第83話 ファッションヤンキー、案内してもらう

「いいってさ。それに今からでも大丈夫らしいけど、ヤンキーちゃんはどうだ?」

「俺も構わんよ。作ってもらいたいもんの考えも付いたけぇのぉ。」

「へぇ、それは楽しみだ。」


 という訳で情報屋にそのゴーレムを作ってくれるというプレイヤーの元へ連れて行ってもらうことに。うーん、このすれ違う人たちに振り向かれて「何あれ」って指差される感覚よ。私一人だと振り向かれるだけなのに情報屋が加わるだけで不審者感増大するのなんだよ。

 うん?この道通ったことあるぞ?うんん?あっれれ、おかしいぞ?ここって――


「教会じゃん。」

「教会だけど?」


 え?そこで何言ってんのって顔してんの?私が間違ってんの?いや、待ってよ情報屋。私まだ理解しきってないんだけど。置いてかないでよ。

 情報屋は周囲からの視線を一切気にせずどんどん奥に進む。まぁ、私も一切気にしてないけどね。一切気にしてない風を保ってるけどね。やがて1つの扉の前までたどり着いた。そこには1人のシスターが門番のように立っている。その右手に持っているモーニングスターはなんですか?シスターらしいっちゃあシスターらしいけど。


「転送の間をご利用ですか?」

「ウーノまで2人ね。」

「畏まりました。おひとり様500Gになります。」

「へ?」

「ほら、ヤンキーちゃん500G払わなきゃ。」

「お、おう。」


 言われるがまま500G支払い扉の先に通される。あの、情報屋さん?私付いていけてないんですけど?扉の先は石で作られた小部屋だ。椅子も机も本棚もないが、その代わりに物凄く目立つものがある。光り輝く魔法陣だ。情報屋はさっさとその魔法陣の中心へと進んでいき――消えた。

 ……まぁ何となく分かりますよ。転送の間って言っていたものね。つまりはこの魔法陣の中に入ったら……おう、視界が真っ白に。


"ウーノの街へ転送しております。"


 視界が晴れると同じような部屋で情報屋が待っていた。


「どしたの、ヤンキーちゃん?遅かったじゃん。」

「初めてだったけぇのぉ。」

「うっそ。ま、これくらいならいずれ知るか。ちなみに行けるのは祈ったことのある教会のある街だけな。」


 もしかして商品的な情報だったのかな?ただで教えてくれたのはありがたい。これでポートガス街道を往復しなくてもよくなるんだからね。正直面倒だったからね!地味に長いし。

 いやはや、道理で教会から人が続々出てくるだわ。教会には祈るくらいしか用がないと思っていたからね。今後はちょくちょく利用させてもらおうかな。痛い金額ではないからね。……でもなんだろう、何か忘れているような……?その疑問は転送の間から出たことで明らかになった。


「ひぃっ!怖い人!」

「あー、アンタがおったのぉ……」

「え、ヤンキーちゃんシスター・モーネに何かしたの?」

「怖がられ方で怪しむのは分かるけどなーんもしとらんのじゃけど。」


 ゲーム開始時に一回顔を合わせただけなんだよね。強面に設定したからビビられるのは仕方ないけども。それにしたって以降もビビり過ぎではないかな?今だって腰抜かしてるし。そういう設定でもされているのかなぁ。

 これからここの転送の間を使う場合、このシスター・モーネと顔を合わせてビビられなきゃいけないのはちょっと面倒だなぁ。


「のぉ、ちょっとは慣れてくれんか?何もせんけぇ」

「ひぃぃっ!ごめんなさいい!」

「……駄目じゃのぉ。情報屋、行こうか。」

「もうちょっと見てたい気もするけどな。」


 そんなことを言う情報屋の首根っこをリフトアップで掴み上げ、教会の外へと連行。さっさと案内しなさいよ、仕事でしょうが。

 という訳で案内再開だけど、ここで予想外なことが。数日とは言え、最初の街だからどこにどんな建物があるとか何となく憶えているんだけど今進んでいるこの道なりは生産ギルドとは逆方向のはずなんだけど……?


「のぉ、そいつって生産ギルドで作業とかしとらんのん?」

「そう思うよな。だけどあいつは自分の家持ってるんだよ。そこでゴーレム作ってんだよ。」

「理由とかあるん?生産ギルドってただじゃないんか?」

「タダだぞ?まぁそいつ曰く、静かに作業したいんだと。」


 言われてみれば生産ギルドって結構人がいて冒険ギルド並みにざわざわしてたなぁ。精巧な作業するなら静かな場所の方がいいってのは当然か。私も勉強は静かなところでやりたいもん。

 でもね?物事には限度があると思うんだ?町の中心から離れるっていうか、もはや街から出てない?情報屋が言うにはまだウーノの街の範囲らしいけど……あ、あんなところにポツンと一軒家。ん、んん?家の前に何か……いる?え?人……じゃないよな。でも人型のゴーレム?ずんぐりむっくりとしたゴーレムだ!ゴーレムが家の前を箒で掃き掃除してる!え、そんな使い方なの?


「分かりやすい目印じゃのぉ。」

「だろ?あいつの作品の1つ、お掃除ゴーレム、バンルらしいぞ。」

「分かりやすい名前じゃのぉ。」


 掃除の方法は原始的だけれども。吸わんのかい。しっかりちりとりでゴミ回収しているし、ある意味高性能というか……

 あれ、バンル君通り過ぎるの?彼、案内とかしないの?


「あくまでバンルはお掃除ゴーレムだからそれ以上できないんだよ。そもそも俺案内いらないし。」

「それもそうじゃのぉ。」


 うん、家の前に着いたけどさ、滅茶苦茶静か。もっとこうガンガンうるさいってのを想像していたんだけど静かだね?人いるの?


「おーい、クリカラー来たぞー」

「うーい、今開けるぅー」


 中から聞こえてきたのは何だか間延びした男の声だ。そして、その声がこちらに届いて数秒後、扉が開いた。その先から現れたのはクリカラと呼ばれたプレイヤー……ん?んん?あの、クリカラさん土みたいな肌されてるんですね?というか何も着てないんですね?というかゴーレムみたいですね?というかゴーレムですよね?


「あぁ、それはドア開けゴーレム、ドア君な。」

「そこは人力でやれや!?」

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