第54話 ファッションヤンキー、念願の木材を見つける

 さて、気を取り直して戦利品の確認なんだけどさ、よく考えたら情報屋いなくてもよくない?

 そんな私の視線に気づいたのか、情報屋はカラカラと笑う。


「いやぁ、言いたいことは分かるよ?でも俺も情報屋って商売してるからさ、面白そうな情報は知っておきたいというかさ?」

「じゃあせめて戦闘に参加しんさいや。」

「ごめんって。情報料はちゃんと払うからさ。」


 さらに色も付けるとの言質を取ったので、一緒に確認することを許可することにした。お金のこともあるけど……こいつに貸しを作っておくのも悪くないかもしれないしね。ん?情報料貰うんだから貸し借りなくない……?まぁいいか。

 では動かなくなったブトーレントルーパーの周りに散りばめられたドロップアイテムを確認っと。流石は木の魔物というべきか、枝のドロップが結構多いな。


ブトーレントルーパーの枝

ただの木の枝よりトレントの枝は丈夫とよく言われるが、ブトーレントルーパーの枝はトレントの枝の硬度を遥かに上回る。どれくらいかと言われるとこれで釘が打ててしまう。間違っても子供が遊び道具として振るっていい物じゃない。杖の素材として優秀だが、実は内包している力によりこれ単体でも杖として運用は可能。しかし威力は控えめ。魔術杖として使うより杖術で殴ったほうが強いまである


 流石ボスのような強さをしたブトーレントルーパーからのドロップアイテムだ……枝でさえもテキストが長いトレントの木材はテキストそのものがなかったのに。しかしこのままでも武器として運用できるアイテムってのはいいね。ま、魔法は一切使えないからそこらへんは気にしなくても大丈夫か。今でさえトレントの木刀のINT+3を持て余してるんだから。

 でもこれは木刀にはできないよね、そりゃ木の枝だからね、根本的に太さが違うからね。とりまこれは保管しておこう。パックンさんに見せてあげてもいいかもね。


 さて次は……お、お待ちかねの木材だ。それにしても角材に加工済みされた状態でドロップされるってよくよく考えたらすごいよね。ゲームだから深く考えちゃダメか。……あれ?3つほど木材があるけど1つだけ真っ黒じゃない?ブトーレントルーパー自体はまさに木の肌の色……茶色だったんだけど、これはまるで漆を塗られたように真っ黒だ。木特有のあの模様が見えないくらいだ。


ブトーレントルーパーの木材

素晴らしく丈夫で、この木材で建てた建物は地震雷火事親父に悩まされることは無い。木材の色によって価値が変わり、その中でも漆黒の木材は、どこかの国では重要な建造物に用いられることが多いと言われるとても貴重な木材で、さらに高値で取引される。つまりこれを入手したあなたはとても幸運だ。


 しっこくのもくざい?足元の木材に目を向ける。……黒いね?私の背後で一緒にテキストを確認してたはずの情報屋に振り向く。情報屋も情報屋でテキストと木材を交互に見交わし、震える指で木材を指す。


「お、大当たり、だな。」

「そ、そうじゃのぉ……」


 2人して乾いた笑みしか浮かばない。とんでもない爆弾をドロップしたものだ。


「え、えぇとヤンキーちゃん?これどうするの?売るの?」

「情報屋、価値分かるか?」

「分かるわけないだろ?いやー、手が付けられないわ。」


 両腕を上げて降参のポーズをとる情報屋。私も貴重なドロップに喜びよりも困惑が大きいよ。

 テキスト的に、他にドロップした2つの茶色い木材もそれなりに売れるんだろうけど、漆黒の木材はそれ以上と。

 ……待て?


「のぉ、情報屋。」

「何だよ。」

「この木材ってこれ1つで凄い大金が動くんよな?」

「みたいだな。俺の所持金でも払えないだろうな。」

「話は変わるんじゃけど、黒い木刀って格好いいと思わん?」

「……まさかヤンキーちゃん。」


 私の意図に気付いた情報屋はハッと顔を上げ、私はそれを考えうる限りの凶暴っぽい笑みで返す。


「決めた。俺はこれで木刀を作る!」

「正気か!?」

「正気な奴はヤンキーなんてしとらんわ!」

「それもそうか!」


 待てや、それもそうかは違うでしょうが。そこはフォローしてくれてもいいんじゃないかなぁ?

 ふ、ふふふ。漆黒の木材を木刀を持った自分を思い浮かべるとついつい口角が上がっちゃう。高価な木材を木刀にして価値なんて気にせず、荒々しく戦う……中々に傾いているんじゃないかな?ヤンキーっぽくないかな?


「ヤンキーちゃん、木材持ってそんな笑ってると別のベクトルで怖いぞ。」

「べ、別のベクトルってなんなら……」


 いかんいかん、そんな変な顔してたか。変な人認定されてしまう。

 無事木刀用の木材も確保したし、他のドロップはーっと……うん?この真っ赤で丸いこれは……リンゴ?何でこんなところに?


ブトーレントルーパーのリンゴ

トレント種は摂取した果実、もしくは野菜を自身に実らせることが出来る。世界のどこかにはトレント農家という職業が存在し、躾けたトレントで色々なものを栽培しているという。味は普通の果物よりも濃く、とても瑞々しい。実の中には種がありそれを埋めるとトレントが生まれる。(ブトーレントルーパーの果実から取れた種でもトレントが生まれる。)トレントから取れた種を飲み込むと、ヘソから芽が生えると言われている。


 これもドロップアイテムなのね。ぱっと見はただのリンゴだと思うんだけど、分かる人が見たら良いリンゴだと分かるのだろう。あ、他にも何個か落ちてる。拾って……おい、情報屋。何懐にしまおうとしてるんだお前。百歩譲って取ってもいいけど金は払えよ。


「ごめんごめん、冗談だよ。そもそも倒したプレイヤーかパーティしかストレージに入れることしかできないし。それにしてもヤンキーちゃん、意外と目敏いな。うーん、1000Gくらいかな?はい。」

「毎度。相場も知らんけど、まぁいいか。」

「いや、普通のリンゴ100Gそこらだからな?」


 私、食べ物系のアイテム買ったの最初の焼き鳥くらいだったからなぁ……そこら辺全然分からない。

 さて、粗方ドロップアイテム拾い終わったけど――視線を上げる。


「これ、どうするんじゃろうなぁ。」


 私の目の先にあるのは死んで拳王ポーズしたままのブトーレントルーパー。

 コング・コング・コングも漏れなく倒した後は、他のモンスター同様に消失したんだけど、ブトーレントルーパーは消える様子は無い。もしかして再び動き出すとか?何の気なしに、手を伸ばしブトーレントルーパーに触れると、その木の体が不意に光った。


「ヤンキーちゃん何してんだ!?」

「触っただけなんじゃけど!?」


 背後から情報屋の慌てた声が飛んでくるが、私だって分からないよ!もし本当に動き出すんだったら私勝てる気しないよ!?

 やがて光が収まるが……ブトーレントルーパーが襲ってくる気配は無かった。寧ろ――


「ちっさくなった?」

「ほんとだ。」


 見上げるほどの体躯を持った、拳王ポーズしたブトーレントルーパーが……凄く小さくなっていた。


ブトーレントルーパーのフィギュア

生命活動を終えたブトーレントルーパーが自信を打ち負かした強者への贈り物として己の体を縮小させフィギュアと化した。躍動感にあふれたその姿は今にも動き出しそうではあるが、ちゃんと死んでいるので安心して飾っても大丈夫。……大丈夫。ちなみに持っていても別に効果は無い。


 このゲームは……ボスドロップにネタを仕込まないとだめなの?

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