第42話 混水摸魚 其の四
俺達が魔女王軍の城を襲撃してから今日で十日目。
今日は正面からフリンとドラゴンに変化したルネ。
南にサシャとアリア。
そして北の森はいつも通り俺が魔銃を城に撃ち込む。
魔女王軍は城に籠りながら、申し訳程度に矢を放つ程度の反撃に止めている。
俺達の攻撃は強力だが、強固な城壁を傷付けるだけで破壊するには至らない。
恐らく城壁には付与魔法がかけられており、翌日には元通りになってしまうのだ。
つまり、俺達も敵も被害を出していない。膠着状態だ。
だがアリアの話では、南の森からダークエルフが俺達の様子を見に来ているらしい。
時折北の森からエルフ達の反応もあった。
彼等は協力してくれるわけではない。
ただ見ているだけ。だがきっともうすぐ接触してくるはずだ。
「キュー!」
ゴゥンッ
いつものようにルネが空に向けてブレスを放つ。
これが撤退の合図になっているのだ。
フリンは矢が届かない位置に立ち、城に向かって大声で……
「今日も城から出てこないのか!? この臆病者共め! また明日来る! 首を洗って待っているがいい!」
フリンは啖呵を切って踵を返す。さて俺達も戻るとするか。
◇◆◇
待ち合わせ場所に戻るとみんな先に戻っていた。
今日は俺が最後だったか。
エルフの二人の表情が優れない。
今日も戦いについて思うところがあるのだろう。
「ねぇタケ…… 私達、このままでいいのかな?」
焦ってるな。気持ちは分かる。
「大丈夫。俺達の戦いは恐らくダークエルフには知られている。もちろんエルフにもだ。少なくとも俺達の存在は認知されてるはずだ。果報は寝て待てだ」
「でも、もし接触が無かったら?」
「大丈夫だ。もし駄目でも次の手は考えてある。今は自分達に出来ることに集中しよう」
俺の言葉に、みんな頷く。
そうは言ったが実は俺も少し焦っていた。
「今日はもう休もう。明日もいつも通り……?」
おや? 顔に水が? 空を見上げると……
ポツポツ サアァァッ
くそ、雨が降ってきたか。
明日には止めばいいのだが。
雨が降るなか、明日に備えて早めに休むことにした。
◇◆◇
ザアァァァッ
くそ、今日も雨だ。
これじゃアリアの霧分身が使えない。
霧分身を発動するには太陽光が必要だからだ。
今日の襲撃は中止だな。
「すまんが今日は休みだ。だが魔女王軍に動きがあるかもしれん。偵察は交代で行おう」
「それじゃ僕から行くよ!」
フリンは意気揚々と魔女王の城に向かう。
俺達は自分の番が来るまで休むことに。
久しぶりの休みということもあり、俺達は思い思いの時間を過ごす。
魔女王軍に動きがある可能性もある。偵察は交代で行うことにした。
サシャは体を動かしたそうにしていたので、アリアと組打ちをしている。
サシャは木剣、アリアはいつもの棍で組打ちを始める。
カン カカン
乾いた音が森に響く。
アリアの攻撃を華麗に捌き、サシャはアリアの喉に木剣を突きつける。
見事な腕だ。腕力はアリアの方が上だが、剣術スキルを持つサシャには敵わなかったか。
「ふえー、負けちゃいました……」
「ふふ、アリアも強かったよ。いたた…… それにしてもなんて力なのよ。手が痺れちゃった……」
いい戦いだったと思う。
スキルを持つサシャ相手にあと一歩及ばすといったところ。
ステータスを上げ続ければ一本取ることも出来るだろう。
さて、もうすぐフリンも戻ってくるはずだ。
コーヒーでも淹れて待つとするか。
俺はヤカンに水を入れて火にかける……
ガサガサッ
むむ? この音は? フリンが帰ってきたか。
「ふぅ、戻ったよ」
「お帰り。魔女王軍はどうだった?」
「今のところ動きは無し。今日も僕達の襲撃があると思ってるんだろうね。城壁の上から大勢が監視してた」
「そうか。それじゃ次は俺が行くよ。少し休んで……?」
ペキッ
この音……
気配を殺すようにこちらに寄ってくる者がいる。
数は…… 十人程度か。
距離は百メートル先ってところだな。
魔女王軍か? フリンがつけられた?
いや、奴等の城はここから東にある。
気配は南からやってきた。もしかしたら……
「アリア、サシャ。来るぞ!」
「え? 来るって…… もしかして!?」
「サシャ! 台本通り頼む! アリアとルネはこっち来て!」
「はい!」
足音が近付いてくる。
俺達はサシャを先頭にして足音の主が来るのを待つ。
ガサガサッ
藪の中から現れたのは……
「サシャ! こんなところで何をしている!?」
「と、父さん!?」
現れたのはダークエルフの一向だ。
皆警戒しているのだろう。
武器を俺達に向けたままだ。
それにしても身内が出てくるとは思わなかった。
サシャの父親は怖い顔をして詰めよってくる。
「説明してもらうぞ」
「これは…… あ、あの……」
しどろもどろだ。
緊張して言葉が出てこないのだろう。
覚えたはずの台詞が出てこないようだ。
仕方ない。俺はサシャの父親の前に出て膝まずく。
チャッ
殺気を放ちながら剣を突きつけられる。
だが俺は抵抗しない。
ようやく狙い通りの展開になったのだ。チャンスを潰してなるものか。
「貴様人族だな…… なぜここにいる?」
「お初にお目にかかります。私はサシャ様の一の従者、タケと申します」
「従者だと!? サシャ! 最近帰ってこないと思ったら一体何をしているのだ! しかも人族の従者だと!? 魔女王達の様子を見に行った者から報告を受けてな。お前とエルフが協力して魔女王と戦っているというではないか! なぜ敵である者と手を組むのだ!」
かなりお怒りのようだ。
サシャは父親に気圧されられ、相変わらず言葉が出てこない。
父親はそんなサシャを見かねてため息を一つ。
そしてサシャの手を引いて……
「帰るぞ! おい! こいつらを縛り上げろ!」
「と、父さん! 待って!」
サシャは父親の手を振り払う。
そして覚悟を決めたのか……
「帰りません! ここで戦います! 私には一緒に戦ってくれる仲間がいます! タケ、アリア、ルネ。彼等は種族は違えどヴィジマを救うために立ち上がってくれました!
それに比べて我らダークエルフはどうなのですか!? 我らだけで魔女王と戦えるのですか!? エルフと憎しみあっていては魔女王に蹂躙されるのは分かっているではありませんか!」
「サシャ! お前……!」
今度はサシャの言葉に父親が押されている。
周りのダークエルフも二人のやり取りに聞き入っているな。
さて今度は俺の出番だ。
「失礼。サシャ様、お父上と争うことはありません。私が説明させていただきます」
「タケ…… そ、そうね。頼むわ……」
興奮するサシャを後ろに下げる。
父親もかなり興奮しているな。
「なんだ! 私はサシャと話しているのだ! 人族など出てくるな!」
「いいえ、私が話します。サシャ様の言った通り、今は種族同士いがみ合っている場合ではありません。私達はサシャ様の国を憂う気持ちに感銘を受け、一緒に戦ってもらうようお願いしました。
ここにいるアリアは魔族、はるか北の国の出身です。彼女の国は魔女王に滅ぼされました。
この子はルネ。隣の国バルルの出身です。あなたもご存知でしょう。魔女王はこの国を抜け、バルルに侵攻したことを。
私は人族ですが、魔女王に家族を殺されました……
私達は魔女王を憎みます。奴等に復讐したい…… ですが、そんなことよりも不幸な人を増やしてはいけないのです。そこで私達は種族の壁を超え、平和な世を願う方を見つけたのです。
それがサシャ様だったのです。サシャ様は憎しみを超え、ここにいるフリン様と共に手を取って魔女王達と戦うことを決めました。
もちろんサシャ様、フリン様が強い力を持っているのは知っております。ですが、私達は二人の心に惚れたのです。なので私達は二人に従属の誓いを立てたのです!」
「キュー!」
こらルネ! 今いいとこなんだから黙ってて!
(ごめんなさいなのー)
まったくもう。
それじゃ次はフリンの出番だ。
俺は横を向いてフリンに目で合図を送る。
「…………」
フリンは無言で立ち上がり、サシャと肩を並べる。
二人でサシャの父親の前に立ち……
「北の森のフリン。あなたも知っているとは思いますが…… こうして話すのは初めてですね」
「ふん。忌々しいエルフか。知っているとも。貴様の魔導弓に貫かれた仲間は数知れん」
「それはこちらも同じです。ですが僕はダークエルフを恨みません。ここにサシャは僕の大切な仲間であり…… いやそれ以上の存在ですから」
「フリン……」
二人は父親の前で手を繋ぐ。
その光景を見た父親は……
「貴様! 娘から離れろ!」
ブォンッ
父親は剣を構え、フリンに剣を振り下ろす!
やらせるかよ!
ガキィンッ
俺は棍で斬撃を受ける!
「な!? 貴様!」
「我が主人に刃を向けるとは…… お父上といえど許せん! 御免!」
キィンッ ドスゥッ
「ぐぉっ!?」
ドサッ
剣を弾き飛ばし水月に一撃入れておく。
なに軽くだ。怪我しない程度にな。
だが父親は大きく吹き飛んでいった。
少し苦しそうだが意識はある。
「失礼。ですがこれ以上はお互い話すことはないでしょう。どうぞお引き取りを」
「ご、ごほっ! ぐうぅ…… お前達、帰るぞ……」
サシャの父親はダークエルフに肩を貸してもらいヨロヨロと立ち上がる。
「父さん……」
サシャは心配そうに父親を見つめる。
ごめんなサシャ。これも作戦の一つだ。
最後に俺達に背を向ける父親に声をかける。
「私達はここにいます。今は魔女王を倒すことはできないでしょうが、私達はあきらめません。サシャ様とフリン様がいる限りね」
「ふん…… 私は南の森のテオ。覚えておけ」
テオさんね。覚えておくさ。
一波乱はあったものの、ダークエルフからは接触があった。
これで目的の一つが達成出来たな。
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