第45話 仲間 其の二

「構え! 前進!」

「おう!」


 魔女王の城から出てきた騎兵は態勢を整え、前に出始める。

 多くを馬から落としたから盾を前にしてゆっくりこちらに向かってくる。


 俺は兵士に魔銃サブマシンガンを向け、トリガーを引く!


 タタタタタタタタタタンッ


 カンッ カカンッ


 雨のようにオドの弾丸が兵士を襲うが……


「うぉっ!?」

「大丈夫だ! 奴の攻撃は鎧と盾で防げる! 臆するな!」


 奴等の言う通り。この魔銃は威力が弱い。

 頑丈な防具を着ていれば簡単に弾かれてしまう。


「先生! 近付いてきます!」


 アリアは焦りながら城壁に攻撃を続ける。

 大丈夫だよ。

 サブマシンガンを使ったのはあくまで兵士を足止めするためだ。

 これで倒そうとは思ってないさ。


 さて武器を変えないとな。

 何にするか…… グレネードランチャーにするか? 

 爆風で範囲ダメージを与えることも出来るが、あの鎧と盾は特別頑丈に出来ている。

 殺すには至らないかもしれない。


 ならこれだろうな…… 

 俺はイメージのまま両手にオドを流す! 

 発動!


【魔銃! スナイパーライフル!】


 ジャキンッ

 

 これならどうだ? 

 単発の威力だけなら俺の魔銃の中で高い部類だ。

 もっと威力が高い魔銃もあるが…… 

 この場面では使えないしな。


 俺は片膝をついてスナイパーライフルを構える。

 少し手ぶれはするが、今は匍匐するわけにもいかん。


 スコープを覗きトリガーに指をかける。

 サイトの中に魔女王の兵士の頭が映る。


 カチッ ガォンッ


 スナイパーライフルからオドの弾丸が放たれる! 

 発射音と共に兵士の頭が弾けとんだ。

 それを見た兵士達は……


「散開!」

「はっ!」


 最初、俺達に向かってきた兵士は奴等はお互いに近寄りながら盾を構えていた。

 ファランクスっていう陣形だな。

 それでは俺に狙われやすく被害が大きくなる。

 敵ながらいい判断だ。


 散開しながら俺達に向かってくる兵士は数百といったところか。

 スナイパーライフルでは数は減らせても全て倒しきることは出来ないだろうな…… 


 迷うな。

 いつもの俺だったらここで撤退の指示を出すだろう。

 だが恐らく近くでエルフ、ダークエルフ達が俺達の戦いを見ているはず。


 ここで撤退すれば魔女王相手に逃げたという噂が広まってしまうかもしれない。

 魔女王に勝てるかもしれないという、せっかく積み上げてきた信用を潰すことになるかもしれないのだ。


 ならせめてもう少し奴等に被害を与えてから逃げればいい。


 ガォンッ ドサッ


 ガォンッ バタッ


 俺の狙撃は兵士の頭を的確に射抜く。

 だが所詮単発での攻撃だ。

 あまり数を減らすことが出来ない。

 そろそろ敵の攻撃範囲内に入る。


 このままだと霧分身がばれる可能性もある。

 ならば! 腰に差してある枝を手に取りオドを流す!


 ブォンッ


 今度は接近戦だ! 

 これは魔銃をしまい棍を構える! 

 少なくともヘイトは俺に集まるはずだ。


「ちょっと先生! 行くんですか!」

「あぁ!」

「駄目です! 危ないですよ!」

「死なない程度に頑張るさ!」


 君子危うきに近寄らず。

 今まで接近戦は避けてきたんだが…… 

 俺は君子じゃなかったってだけさ。


 覚悟を決めて突っ込もうとした時……


 ヒュンッ ヒュンッ ヒュヒュンッ


 北と南の森から矢が降ってきた。まるで雨のようにだ!


「うおっ!?」

「なんだ!?」

「ぼ、防御形態! 構え!」


 兵士は足を止め、咄嗟に盾を空に向ける! 

 いくら厚い鎧を着ていようとも、完全に防御出来るわけではない。

 視界を確保するための覗き穴や関節部分などどうしても弱い箇所はある。


 雨のような攻撃に兵士はその場から動くことが出来なかった……

 は、ははは! とうとう来たか! 

 この矢の数だ! エルフ達が来てくれたんだ! 

 恐らく数百どころか数千人の援軍だ! 

 

 ならやることは一つ! 


「アリア! 次の作戦に移る!」

「は、はい!」


 アリアは霧を操作して太陽光を空で反射させる。

 すると眩いばかりの光が空に広がる。

 これが合図になっているのだ。


 さて俺も自分の仕事をするか! 

 オドを練りながらイメージ!

 俺の持つ魔銃の中で最も強力な銃をな!


【魔銃! レールガン!】


 ジャキンッ ドスンッ


 うおっ!? やっぱり重いなこいつは! 

 発動した途端に銃口が地面に着いてしまった。

 全長は三メートル強、重さは数百キロあるだろう。

 俺じゃなきゃ扱えない銃だ。


 俺はレールガンを構える! 

 幸い魔女王軍はエルフの矢を喰らい動くことが出来ない。

 狙いは…… 城門だ!


 ありったけのMPをレールガンに流す!


 キュォォォォンッ


 くそ、相変わらず燃費が悪い。

 レールガンを一発撃つだけでほとんどの魔力を消費するんだ。

 今日は魔銃は使えないだろう。みんな、後は頼むぞ!


 トリガーに指をかけ…… 発砲!


 ズガァァァァァァンッ


 およそ銃身から発射されたとは思えない音が響く! 

 射線上にいた兵士は粉々になって吹き飛ばされる。


 俺のレールガンから発射された弾丸は秒速十キロはくだらないはずだ。

 ほぼ全てのMPを使っての一撃。

 この世に壊せないものなどないだろう。


 それが例え高度な魔法で強化された城門であってもな!


 ドヒュンッ 


 レールガンから発射された弾丸は城門を砕くどころか、周りの城壁をも粉々にした。


 さぁみんな、出番だぞ!


「突撃! ダークエルフの勇姿を見せつけてやれ!」

「行くぞ! 我らエルフも負けてられん!」

「薄汚い魔女王共め! 皆殺しにしてやる!」


 森の中から次々とエルフが出てくる! 

 予想してたより多いな…… 

 こんなにいたのか。

 数千どころか数万はいるんじゃないのか!? 

 

 ははは、こんなに俺達に協力してくれるとは…… 

 ここまでの数が揃うにはまだ時間がかかると思っていた。


 エルフ達は武器を携え、城門を失った城に襲撃をかける。

 指揮をとっているのはフリンとサシャだろう。

 はは、もうここは彼らに任せても大丈夫そうだ……


「せ、先生! 見てください! エルフさん達が来てくれましたよ! あれ? せ、先生どうしたんですか!? 顔色が真っ白です!」


 そ、そうだった。

 レールガンを撃つとこうなっちゃうんだよな。

 俺のMPはほとんど残ってないだろう。


 うぅ…… フラフラするな。


「すまん…… ちょっと肩を貸してくれ……」

「はい!」


 アリアの肩を借りて地面に力無く座る。

 俺はエルフ達の勇姿を見ていることしか出来なかった。



◇◆◇



 数時間後、剣がぶつかり合う音、城壁が崩れる音、魔女王軍の悲鳴が聞こえなくなってくる。


 その代わり聞こえてきたのはエルフ達の大歓声だ。


「うぉぉー! 勝ったぞ!」

「あぁ! もう誰も残ってない! 完全勝利だ!」

「森の民万歳! 神よ、感謝します!」


 勝鬨が聞こえる…… 

 良かった。これで拠点の一つを落としたな…… 

 安心したのかなんだか眠たくなってきた……


 体を起こしていられない。

 俺は沈みこむように地面に倒れこんだ。


「先生! どうしたんですか!? 先生! しっかりして!」

「大丈夫だよ…… 少し眠るよ…… 起きたらお祝いをしなくちゃな……」


 アリアの泣き声を聞きながら俺はゆっくり目を閉じた。

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