第98話 ファッションヤンキーちゃん、ロリドワーフと待ち合わせ場所へ向かう

「あ、そこ右ねー」

「じゃと、犀繰」

『ウス』


 私……というか私とパックンさんは犀繰に乗って洞窟に向かう際に抜けた門から指定の場所に向かっていた。というのも、パックンさんが送ったムラムラマッサンへのメッセージはすぐに届いたんだけど、そのままドヴァータウンにサラマーダが降り立ったら色々パニックになるから離れた場所で会いたいらしい。

 んじゃよろしくって私は立ち去ろうとしたんだけどね?パックンさんにつかまっちゃった。「アンタのゴーレムいれば早く着くわよね?」って。しかも振りほどけないし。この人もしかして私よりATK高いの?いや私ぶらぶらしたいっていうか……あ、すいません行きますって。

 で、現在に至ります。ちなみにパックンさんは私の前の余ったシートの所にちょこんと座ってます。あら可愛いとなるんだろうけど、この人中身結構強烈だからね。


「にしても便利ねー移動凄い楽じゃない。どうやって作るの?」

「まずゴーレムの金核を用意します」

「難易度高くない?」


 そんなことを私に言われてもしょうがないじゃないか。私だって運よく金核手に入れたんだからね。にしてもパックンさん程の人でも金核は持ってないのか。我ながら本当にいいもの手に入れたものだよ。

 おっ、何か道が開けてきたよ?森の中に無理やり道を作ったような道路を進んだ先は――それはもうのどかな草原でした。


「ここが目的地なん?」

「そうよ、フィアリー草原ってところよ。ムラムラマッサンは……まだみたいね」


 犀繰から飛び降りたパックンさんはキョロキョロと辺りを見渡し、ムラムラマッサンの不在を確認する。そもそも竜ほどなれば大きさですぐわかるのでは?もしかしてトカゲだし擬態とか出来るのかな?

 私も犀繰から降り草原を少し歩く。うーむ、ポートガス街道の草原もよかったけどこちらも中々にいいのどか加減じゃないの。人と会う予定じゃなければ寝転んで昼寝していたかもだよ?


「プゥプゥ」

「おん?」


 何やら鳴き声が?そちらに目を向けると、うさぎがいた。頭に角生やしたうさぎさんだ。私知ってるよ、あれアルミラージって言うんでしょ?でも角小さいね。しかも一本角じゃなくて鬼みたいな二本角だ。ひくひくと鼻動かして、可愛らしいじゃない。ヤンキーじゃなければ黄色い声出ていたよ。

 ふふ、でもヤンキーでも動物は愛でるものだ。ほら、ヤンキーが雨の中捨てられた子犬を撫でて「お前も独りぼっちなんだな」的なのってもはや定番じゃない?私それにキュンとしたことは無いけども。


「おう、可愛いのぉ。こっちこいや」


 私がその二本角うさぎを撫でようと手を伸ばしたその瞬間、お腹の所に軽く殴られたかのようなドスッとした衝撃が。


"パッシブスキル 踏ん張り所の効果が適用されました。なお、次の発動は30分後です"


 え?


「ええええええええええええええええ!?」


 気付いたときには私のHPが1まで削られていた。馬鹿な、攻撃なんて喰らって――あれ?うさぎは?っていつの間に私の懐に入り込んだんだ!?そしてこのHPの異常な減り、犯人お前でしょ!?


「何やってんのよアンタ!?」


 突然の出来事にただうさぎを見下ろすことした出来なかった私を現実に引き戻したのは、パックンさんの声とそれと共に振るわれた大槌の風切り音だった。大槌の面は正確にうさぎを捉えまるでゴルフボールの如くうさぎをかっ飛ばした。ナイスショット……あ、池ポチャですね。ウォーターハザードによりペナルティショットです。


「す、すまん助かった」

「気を付けなさいよ?連れてきておいてなんだけど、ここの適正レベル28なんだから。下手したら即やられるわよ?」

「はよ言えや!即やられかけたわ!」


 私の今のレベル17だよ!?10以上も差があるところに連れださないでもらえますかね!?

 さっきの二本角うさぎはオーガラビットと呼ばれるらしく、あんな見た目しておいてパワーはコング・コング・コングに匹敵するらしい。ゴリラ、あんなに小さいうさぎと匹敵しちゃうのか……しかもオーガラビット機動力もあるみたいだし。ただ属性攻撃は無いらしい。よかったね、ゴリラ。お前には雷属性があって。


「そういう訳で、アンタは私の後についてきなさい?私ならやれるから」

「いや、小さい子に守られるのってヤンキーの威厳がのぉ」

「小さなうさぎに体力削られたんだから威厳もなにも無いでしょ。」


 仰る通りでございます。反論できないので大人しくその小さなお背中に隠れさせていただきやす……うぅ、知り合いいなくてよかった……

 その後もオーガラビット並びあらゆるモンスターが私たちに襲い掛かってきたが、パックンさんはいずれも物ともせず、大槌の一振りで全て片付けていた。上位勢怖っ

 そうしてナイスショットし続けて数刻、不意に空気が変わった。別に殺伐とした世界に生きてるわけじゃないから殺気とかそういうのは分からない。でも空気が重くなったというのは何となく分かった。


「パックン」

「えぇ、来たようね。」


 見ると草原に潜んでいたのだろう、色んなモンスターが姿を見せその全てが何かから逃げるように私たちに目もくれず森の方へと駆けて行った。

 あの私が手も足も出なかったモンスターが一目散に逃げだすほどの存在、それは空から現れた。


「あれが……火竜サラマーダ……」


 深紅の鱗に蝙蝠に近い構造をした紅き翼。まさに竜、ドラゴンと呼ぶにふさわしいその姿は圧巻の一言だった。やっば、AFW凄いなぁ。なんかもう他のモンスターと色々と質量が違うというか……うん?何か背中に乗ってない?手振ってない?何あれ?




 彼は、珍しく武器関係以外のメッセージをパックンからもらった。サラマーダを連れてきて欲しいという彼女の願い、「あいつ、あんなにドラゴン好きだったのか」そう思った彼は、友人として叶えてやらねばとサラマーダに伝えた所、快く了承をもらえた。

 彼は場所をフィアリー草原と指定しサラマーダの背に乗り、連れて行ってもらった。ドラゴンのスピードはすさまじく、遠く離れたはずのフィアリー草原にあまり時間を掛けず着くことが出来た。

 そこで彼は上空で着いたことをアピールするため下にいるであろう、彼女に手を振ったところで気付いた。前あった時同様に子供のように小さい友人の後ろに――何かめっちゃ怖い人がいることに。


「なんなんあいつ、悪い友達と付き合っとるん?」

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