手からテラビクスを取り上げ、籠に戻す。

 後でいっぱい遊んでいいからな。


(しょうがないのー。アリアは恐がりなのー)


 ははは、そう言うなって。

 それじゃ俺も準備しなくちゃ。


 椅子に座って今回の会議のレジュメに取り掛かることに。

 くそ、手書きだとめんどくさい。パワポとかあったらいいのに。


 その一時間後、ようやくレジュメが完成。と同時に天幕に入ってくる者がいる。


 バッ


「御子様! ご無事ですか!?」

「キュー!」


 竜人のベルンドだ。彼は恭しくルネの前に跪く。

 他にもいつものエルフ三人衆、テオ、サシャ、フリンがいた。


「タケよ! よくやったな! 今回も見事魔女王軍を追い払ったというではないか!」

 

 とテオが握手を求めてくる。


「すごいよ! さすがはアリアだ! 私はあんたのこと信じてたよ!」

「ふふ、ウソばっかり。サシャはずっとアリアのこと心配してたじゃん」

「ちょっとフリン! それは言わない約束でしょ!」


 ははは、にぎやかなことで。


「グルルルル…… タケよ。御子様から話は聞いた。お前が王になって私達を導いてくれるのだな……」

「え? わ、私アリアですけど……」


 いつも通りベルンドは俺達の顔の区別がつかないようだ。


「む? この匂いはアリアか。すまん、また間違えた。で、こっちがタケか。御子様の話だが……」

「それ間違ってるから。それじゃ始めよう。席に着いてくれ」


 ガタッ


 よし、みんな着席したな。アリアはタイミングよくコーヒーの入ったカップを皆に前に置く。


「ごほん…… それじゃ始めよう。ここにはいないがフゥには伝えてある。ルネからどう聞いたかは知らんが、俺は王にはならない。だが三つの国をまとめた国家連合を作る。

 主権はそれぞれの国にあるが、戦時ゆえ第一の発言権、意思決定は俺達にあると思ってくれ。ここまでで分からないことがある人ー?」


 バッ


 全員かよ。って、アリアも手をあげてるじゃん。


「アリアには説明したろ?」

「えへへ、でもやっぱりよく分かりません。簡単に言ってくださいよー」


「しょうがないな…… 新しい国を作ります! 王様はみんな! 以上!」

「なんと!?」「私が!?」「僕が王様に!?」「じ、女王様ってこと?」


 若干ニュアンスが違うような者が一人いる気がするが、放っておこう。

 王というのは、あくまで例えだ。

 それに戦争が終わるまでという期間のみ。それ以降は俺達はただの一般人に戻る。

 

「グルルルル…… わ、私が王に…… だが長老は許してくれるだろうか?」

「我らダークエルフは長老会議が意思決定を行うのだ。それを私個人が担うというというのか……」


 とベルンドとテオは悩んでいる。

 たしかに若輩の二人が突然意思決定の最高責任者になることを面白くないと思う者はいるだろう。

 だが一時とはいえ、俺達に権力が集中するということはメリットの方が多い。

 

 まず意思決定までの時間が短縮される。

 無駄な報告や許可待ちをしなくていいのだ。

 戦時においては迅速な思考、行動が重要だ。


 そして俺達は共に戦うことで絆を深めている。信頼に値する奴等だ。

 彼らになら重要な仕事を割り振りしても必ずこなしてくれる。


「っとまぁこんな感じだ。お前達はプレッシャーを感じるかもしれんが、正直あまりやることは変わらない。少し責任が増えただけと思ってくれ」

「「「少しじゃないだろ!」」」


 と総ツッコミを受けてしまう。この期に及んで意気地の無い。


「すまんがもう決めたことだ! 俺達は魔女王軍に勝つ! そのために必要なことだと思ってくれ! それとも何か? 俺達が協力しなければ魔女王軍に負けるぞ。それでもいいのか?」

「「「…………」」」


 皆の表情が真剣なものになる。

 俺の言葉は脅しではない。

 

 これまでは策を使って何とか勝利出来た。

 だが戦いが長引くに従い、こちらの被害も大きくなってきている。

 事実マルカでの戦いでは数万人の死傷者を出したのだ。

 

 策が使えず、正面からぶつかることも想定しなくては。

 そのためには俺達のより強い結び付きと強い国作りが必要となってくる。


 マルカ復興はその足掛かりだ。


 ここまで説明すると皆納得してくれた。


「グルルルル…… タケよ。マルカ復興と言ったが、まず何から始めるのだ?」

「ははは、ベルンドは覚悟してくれたみたいだな」


「からかうな。話せ……」

「そうか。それじゃ説明する。まずは手元の資料を見てくれ」


 俺はレジュメをもとに話し始める。まずは首都移転について。


 首都であるラーデは最前線に近く、今後大きな戦いが起こりうる。首都にしておくには危険だが、城壁は補修すれば魔女王軍の攻撃にも耐えうるだろう。

 ラーデは城塞都市としてフゥに指揮を取ってもらう。


 そして俺達がいる宿場町ノル。家屋、商店は全て壊され人が住める状態ではない。

 だがここからラーデに向けて三つも街道が走っており、支援しやすい。

 さらにここはヴィジマからも近いので、万が一戦いの舞台になってもエルフからの支援も受けやすいはずだ。

 

「ここに新しい町を作るのか……」


 とテオは呟く。ついでに役割も話しておこう。


「テオ、あんたにはヴィジマの最高責任者をやってもらいたい。俺はヴィジマを大農業国にすると言ったが、現状はどうなっている?」

「私がヴィジマを…… す、すまん。狼狽えてしまった。タケがマルカに行ってから、北の森の跡地は全て農地に変わった。あの広い土地を開墾するには時間がかかると思ったが、獣人の協力を得られてな。

 育ちの早い野菜はそろそろ収穫出来るだろう。米、麦の類いはあと数ヵ月後には収穫出来るはずだ」


「そうか。ダークエルフだけでは農地は管理出来ないだろう。獣人の何割かはそのままヴィジマで働いてもらう。もちろんマルカに帰りたい者もいるだろうから、無理強いをしては駄目だ。

 今のうちから希望者を募っておいてくれ」

「もちろんだ。だがそんな心配はいらないだろうな。皆楽しそうに仕事をしててな。このままヴィジマで暮らしたいと言う獣人もいるらしいのだ。

 マルカは貧しい土地らしいからな。食べ物が美味いと皆喜んでいるよ」


 ほう? それは嬉しい誤算だ。ヴィジマは豊かな土地だが、エルフ達は個体数が少ないからな。

 だが獣人が残ってくれるのであれば仕事を割り振ることが出来る。


 その後も生産量、備蓄量、そして輸送方法等もテオに伝えておいた。

 マルカの土は痩せており作物があまり育たないからな。

 しばらくはヴィジマから作物を輸入する必要がある。

 

「ここまでがテオの仕事になる。食料生産は国家運営の要だ。重要な仕事だが頼めるよな?」

「嫌だと言わせるつもりは無いくせに。ははは、やるさ。任せてくれ。

 タケよ。それとこれなんだが……」


 スッ


 急に小声になり、そして懐から包みを取りだし俺に渡してくる。


「これは?」

「ふふ、私達の大好物だ……」


 なんと!? とうとう出来たか!

 俺は包みを開くと、中には乾燥したタバコの葉があるではないか!

 しかも大量の巻き紙付きで!


「お前は紙巻き派だったな。パイプの方が便利だと思うんだが……」

「ははは、パイプじゃ気分が出なくてな。テオ、感謝する!」


「「「…………」」」


 ん? 皆俺達を冷めた目で見てるな。吸うのは俺達だけだもんな。この世界も喫煙者は肩身が狭いのか。


「先生、それって職権乱用では?」

「そ、そんなことはない! タバコはエルフのシャーマンにとって必需品なのだ! それを少しばかり頂戴しているだけだ! 大丈夫だ! 問題無い!」


 と無理矢理納得してもらう。

 よし! 次の話行こう!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る