第19話 竜人の里へご招待

 この世界に降りたってからの初めての国であるバルル。

 数日経ってようやくこの地に住まう竜人族と接触することが出来た。

 いきなり襲われたのは予想外だったけどな。


 彼らは俺を殺す気満々だったので、無力化しようと棍を振るったのだ。

 十数人をノックアウトしたところで意外な助け船が出てきたんだよな。


 ルネだ。ルネの思考が俺だけじゃなく、竜人達にも流れ込んできた。

 彼らはルネことを御子と言ったな。

 ルネは彼らと違いほとんど人間みたいな容姿をしている。

 竜人ではなく竜神という種族らしい。


 竜人が矛を納めたのもルネのおかげだ。

 やはりルネは特別な存在なのだろうか? 

 まぁ今は話を聞いてみないとな。


「まずは代表者と話がしたい!」

「…………」


 俺の声に応えるかのように一際体の大きな竜人が前に出てきた。

 俺を襲ってきたワニタイプの竜人ではない。

 デュパと同じトカゲ型だ。

 こわ…… ほとんど魔物だな。

 だが瞳の奥に知性の光が感じられる。


「貴様、本当に魔女王の手先ではないのか? 御子様はどこにいる?」

「無事だ。だがまずは俺の話を聞いてもらう。いいか?」


「グルルルル…… 分かった……」

「そうか。なら場所を移そう。あんたみたいなデカイ奴はテントに入らないからな」


「人族が小さいだけだ……」

「そうかもな」


 俺はこれ以上雨に濡れないよう、木陰の下に向かう。

 さぁ話をするとしようか。



◇◆◇



「……というわけだ。これで俺が敵じゃないって分かってくれたか?」

「ふん。だが味方でもない。人族は信用出来ん」


 ごもっとも。

 いきなり信用してもらおうとは思っていない。

 だが俺が魔女王と対抗するにはこいつらの協力が必要不可欠だ。

 なので俺は次のカードを出す。


「そうだ、道中でもう一人竜人を助けた。デュパっていう竜人だ。知ってるか?」

「デュパ!? グルルルル、なぜ貴様が!? や、奴はどこにいる!?」


 この慌てよう…… 

 知り合いなのか? 

 なら言うのは酷だが伝えないとな。


「死んだよ。助けられなくてすまん。ここから東に三日歩いた場所に弔っておいた。それと伝言がある。勇敢に戦って死んだとな」

「そうか…… 感謝するぞ。デュパは私の部下でな。優秀な男だった。私はベルンド。里の警護をしている」


 少し竜人の雰囲気が柔らかくなった。

 これでまた襲われるってことにはならないだろう。

 これだけでも大きな収穫だ。


 そろそろ次の話をしよう。

 ベルンドは警護を任されていると言ったな。

 なら彼以上に影響力が強い者がいるはずだ。


「すまないが、俺をあんたらの里に連れてってくれないか?」

「お前を? それは出来ん。里は竜人の聖地。他の種族が入っていい場所ではない……」


 断られてしまった。

 でもはいそうですかと引き下がれるわけがない。

 ちょっと汚い手を使うか。


「へぇ? あんたらは恩人を無下に扱うのかい? 御子を救い、仲間を弔ってやった相手にだぜ? それが竜人のやり方かい? それにあんたらの御子様は俺になついちまってな。里まで送る間でいい。頼むよ」

「グルルルル…… まずは御子様に会わせろ…… それから考える」


 いい返事は貰えなかった。

 だがこれでいい。

 少しずつ交渉の間口を広げていけばいいのさ。


「分かった。ついて来てくれ」


 俺達はテントに向かう。

 道中、怪我をした竜人を介抱している天幕を見つけた。

 痛そうな呻き声が聞こえるな。

 やったのは俺だし治してからでもいいか。


「少し待っててくれ」

「何だ? お、お前、勝手に入るな!」


「お前じゃねえよ。タケと呼んでくれ。はは、しまった。自己紹介がまだだったな」

「グルルルル…… 全く人族というのは…… で、お前は何をする気だ?」


 俺は傷付いた竜人に手を触れてオドを流し込む。

 骨折くらいならすぐに治せるからな。

 怪我をしてるのは数十名。

 なに、一人一分もかからないだろ。


 パアァッ


 光りが竜人を包み込む。すると……


「あ、足が動く……?」

「もう大丈夫だ。悪かったな」


「ごほっ…… あ、あれ? もう痛くないぞ?」

「すまなかったな。それじゃ次だ!」


 こうして最後の一人まで治療を終える。

 ふぅ、ちょっと疲れたな。

 気功はMPを使用する。

 しかも相手を癒す場合は結構なMPを消費するから疲れるんだ。


 パアァッ


「これでよし…… ベルンド、待たせたな」

「グルルルル…… お、お前一体何をした? あれほどの傷を癒せるとは…… 見事な腕だ。お前は魔導師なのか?」


 属性魔法は使えないけどな。

 俺の能力については後で話そう。

 変に警戒されても嫌だしな。


「まぁそんなとこだ。それじゃ御子に会わせてやる」

「グルルルル……」


 グルグルうるさい奴だ。

 俺はベルンドと共にテントに向かう。

 このばかでかい図体だ。テントに入らないからな。

 俺はルネに伝わるよう強く念じてみる。


 ルネ、今からお客さんが行くよ。

 テントから出て来られるかい?


(タケ? 嫌なのー。大きな音がして怖かったのー)


 大丈夫だよ。

 ルネのお友だちを連れてきたんだ。


(噛まない?)


 まぁ見た目は怖いけど、噛みはしないだろ。


(分かったのー。お外に出るのー)


 これでよし。

 後はベルンドにルネを会わせれば……と思ったが、テントから声がする。

 これはアリアの声だな?


「ルネ! 出てきちゃ駄目!」


 殺気だった声だ。

 もしや…… 俺は急ぎテントに向かう! 


「アリア!」


 彼女は棍を構え、テントを囲う竜人を威嚇している。

 しまった、アリアには何も伝えてなかったな。

 俺はゆっくりとアリアに近付く。

 雨で視界が悪いのだろう。

 アリアは俺に棍を突き付ける。


「寄るな! あれ? せ、先生……?」

「す、すまん。何も伝えずに放置してしまって……」


「…………」

「悪かった。もう大丈夫だからな」


 怒っているのだろうか? 

 何も言わず俺を見つめる。

 あれ? 目が潤んできてる。

 アリアは腰が抜けたようにその場に崩れ落ちた。


「ふぇ~ん、ごわがったよ~」


 泣いた。よ、よほど怖かったのだろう。

 いくらアリアが強くなったとはいえ、まだ子供だからな。

 悪いことをした。


「な、泣くなって。竜人達とは和解出来たんだ」

「先生のぶぁか~。一言言ってくれてもいいのに~」


 しょうがないな。

 俺は腰の抜けたアリアを抱っこしてテントに連れていく。

 その際ギュッと首に抱きついてきた。


「アリア?」

「先生のバカ…… 次は連れてって下さい……」


「分かった。俺は少し話してくる。少しここで休んでてくれ」

「はい……」


 アリアをテントに置いて外に向かう。

 ルネが心配そうに俺を見つめていたので、手を広げて迎えてあげた。


「おいで」

「キュー」


 ルネは俺の胸に飛び込んできたので、抱っこしてベルンドの下に向かう。

 竜人の見た目は爬虫類に近いので表情は分からないが、雰囲気で驚いているのが分かる。


「信じられん…… 警戒心が強い竜神族が人族になつくとは…… し、しかし貴様の言っていたことは本当だったようだな」

「そういうことだ。彼女を親元に返してあげたい。あんたらの里にいるんだろ?」


「グルルルル……」


 ベルンドは喉を鳴らす。

 それは、はいなのかいいえなのか分からんぞ。  

 どっちなんだ?


「御子様の母君…… 女王様は亡くなったのだ。我らを救うために前線に出られてな……」


 死んだのか。

 幸いベルンドの言葉はルネに届いていないようだ。

 ルネの経路パスでは誰彼構わず思考を読み取ることが出来ないみたいだな。


 それにしても話に聞く感じだとルネの母親って竜人のトップみたいなものだろ。

 愚策だろ、どう考えても。

 王のような権力を持った者は戦ってはいけない。

 戦争が起きて、例え追い詰められたとしても逃げて生き残ることが王族に課せられた使命だ。


「逃げなかったのか?」

「あの方は竜神族だからな。止められる者などいないさ。我らの制止を振りきって飛び立たれた。幼い御子様を我らに託され、ブレスで憎き人族を焼いていったのだが…… 突如天から降ってきた巨大な光の槍に突かれて……」


 で、死んでしまったと。

 まぁ話は分かった。

 冷たいようだが過去に犯した過ちは覆せないし、魔女王の軍勢が止まることもない。


 なら俺達に出来るのは……


「なぁベルンド。今この国で一番権力があるのは誰だ?」

「権力か。御子様になるのだが、まだ幼い。我ら竜人の族長達が一時的ではあるがこの国を治めている」


 族長達か。彼らに会う必要があるな。


「だったら彼らに会わせてくれ」

「待て待て! 聖地でもある我らの里に人族が入るなど前例が無いのだ! 私の一存では決められん!」


 ベルンドの言うことも分かる。  

 だがここでグズグスしてる暇は無い。


「なぁ、時間が無いことくらい分かるよな? 時が過ぎれば勝率はどんどん下がっていく。このままじゃ生き残ったルネだって殺されるぞ? あんたらの大切な御子様なんだろ?」

「キュー」


 自分の名前は耳で覚えたのかな? 

 ルネが笑顔で俺の首に抱きついた…… 

 って、その光景を見てベルンドがプルプル震えているのだが。どうしたのかな?


「き、貴様…… まさか御子様に名前を……?」

「い、いやな。一時だけだが一緒に過ごしてたんだ。名前くらいいいだろ? ほら、本当の名前があるならそっちを使ってくれて構わないわけだしさ……」


「タケ…… お前を我らの里に連れていく。だが客人としてではない。罪人としてだ……」


 チャキッ チャキッ チャキチャキチャキチャキチャキ


 竜人達が集まり俺に槍を突き付ける…… 

 ま、まぁこれで里に行けるんだ。

 第二関門突破……だよな?

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