第81話 休日 其の一
ドカカッ ドカカッ
俺とアリアはドラゴンに変化したルネの背中に乗って街道を走る! そしていつも通りお尻が痛い!
「せ、先生! もうお尻が限界です!」
「俺もだ! ル、ルネ! もうちょっとゆっくり頼む!」
全力疾走するドラゴンの上に鞍も無く乗っているからな。
それも朝からずっとだ。
(また休憩なの? つまらないのー)
とルネは
それにしてもなんて速さだよ。多分もうすぐノルの町に着くぞ。
ラーデからノルの町まで大人の足で四日かかるのだ。それを数時間で走破するとは……
速いのはいいのだが、ドラゴンに変化したルネの背中は固い鱗で覆われており、一歩歩くだけで結構な振動がくる。
お尻が大変なことになっているのだ。
俺もアリアもお尻に激しいダメージを負ってしまった。
アリアなんかお尻を擦りながら地面につっぷしている。
「うぅ…… 痛いよぅ…… お嫁に行けなくなっちゃうぅ……」
痔になったぐらいで嫁の貰い手が無くなるかは知らんが、このままではいかん。
俺はアリアを救うべく、彼女のお尻に手を置いて……
「きゃあん。んふふ、先生のエッチ」
「アホか。気を流すから大人しくしてろよ」
パアァッ
アリアのお尻が眩しく光る!
「あぁ…… 痛みが引いていきます…… ふー、死ぬかと思いました。それじゃ先生の番ですね!」
アリアが回復魔法で治してくれるのか?
残念だが今の俺は魔力阻害のデバフを受けており、魔法全般を受け付けないのだ。
気功は効きが悪いものの、少しは回復することが出来る。
なので俺はすでに回復済みなのだ。まだちょっと痛いけど。
「残念です…… 触りたかったのに……」
最近遠慮が無くなってるな。
やはり以前キスをしてから俺とアリアの距離が縮まったように思える。
まだ気持ちは伝えあってはいないけどな。
迷うな…… いくら俺に踏ん切りがつかないとはいえ、この関係を続けていくのもアリアには申し訳無い。
だが俺が想いを伝えたとして、もし俺とアリアが結ばれたとする。
俺だって男だ。数万年は生きているが決して枯れてなどいない。それなりに性欲はある。
一度タガが外れてしまえばそこまでだ。
アリアは望まぬ生を生き続けることになる。
だから俺はループするように悩み続けているのだ。
プラトニックな関係ならどうかとも思った。
だが俺にそんな関係を続ける自信は無い。
それにアリアはサキュバスの血を引いている。
本人は自覚は無いし、他種族は魅了されている様子は見られない。
俺が単純にアリアに惚れてるのかもしれないが、時折無性にアリアを抱きたいという欲求を感じるようになってしまった。
彼女とは少し距離を置くべきなのかもしれないな……
「先生、どうしたんですか?」
と俺の顔を覗き込む。顔が近いよ。
「な、何でもない。お尻も大丈夫そうだし、そろそろ行こうか!」
「はい!」
俺達は再びルネの背中に乗ってノルの町を目指す。
到着したのは夕日が沈む頃だ。
ふぅ、疲れたな。俺とアリアはルネから降りて伸びをする。
「んー! 着いたー! お腹空きましたね!」
「そうだな。それじゃ今日は休もうか」
ここには万が一のことを考え、一万の獣人を駐屯させている。
他にも補給拠点として利用しようと思っていたので食料は潤沢に用意しているのだ。
さて食料を貰ってくるかな。
倉庫を管理している犬獣人に声をかけると、尻尾を振りながらお礼を言われた。
「タケ様! 聞きましたよ! ラーデを取り戻したんですよね!? ほ、本当にありがとうごさいます…… うぅ……」
「な、泣かないでくれ。ほら、俺達腹減っててさ、少し食料を分けてくれないか?」
「はい! タケ様のために最上級の物を持ってきます!」
と言って倉庫の中に消えていった。
戻ってきた犬獣人はヴィジマから送られてきたばかりの葉野菜と肉、そして米と各種調味料。さらに貴重な卵とミルクまで渡してきた。
「ず、ずいぶん豪勢だな」
「お気になさらずに! 足りないようでしたらお声かけください!」
足りないどころか三人で喰い切れないよ。
食材を持ってアリア達が待つテントに戻ると、すでに火を起こして待っていた。
「うわー、いっぱいありますね。先生、今日は私が作ります!」
アリアが? どうしようかな。俺も作る気満々だったのに。
でもせっかくだから二人で料理するか。
そういえば一緒に料理するのも久しぶりだ。
あ! いいこと考えた! 俺の手元には卵とミルクがある。
そしてヴィジマで見つけた砂糖もある。
アリアは水魔法で氷を生成することが出来る。
彼女の協力があればアレが作れるな。
俺は卵とミルクをよく混ぜた物に砂糖を加え味を調える。
それをカップにいれてアリアに渡す。
「異界の飲み物ですか?」
「いいや。すまないがこれを冷やして欲しいんだ」
アリアは不思議そうな顔をしつつ、魔法を発動する。
【
ビキィッ
すると音を立て、地面から氷の塊が現れる。
ちょっと大きすぎるが問題無いだろう。
カップを氷の上に置いてっと。
固まるまで時間がかかるしな。
それまでごはんを頂くとしよう。
今日の献立はホカホカごはんと焼き肉、葉野菜のサラダだ。
これで焼き肉のタレがあったら最高だが、生憎調味料は塩と砂糖しか用意出来ていない。
だが久しぶりの温かい食事だ。死ぬほど美味かった。
「美味しいです! ふふ、先生とごはん食べるのって久しぶり!」
「キュー!」
二人にも喜んでもらえたようだ。
もうちょっと手の込んだ物を作りたかったが、今は材料、調味料が限られてるからな。仕方ない。
さてそろそろ例の物は固まったかな? ちょっと指で押して確かめてみよう。
プルルンッ
おぉ! いい感じだ! 俺はカップをアリアとルネに渡す!
「これって…… 何ですか? すごく冷たいですね」
「デザートだよ。食べてごらん」
二人は恐る恐るスプーンでカップのそれをすくって一口。
アリアは目を見開く! 長い耳が力無く垂れさがる!
「甘ーい! すごく美味しい!」
「キュー!」
ふふ、どうやら成功したな。これはプリンだ。砂糖が手に入ったからな。
これからはデザートも作ってやれる。二人は女の子だし甘い物には目が無いのだろう。
あっという間に無くなってしまった。
そして恍惚の表情を浮かべている。
「お、美味しかった…… また食べたいです! もう、先生ってずるい! なんでそんなに美味しい物知ってるんですか!」
「ははは、作るのは簡単だ。教えるよ」
アリアは熱心にメモを取っていた。今度アリアに作ってもらおう。
さてお腹も満足したので、食休みだ。焚き火を囲んでまったりする。
一応今度のことを話しておくか。
だがその前にアリアがモジモジしながら話しかけてくる。
「あの先生…… あの、その……」
なんだ? 顔と長い耳を真っ赤にしてる。
「どうした?」
「あ、あの! お、お風呂に入りませんか!?」
風呂か。昨日は腹の傷が滲みると思って体を拭いて終わりにしちゃったんだよな。
それにアリアも風呂に入るのは久しぶりだろう。
「ちょっと待ってな」
俺は獣人に土魔法が使える者はいるか聞いてみた。だが高度な土魔法を使える獣人は全てラーデにいると言われてしまった。
やむなく俺は適当な岩場を見つけ、地面目がけ魔銃を撃ち込む。
ガォンッ ドゴォッ
岩場に大きな穴が開く。少々不格好ではあるが露天風呂の完成だ。
湧出を発動し、お湯を溜めていく。
一緒に入りたいかな? だが混浴はなぁ……
前回一緒に入った時は俺はパンツを穿いてたし、アリアを気遣ってずっと後ろを向いてたんだ。
正直アリアが気になってあまり風呂を楽しめなかった。
俺は倉庫に向かい、大きめのバスタオルがあるか聞いてみた。
タオルは無かったが、医療用の幅広い布があったのでそれを頂いてきた。
体に巻けばさらしの代わりになるだろ。
俺はテントに戻りアリアに布を渡す。
「これなんですか?」
「ほら、体に巻けば見えないと思ってな…… い、一緒にどうだ?」
「あ…… はい! ありがとうございます!」
準備があるだろう。俺は先に風呂に入って待っていることにした。
ザッザッザッ
暗闇の中、こちらに近付いてくる者がいる。
「お、お待たせしました……」
「キュー」
アリアとルネだ。ルネは全裸だがアリアは胸元と腰にさらしを巻いている。
こうして見ると水着みたいだな。これなら一緒に入れそうだ。
「キュー」
ジャボーン
ルネは嬉しそうに露天風呂に飛び込む。
(気持ちいいのー)
うわっぷ。こらルネ、お風呂に飛び込んじゃ駄目だぞ。
(ごめんなさいなのー)
はは、いいさ。それじゃゆっくり浸かろうな。俺の膝に上に座りな。
その様子を見たアリアは微笑みながら風呂に入ってくる。
チャポン
「あぁ…… 気持ちいいですぅ…… ふふ、実はずっとお風呂入りたかったんですよ」
アリアも同じ気持ちだったか。俺達はゆっくり風呂を楽しむ。
ふぅ、疲れが取れていくと同時に眠気が襲ってくる。
そろそろ出なくちゃな。でもその前にアリアに話しておこう。
「明後日にはベルンド達がここに来る。そこから忙しくなるぞ。本格的にマルカを復興をしていかないとな」
「明後日ですか…… それじゃ明日もお休みですね! 先生、どこか行きませんか!」
おいおい、遊びに来たんじゃないんだから。
だが今回アリアは頑張った。少しぐらいご褒美をあげてもいいかもしれない。
それに俺も死ぬ想いをした。気分転換は必要だろうな。
「いいよ」
「やったぁ!」
スルッ
アリアはよほど嬉しかったのだろう。胸のさらしが外れたことに気付いていない。
俺は顔を横に背けながらもアリアのかわいいピンク色のサクランボに目を奪われていた。
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