第64話 食料生産 其の三

「これは一体……?」


 思わず声に出してしまう。

 俺は先程まで時間操作を使って野菜の種を生産していた。

 減ってしまったMPを確認するため分析を発動してステータスを確認したのだが、俺のステータスは今までの表記と変わっているのだ。

 もう一度見てみよう。



名前:タケオ

年齢:???

HP:9999 MP:6851/9999 STR:9999 INT:9999

能力:杖術10  

ギフト:

時間操作:大年神の加護

空間転移:猿田彦の加護

多言語理解:思金神の加護

分析:久延毘古の加護

魔銃:吉備津彦の加護

気功:日本武の加護


New!

湧出:少彦名の加護



 ギフトの欄に説明書きのような物が追加されている。

 これは…… 日本神話の神様の名前だな。あんまり詳しくはないけど。


 ギフトというのは文字通り神様からの贈り物だ。

 そしてギフトを持つ者は限りなく少ない。

 十万人に一人いればいいほうだ。

 俺は何故か複数のギフトを持っている。

 俺以外に二つ以上のギフトを持った者に会ったことは無い。

 そればかりかまた増えているとは……


 俺のギフトって日本の神様に由来するものなのかな?

 ふと思いついたことがある。ちょっとアリアに聞いてみよう。

 ちょうどアリアがコーヒーを持ってきてくれた。


「ふふ、出来ましたよ。どうぞ!」

「あ、あぁ、ありがとな。ちょっと聞いてもいいかな? ギフトってさ、神様から愛された者が持つ能力だよな。でさ、アリアの信じる神様…… 魔族の神様って何人いる?」


「え? 神様は一人に決まってますよ。唯一神ラニア様です! すごく綺麗な神様なんですよ。蛇の尻尾に八本の腕があってですね……」

「そ、そうなのか。姿についてはまた今度聞かせてくれ。とにかく魔族の神様は一人だけなんだな?」

「もちろんです!」


 うん。これで分かったぞ。

 俺が複数のギフトを持っている理由が。

 俺は特に神様は信じてはいないが、正月はよく神社にお参りに行っていた。

 それ以外も子供の時などは神社は遊び場の一つだった。


 今思えば神社というのは八百万やおよろずの神々の領域。

 そして俺のギフトは日本の神に由来するもののようだ。

 いつの間にか八百万の神様に気に入られたってことなのか……


「アリア、ちょっと見てもらいたいものがあるんだ」

「ん? 何ですか? って、きゃあん」


 俺はアリアの頬に触れる。そして俺のステータスをオドに変換。

 そのままアリアに流す。これで俺のステータスを見ることが出来る。


「あれ? 先生のステータス…… これって……? すごい! ギフトが一つ増えてます!」


 驚くアリアに俺のギフトについて説明する。

 信じられないって顔をしてるな。


「へー、先生の世界って色んな神様がいるんですね。でも八百万人もいるんですか?」

「まぁ八百万っていうのは数が多いことの例えで実際にはそこまでいないだろうけどね」


「うふふ、でも面白いですね。トイレにも神様がいるなんて」

「そうだな。それにしても新しいギフトだが…… どんな能力なんだろうか?」


 湧出か。何かが湧きだすのかな?

 このギフトに由来する神様は少彦名。

 名前は聞いたことはあるがどんな神格を持っているかは知らないんだよな。


 ちょっと試してみようか…… 

 ふふ、年甲斐もなくワクワクしてきた。


「アリア、付き合ってくれ。今から新しいギフトを発動してみる」

「は、はい! 一体どんな能力なんでしょうね。すごい力があるかも……」


 俺はアリアと共に人気が無い場所に移動する。

 やはりどんな効果があるか分からないからな。

 もしかしたら大爆発とかするかもしれないし。


 十分ほど歩くと畑を耕している獣人が見えなくなる。

 ここなら難民がいる場所からも遠いし、安全は確保出来るはずだ。

 ここにいるのは俺とアリアの二人。さてアリアにお願いしよう。


「すまん。水魔法で防御壁を作ってくれ」

「防御壁を? 先生の新しいギフトって攻撃型の能力なんですか?」

「それを今から調べるのさ。俺だってどんな力なのか知らないからね。念には念をってやつだ」

「そ、そうですね…… それでは!」


 アリアはマナを取り込んでから水魔法を発動する。


出でよ氷壁エウリオン!】


 ビキィッ


 俺達を囲うように氷の壁が現れる。

 一メートルはあるな。これならかなりの衝撃にも耐えられるはずだ。


「お見事! やっぱりアリアは魔法の才能があるな」

「えへへ…… 先生の教え方が良かったからですよ……」


 と顔と長い耳を真っ赤にさせている。うむ、かわいいな。

 いかん、そんな場合ではなかった。

 これで準備が整った。後は俺がこの謎のギフトを発動するだけだ。

 それにしても湧出とは一体どんな力を秘めているのだろうか? 


 文字通りなら何か湧き出るってことだよな。

 もしかして地面から溶岩が湧き出て敵を焼き殺すとか!?

 もしそうならかなりの威力になりそうだ。俺の主力攻撃になるかも……


 よし、試してみるか!


「アリア、今から湧出を発動する。危ないから頭を出すなよ」

「はい! ちょっと緊張してきました……」


 さて本番といこう。

 体内でオドを練ってから右手を前に……

 イメージは地面から噴き出る溶岩……

 よし! イメージが固まった! そのイメージのまま……! 


【湧出!】


 …………


 ……………………


 …………………………………………


 ん? 何も起こらないぞ? 


「ど、どうしたんですか?」


 と、アリアも不思議そうに氷壁から頭を覗かせる。

 おかしいな。十メートル先の地面に向けて湧出を発動したのだが、特に地面には変化は見られない。


「ちょっと見てくる。アリアはここにいてくれ」

「危ないですよ! わ、私も行きます!」

「しょうがないな。それじゃ後ろからついてきてくれ」


 俺は湧出を発動した場所に向かう。

 アリアは恐いのか、俺の腰をギュッと掴んでいた。

 そーっと近づきながら地面を観察すると……

 おや? 色が変わっている。

 周りの土は乾いているが、湧出を発動した場所はまるで雨が降った後のように黒くなっていた。


 コポッ


 コポコポッ


 じ、地面が音を立てている。これは……

 水が湧いているのか?


「な、何があったんですか?」


 アリアは俺の背中越しに様子を伺う。

 すると……



 ブシャアァァァァァッ



「うおっ!?」「きゃあ!」


 びっくりした! 突然勢いよく水が地面から湧きだした!

 水は天に昇る勢いで噴出し続ける!

 なるほど! これが俺の新しいギフト、湧出か!


 …………で? これが一体なんだというのだ?

 水を産み出すのは別に水魔法で事足りるし、近くに川もあるので水には困っていないぞ。

 あれ? なにこのギフト? 


 俺は茫然と噴き出る水柱を見つめる。

 なんか期待して損したかも……


「うわー、すごい量の水ですね。って、あれ? なんかあの水、湯気が出てませんか?」


 湯気? そういえば湧出が発動した場所、そして水柱からも煙のような湯気が立ち上っている。

 水じゃなくてお湯なのか? 


 俺はそーっと人差し指を水柱に突っ込んでみる。すると…… 

 温かいではないか。アリアも俺と同じように水柱を触る。


「わー、気持ちいいですね。お風呂に入ってるみたい」


 お風呂…… お風呂だと!? 


 ババッ


「せ、先生!? きゃあ! なんで服を脱いでるんですか!?」


 すまんアリア! 俺は上着とズボンを脱いでパンツ一丁になる! そして!


 ジャバー


 水柱に飛び込む! うん! 適温だ! 気持ちいいぞ! 


「先生! 何してるんですか!」

「アリア! これは温泉だ! 温泉が湧いたんだ!」


 どうやら湧出というギフトは任意の場所から温泉を湧かせる能力のようだ。

 これは気持ちいい…… 夢心地だ…… 

 噴き出るお湯の勢いが強すぎてちょっとお股が痛いが。


「大丈夫なんですか!?」

「なんともない!」


「熱くないですか!?」

「適温だ!」


「気持ちいいですか!?」

「最高だ!」


「う~。せ、先生、あっちを向いててください!」


 アリアは我慢出来なくなったのだろう。入るつもりだな?

 いいだろう。俺はアリアに背を向ける。そして……


 ジャバー


「きゃー! す、すごい! 気持ちいいです!」


 アリアも噴き出る温泉の水柱に入ってくる。

 俺とアリアは心ゆくまで温泉を楽しむことにした。


 そしてしばらく経ち…… 


 ブシャアァァァァァッ……


 ピチョッ


 水柱の勢いが弱くなっていく。

 俺は湧出を解除していないので、このギフトは発動から一定時間が経つと止まる能力なのだろう。


「き、気持ち良かったですぅ…… お風呂なんて何年振りだろ?」


 俺は後ろを振り向いたままアリアに聞いてみた。

 彼女の話では風呂は贅沢品であり、年に数回、国営の公衆浴場に行くのが庶民の楽しみの一つだったらしい。

 普段は水浴びや濡れタオルで体を拭くだけだそうだ。


 確かに俺も風呂はしばらく入っていないな。

 それにしてもこんなにいい物だったとは……


 それにしても体が軽い。温泉の効果だろうか?

 先程まで感じていた気怠さが抜けているようだ。

 はっ!? もしかして!


 俺は再び分析を発動!



名前:タケオ

年齢:???

HP:9999 MP:9999 STR:9999 INT:9999

能力:杖術10  

ギフト:

時間操作:大年神の加護

空間転移:猿田彦の加護

多言語理解:思金神の加護

分析:久延毘古の加護

魔銃:吉備津彦の加護

気功:日本武の加護

湧出:少彦名の加護



 やはり。MPが回復している。恐らく体力も回復させる効果もあるはずだ。

 この能力を使えば……


「アリア! すぐに戻るぞ!」

「きゃあ! こっち見ないで!」


 しまった。まだ着替え中だったか。

 アリアの着替えを待って、畑に戻ることにした。

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