第61話 ファッションヤンキー、演奏を聞く

 という訳でメゾフォルテさんと共にやってきましたポートガス街道。変わらずメゾフォルテさんは私の後ろを歩いているのだけれど、そろそろ前に出てきてほしい。だって私がモンスターが出現するエリアに足を踏み入れたということは、"存在強調"が発動しちゃって――来ちゃったね。


「「ア゛ーッ!!」」


 敵意を持った鳴き声は空からやってきた。第一印象としてはカラスのような風貌をしたモンスターだけど、それにしては翼が二対あるように見える。何か格好いいなぁ、鳴き声が街にいるようなカラスそのまんまなのがアレだけど。

 さて、AFWを始めて初めての空を飛ぶモンスターとの遭遇……分かっていたことだけど絶対相性悪いね。有効そうなのは投擲とモンスターが攻撃のために接近した時を見計らってカウンターくらいかな?そうでもしないと木刀はかすりもしないだろう。だから飛びながら遠距離でちまちま攻撃するのは私にとって最悪の部類かもしれない。行動を阻害することのできる威圧眼が効かない相手なら詰み間違いなし!

 さて、このカラス2羽にメゾフォルテさんは如何に相手をするのか。……あれ?後ろにいない?ってうわ、いつの間に隣に来てた。もっと言うと既にコング・コンガを出してた。さらに付け加えて言うのであれば、雰囲気変わってない?今の今まで自信がないように猫背で体が小さく見えていたのだけど、今ではお手本のようにその背がすっと伸びている。


「ポートガス街道に出てすぐにエンカウントとは僥倖。しかし鳴き声がいけませんね。そのような喧しい声では気分を害してしまいます。私としましては、鴬とまではいかなくても雀のような鳴き声で鳴いていただきたい。」

「誰なら。」

「これは異なことを。メゾフォルテですが?」


 いや、そんなイケメン俳優張りのキリっとした顔で言われましてもそっくりの別人にしか見えませんが?大丈夫?アカウント乗っ取られたりなんかしていない?

 おっと、そうこうしている間にカラスが攻撃行動に出た。二対の翼を大きくはためかせ、その黒い羽根を飛ばしてきた。はい、相性最悪な敵でした!そしてその攻撃は全て私に降り注ぐが……これが思った以上に痛くない。いや、大ダメージないし状態異常にでもなればそれこそヤバかったが。


「お怪我は?」

「100発来ても倒れる気はせんのぉ。」


 ただしポーションを飲まないとは言っていない。


「それは頼もしい。では、ご覧……いえ、ご清聴ください。私の音楽を。」


 瞬間、音が消えた。そして直ぐに、激しい打音が鳴り響いた。まるでどこかのリズムゲームの鬼難易度を彷彿とさせるような連打は私やカラスだけではなく少し離れた所に立っていた他のプレイヤーの視線まで掻っ攫っていく。うーん、"存在強調"形無しですなこれは。

 でも、これがどう攻撃につながるんだろう?確かに凄い連打だけどカラスはダメージを食らっては……ん、んん?


「ガェッ!?グァッ!?ゴァッ!?」


 2羽の内、1羽が突然奇怪な行動をしはじめた。まるで見えない何かに殴られているかのように上下左右に突き飛ばされている。もちろん私は何もしてない。周りを見渡してもカラスに対して攻撃を仕掛けているようなプレイヤーは見受けられない。つまりは、これがコング・コンガのメゾフォルテさんの攻撃方法ということか。……強くない?

 勿論、カラスも黙って攻撃を受けているばかりではない。この謎の現象をメゾフォルテさんが引き起こしていると理解しているのだろう。彼女に向けて先ほど同様、羽根での攻撃を仕掛ける。いやまぁ、させはしないんだけれども。

 DEXが低いとはいえ、カバーに入れないほど遅いわけでも無いので、すぐにカラスとメゾフォルテさんの間に入りその攻撃を受け止める。うん、やはり問題ない。


「ありが――ます。さ――えんそ――せんから」

「なんて!?」


 聞こえづらっ!楽器武器にはそういう欠点もあるのね。いや、コンガだけかな?お、カラスが1羽くたばった。同時にメゾフォルテさんのコング・コンガの演奏も終了した。が、カラスはもう1羽残っている訳で。当然というべきか仲間を殺されて怒り心頭と言わんばかりに鳴き喚く。いやん、うるさい。


「静粛に。」


 メゾフォルテさんがそう言葉を発した途端、カラスの鳴き声が止んだ。いや、止められた。と言うべきだろうか。カラスは宙に浮かびながらピクピクと体を引くつかせていた。……待って翼動かしてないのに浮いてるの何で?ゲームだから気にしちゃいけないことなのこれ?

 ――閑話休題。カラスが鳴くのを止めさせられ、無防備にも体を引くつかせていた原因はメゾフォルテさんがコング・コンガの代わりに出したコンガ・サンダにある。私が聞いた話だと、コング・コンガは打撃武器でコンガ・サンダの方は魔法武器。コンガ・サンダの面を叩いたことで雷が発生しカラスを襲ったのだ。


「いや、やっぱりこれ強いじゃろ。」


 思わず声に出してしまったけど、楽器を鳴らすだけで不可視の攻撃を放つなんて……正直やり過ぎではと思う。これ対人戦で対策できるのかな?

 そんなことを考えている間にメゾフォルテさんのコンガ・サンダでの演奏が始まった。雷の如き音を出すコンガは、電気を生み出し、敵を襲う。単発では流石に本物の雷には及ばぬ、精々がスタンガンレベルだろう。……スタンガンも普通の人からしたらひどく痛い物だと思うけどね?それが乱発されたらどうだろう。地獄ですねこれは。

 結果、残ったカラスは何もなせぬまま、物言わぬドロップアイテムと化したのだ。


「ふぅ、ご清聴ありがとうございました。……あ、あの、これでよろしかった、で、でしょうか?」

「うわぁ戻った。」

「す、すいません……え、演奏となると、き、気分が高まっちゃって……」


 そういうレベルではないと思うんだけど。


「のぉ……あの攻撃ってデメリット無いん?めっちゃ強そうなんじゃけど。」

「え、えぇとですね……ま、まずMPを味方に、バ、バフを掛けるときよりも過剰に消費します……こ、今回は初めて扱う、が、楽器だったんで調子に乗ってMPギリギリです……あ、あと……え、演奏中は、む、無防備です。」


 確かに、カラスから攻撃が放たれても一向に動こうとはしなかったよね。演奏する手は動かしていたけど。

 そしてMPの方。これは魔法武器のコンガ・サンダだけではなく、コング・コンガの方もMPを消費していたらしい。それもそうか。

 もっと聞くと、音を出すことによるヘイト管理だったり、周りの音が効きづらくなるなどの欠点もあるようだ。実際戦闘中、メゾフォルテさんの声聞きづらかったもんね。

 そして、この攻撃は耳のない相手には効果が薄いらしい。ゴーレムとか大丈夫か。


「何というか……あげておいてなんじゃけど、ソロ戦闘にしてもパーティ戦闘にしても微妙に難しいのぉ。」

「い、いえ……オウカさんには、か、感謝してます……こ、こんな個性的な楽器に、で、出会えましたから……」


 当人が満足してるならいいけど。私は厄介払いも出来たしお金も得ることが出来たし。

 ん?メッセージ?何じゃろ……あ゛


"このメッセージはプレゼントボックスを3個開けていないプレイヤー皆様に送信しております。"

"イベント終了まで残り2時間となりました。もしお時間がありましたら3個まで開けてみてはいかがでしょうか?"


 忘れてたあああああああああああああ!!

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