第35話 訳ありエルフ

 ここはヴィジマの森の中。

 そして目の前には抱き合う二人の恋人達。

 愛し合っているのだろう。

 抱き合いながらキスをしている。

 唯一おかしいとするならばお互いの手に短剣が握られてることだな!


 っていうか、あいつら心中する気だ!


「アリア! 女の短剣を狙え!」

「え!? は、はい!」


 俺の手には魔銃ハンドキャノンが握られている! 

 間に合え! 最悪腕に当たっても後で治せばいい!


「撃て!」

氷弾アイスバレット!」


 ガォンッ キュンッ


 オドの弾丸とアリアの魔法が空を切り裂く音を立て飛んでいく! 


 ガキィンッ


「うわ!?」「きゃあ!?」


 共に命中! 

 短剣は二人の手を離れ、吹き飛んでいく! 

 エルフ達には当たらなかったが、二人は地面に倒れ動かなくなった。


「あ、当たってませんよね!?」

「あぁ。だが衝撃で気を失ったんだろう。アリア、行くぞ」


 倒れた二人のもとに駆け寄る。

 怪我は無いようだが意識も無い。

 このままにしておけないな。

 二人を介抱してあげなくちゃ。


「俺は男の面倒をみるよ。アリアは女を頼む」

「は、はい! でもこの人、肌の色が…… エルフとは違う種族なのかな?」


 アリアの言う通り、女エルフは褐色の肌をしている。

 そういえばバルルを出る前に竜人の長老シバは言っていた。

 同じ種族であるが、肌の色で差別があるとかなんとか。


 つまり男の方は普通のエルフで女がダークエルフとかなのか? 

 でも差別どころか二人は恋人同士のように見えた。

 分からないことだらけだ。


 とりあえず話を聞かないと何も分からないままだ。

 俺達は二人を介抱し、起きるのを待つことにした。



◇◆◇



「キューキュー。パパー」

「違うよ! アリア。アリアって言ってみて!」

「キュー? パパー」


 アリアはルネに言葉を教えようとしてるのかな? 

 だがルネが言えるのは今のところパパのみだ。


 エルフを保護してから二時間が経つが、彼等はまだ目を覚まさない。

 暇なのだ。しょうがない。

 コーヒーでも淹れて待つかな。


 お湯を沸かしてコーヒーを淹れる。


「ルネ! アリアって言うの! あれ? いい香り……」

「キュー!」

「二人とも、少し休もう」


 二人は笑顔でコーヒーを受け取る。

 朝ごはんも食べずに出てきてしまったので、軽食を摘まみながらエルフが起きるのを待つことに。


「もぐもぐ…… でもなんで死のうとしてたんですかね?」

「さぁな。それは本人に聞かないとな」


 俺達がコーヒーを飲み終わる頃、女エルフが目を覚ます。

 彼女は虚ろな目でボンヤリと辺りを見渡している。


「ここは……? 天国なの? あなた達は天使様?」


 まだ混乱してるみたいだな。


「いいや。生憎天国じゃなくてね。君達はまだ生きてるよ」

「……!? 人族!」


 女エルフは飛び起き身構える。

 殺気がビンビンと伝わってくる。

 しょうがない。

 俺はこの国でも彼等の敵である人族だからな。


「落ち着いてくれ。俺は魔女王の手先じゃないよ」

「口では何とでも言える…… 近付いたら殺す!!」


 穏やかじゃないね…… 

 どうする? 彼女の誤解を解くには……? 

 俺が答えを出す前に、アリアとルネが女エルフの前に立つ。


「ちょっと待ってください! 私達は敵じゃありません!」

「キュー!」

「あれ? あ、あなた達は…… 魔人と竜人!? なんで人族と一緒にいるの!? 危ないわ! その男から離れなさい!」


 エルフは警戒を緩めない。

 それどころかマナを体内に取り込んでいるではないか。

 狙いは俺だろうな。ならば……


 今度は俺が前に出る。


「キュー!」

「せ、先生! 危ないです! この人何するか分かりませんよ!」


 だからだよ。恐らくエルフはかなり強い。

 どんな攻撃方法を持っているか分からんが、二人に当たったら大変だからな。


 かといってエルフを傷付けるつもりもない。

 彼女らに信用してもらえればエルフからの協力も得られるかもしれない。


「もう一度言うぞ。落ち着いてくれ。ここで争うつもりは無い。話を聞きたいだけだ」

「ふん。百歩譲ってあなたが敵じゃないとしても、人族に話すことなどないわ」


「そう言うなって。それとも何か? エルフってのは恩知らずな種族か? 君の命を助けたのは俺達だぞ」

「お願いした覚えはないわ。せっかくフリンと天国に行けると思ったのに……」


 天国に? 

 そういえばこいつらは心中しようとしてたんだよな。

 愛しあう若い男女が幸せな未来を捨て、命を捨てようとしていた。

 余程の悩みを抱えているに違いない。


 天国があるかどうかは分からない。

 だが死んでしまってはそれでおしまいだ。

 辛いことから逃げられるかもしれんが、幸せを手にすることも出来ない。


「なぁ、死んでどうするよ? 生きてりゃいいことだってあるだろ?」

「何よ……? 人族のあなたに何が分かるっていうのよ!」


「分かるさ。俺もかみさんを失ってるからな。しかも俺は置いていかれた側だ。言っている意味分かるよな?」

「…………」


 ララァを責めるつもりはない。

 彼女は自ら死を選ぶことで俺に自由に生きてほしいと願った。

 だが残される側は心に傷を負って生きるしかない。


「タケ。それが俺の名だ。彼氏が起きるまでゆっくりしててくれ。アリア、ルネ。向こうにいこう。何か欲しかったら言ってくれ」

「…………」


 さすがに急すぎたかもしれないな。

 起きたら敵である種族がいたのだから。

 少し落ち着く時間を与えてあげよう。


 俺達が女エルフと距離を取ると、ルネが経路パスを使い話しかけてくる。


(あの人からなの。嫌な気持ちを感じたの)


 そりゃ今から死のうとしてたんだからな。

 負の感情を感じ取ったんだろう。


(あのね、あの人達から二つの悪いのが出てたの。悲しい気持ちと怒ってる気持ち)


 悲しみと怒りか。ルネはすごいな。

 そんなことも分かるんだな。


(もっと誉めてほしいのー)


 俺はルネの頭を撫でた後、コーヒーを淹れてアリアには渡す。


「お代わりですか?」

「アリアには後で淹れてやるよ。これを彼女に渡してきてくれ。アリアなら同性だし、歳も近そうだ。なんなら少し話してきてくれ」


 アリアなら俺より警戒されないだろ。

 コーヒーを受け取り女エルフのもとに向かう。

 遠目から見ていたが、エルフはコーヒーを受け取り飲み始める。

 アリアはその横に座って何か喋りだしたようだ。


 少し様子をみるか。

 俺はルネと二人で時間を潰すことにした。



◇◆◇



「キュー…… キュー……」


 ルネが俺の膝を枕にして眠っている。

 待ちくたびれてお昼寝中なのだ。

 ちなみにアリアは女エルフと話に行ってから帰ってこない。

 別に俺から見える位置にいるので問題無いのだが。


 話している内容は分からないが、なんだかすごく盛り上がってる。

 二人とも楽しそうに話してるな。

 エルフって排他的な種族なんじゃなかったっけ?


 こうして見る限りだと、殺気は感じられないし女の子特有の黄色い声というのだろうか、キャーキャーと会話をしているようだ。

 何を話しているのか気になるところだな。


「うぅん…… ここは?」


 おや? 今度は男エルフも目を覚ましたな。

 俺を見たら警戒するはずだ。この場は彼女に任せよう。


「で、その後どうしたんですか!?」

「あ、あのね、フリンと夜の森でね、彼ったら私を抱きしめて…… って、フリン!」


 会話に夢中な二人もようやく男が起きたことに気付く。

 嬉しそうに駆け寄って男を抱きしめた。

 若いっていいねぇ。


「サシャ!? あれ? 僕達死んだはずじゃ……?」

「ううん。生きてるわ。あのね、私達助けられたみたいなの。あ、紹介するね。この子はアリア。お友達になったの!」


 お友達!? あの短時間で心を開かせたのか? 

 アリアって意外と人心掌握術に長けてたりするのかも。


「フリン、驚かないでね。私達を助けてくれたのはあそこにいる人族なの」

「人族だと!?」


 フリンと呼ばれたエルフは俺を睨み付ける。

 まぁ彼女の警戒は解けたみたいだし、話は聞けそうだな。


 まずはお茶でも飲みながら話を聞くとするかな。

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