第44話 仲間 其の一
チュンチュン
ん…… 朝か。
眠い目を擦りテントを出ると、昨日の雨はすっかりあがり、陽光が木々の間から差し込んでくる。
これならアリアの霧分身が使えるな。
「ふぁ~…… おはようございます」
「おはようアリア。今日も頑張ろうな」
俺と朝ごはんの支度をしながら昨日のことを思い出す。
とうとうエルフ、ダークエルフの両方から接触を図ってきたのだ。
これで俺の狙い通りの展開になったぞ。
サシャとフリンは台本通りの展開とはいえ、仲間が俺達に敵対してしまったと思っているのだろう。
かなり落ち込んでいた。
だががっかりしている場合ではない。
今日からまた魔女王の城に襲撃をかけるのだ。
腹が減っては何とやらだ。朝ごはんはしっかり食べておかないとな。
とっておきの米と肉、副菜も数種類作っておいた。
それを敷布の上にずらっと並べる。それを見たアリアは……
「多いですね。こんなに食べられるかな?」
「しっかり食べておくんだ。恐らく今日からの戦いは長くなるかもしれないからな」
いつもだったら数時間で撤退するのだ。
不確定要素とはいえエルフ達の援軍があるかもしれない。
その場合はいつもより戦いが長引くはずだ。
ごはんの用意は出来たが……
ルネとエルフの二人が起きてこない。
しょうがないな。ルネはアリアに。
俺はエルフのバカップルを起こしに行く。
あいつらのテントはここから少し離れた場所にある。
二人は恋人同士だ。
夜仲良くする声が聞こえてきたら俺達が眠れなくなってしまう。
まぁ昨日はエルフ達が俺達を襲いにきたし、気落ちしてるはずだ。
さすがにイチャイチャはしてないだろ。
ガサガサッ
二人が眠るテントの前に到着。俺は中に入ろうとするが……
「サ、サシャ…… 愛してる……」
「あん、駄目よ。朝からなんて……」
おまえら…… なんでそんなに元気なんだよ。
テントの中からガサゴソ音がするではないか。
これは止めないと。
「ごほん! うおっほんっ!!」
俺がわざとらしく咳払いをすると、テントの中からバタバタ音がする。
着替えてるのだろう。
さすがに近くに人がいればイチャイチャは出来まい。
少しすると二人は気まずそうにテントから出てきた。
「お、おはよう……」
「まったく…… さっさと朝飯を食いにきてくれ。今日からまた戦いがあるんだからな」
二人を連れてアリア達が待つ場に戻ると、ルネも起きており俺達の帰りを待っていた。
「キュー!」
ルネは俺を見て嬉しそうに胸に飛び込んでくる。
ははは、おはよルネ。今日も頑張ろうな。
(はいなのー)
さて朝食の開始だ。
みんな朝なのにしっかり食べるな。
残るかと思ったが、全て無くなってしまった。
締めのコーヒーを楽しみつつ、今日の戦い方を説明する。
「飲みながら聞いてくれ。戦い方は今まで変わらない。だが今日からポジションを変える。北はフリンだけ。南はサシャだ」
「私達は裏方ってことなの? べつにいいけどなんで? タケはどうするの?」
サシャが質問してくる。
いつもと違う方法なので二人は戸惑っている。
説明してやるかな。
「昨日エルフ達が俺達を襲いにきただろ? いいにしろ悪いにしろ俺達の話は多くに広まっている。いきなり大勢の援軍は望めないだろうが、少しは俺達の戦いに感銘を受けた者が来てくれるかもしれない。
そこに人族の俺がいたら警戒されてしまうかもしれないからな。同種族のお前達だけの方が安心だろうさ」
「なるほどね。分かったよ! ふふ、でもタケが前に出るんだね。あんたが強いのは知ってるけど気を付けてね」
その後も作戦内容を話し続け、全員納得してくれたようだ。
これが上手くいけば……
今日中に城を落とせるかもしれない。
「……というのが今日の作戦だ。何か質問はあるか?」
皆答えない。笑顔で頷くだけだ。
覚悟を決めたってことだな。
「よし! それじゃ行くぞ!」
俺達は魔女王の城に向かうにした。
◇◆◇
ザッザッザッザッ
俺とアリアは川沿いを進む。
ルネは既にドラゴンに変化して後ろからついてくる。
そして森の切れ間から魔女王の城が見えてきた。
正面から見るとこんなでかいのか。
「そろそろですね……」
「あぁ。準備を頼む」
俺の指示を受け、アリアは体にマナを取り込み始める。
四大元素を使う属性魔法は大気中にあるマナを体内に取り込む。
それからオドを使って魔法に変換するんだったよな。
俺には出来ない芸当だ。
準備は整ったようだ。辺りに霧が立ち込める。
アリアが両手を上げると、霧も形を上空に昇り、太陽光にキラキラと反射する。
まるで北国で見られるダイヤモンドダストのようだ。
そして最後に一言……
【霧分身!】
ポウッ ポウッ
霧の中に数えきれない程のルネが現れる。
うわっ、近くで見ると身震いしてしまうな。
見渡す限りのドラゴンの群れだ。
実際この数が迫ってきたら俺でも逃げるだろう。
「お見事。アリアってやっぱり魔法の才能があるよな」
「そ、そうですか? えへへ……」
かわいく照れ笑いをするが、彼女の力は驚嘆に値するものだ。
俺は異世界を旅する中で多くの大魔導師と会ってきた。
だがアリアほど繊細な魔力コントロールが出来る者は見たことがない。
霧分身を発動する際、像が乱れないよう集中する必要がある。
だがアリアは霧分身を発動したまま攻撃魔法すら発動出来る。
やはりこの子は特別だ。
アリアが持つギフト、鍵ってやつが関係してるのかもな。
俺とアリアの力があればきっと勝てる。
あとは実行に移すのみ!
「さぁ行くぞ! ルネ、走ってくれ!」
「キュー!」
ドラゴンの大軍が魔女王の城に向けて走り出す!
ドドドドドッ ズシャッ
ブレスが届くギリギリの所で止まり、戦闘体勢をとる。
と、同時に魔女王の城からは警鐘の音が。
カーン カーン カーン
「来たぞ! 総員構え!」
「騎兵隊! 出陣!」
ゴゴゴゴゴゴッ
轟音を立て、馬に乗った兵士が出てきた。
兵士は大盾を構え、馬にも甲冑を着させてある。
「先生、あれ!」
「分かってる! 恐らく耐魔法用の装備だ! ルネとアリアは城壁だけを狙え! 俺は騎兵は何とかする!」
そろそろ対策を練ってくるとは思っていた。
だから俺達が前方から攻めることにしたんだ。
俺の魔銃は物理属性。耐魔法装備を着込んでいても意味は無い。
さて相手は多数だ。使う武器は何にするか?
グレネードランチャーでもいいが、レートが低いしな。
なら威力は低いがあれを使うか。
俺は体内でオドを練ってから…… 魔銃を発動!
【魔銃! サブマシンガン!】
ジャキンッ
俺の両手に現れたのは黒光りする短機関銃が握られている。
この魔銃はレートは高いが射程が短く威力も低い。
だが今回のような多数を相手にする場合に真価を発揮する。
俺はトリガーに指をかけて……
タタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタタンッ
キンッ キキンッ カンッ
装甲の厚い部分だと弾かれてしまうが……
「うわぁっ!?」
「ぐおっ!?」
ドサッ
俺の弾丸をまともに受けた兵士の多くが落馬する。
直接傷付けることは出来ないが、衝撃は殺すことは出来ない。
「今だ!」
「はい!
「キュー!」
ドヒュンッ ゴゥンッ
アリアの魔法とルネのブレスが放たれる!
二人の攻撃は城壁に命中! 轟音をあげるも……
くそ、少し欠けたくらいのダメージしか与えられていない。
「先生!」
「大丈夫だ! そのまま攻撃しろ!」
俺は騎兵を。アリア達は城壁を攻撃し続ける。
南北の森からの攻撃はまだ無いな。
一時間経っても協力してくれるエルフが現れない時は撤退することにしている。
来てくれよ……
俺は祈りながらトリガーを引き続けた。
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