第50話 ファッションヤンキー、情報屋に会う

「情報屋っつったってのぉ……」


 シャドルと別れ、未だシャドルが開けたプレゼントボックスの中身に関して騒いでいる冒険ギルドから抜け出した私は、独り言をつぶやきながらドヴァータウンの街道を歩いていた。

 別れ際にシャドルが言っていたこの街には情報屋さんがいるとかなんとか。心を躍らせるその響きに惹かれ探しているのだが、まぁ見つからない。そもそも……情報屋って情報屋ってことを喧伝しているのかな?私のイメージとしては裏通りでローブ羽織って悪い笑み浮かべて情報を売るってイメージがあるんだけれど。

 そんなことを考えていると、ふと建物と建物の間の小路に目が入った。人一人なら入れそうな小路……入ってくれと言わんばかりで気になるので足を踏み入れることにした。すると驚いたことにその小路に入った瞬間、周りの喧騒の音がが一気にボリュームダウンした。クエスト云々が発生しなかったから大丈夫だと思っていたけれどもしかしてまた地雷踏んだ!?慌てて小路から出るとボリュームは元に戻った。

 小路特有の演出なのかな?怖い気持ちはあるけれど足踏みするのもなんだし勇気を振り絞って奥へ進むことにした。


「誰かおるんか?」


 ヤンキーロールプレイとは言え怖い物は怖い。気を紛らわせるためにメリケンサックを装備し声を出す。が、返答はない。

 くそう、街の賑やかさが恋しいよ……とりあえず行き止まりにぶち当たったらそこで引き返そう。

 いきなり背後から襲い掛かってくるとかやめてねぇ……?そんなことがあった日には私は自分を保っていられる気がしないからね、恐怖で。



「行き止まり、じゃのぉ」


 おっかなびっくり歩いていたけれど5分もしないうちにあっさり行き止まりに行き着きました。何かありそうな雰囲気なのに拍子抜けだなぁ……一応たどり着くまで周りを見渡していたけれど、何の変哲もない建物の壁が続くだけで目を引く物は無かった。プレゼントボックスすらも無かった。

 私は持っていないけど探索系のスキルでもあれば見つけることが出来たのかもしれないけれど、これ以上ここにいても意味ないと思うしさっさと元の道に戻るかなぁ。

 引き返そうと振り返ったその時――


「へいらっしゃーい」

「ひぁっ!?」


 誰もいないはずの背後から声が聞こえ私は驚きのあまり変な声を上げ飛び上がってしまった。そしてその驚きと恐怖のあまりメリケンサックを付けた拳を声の聞こえる方向へ振るった。それと同時に自分の失敗に気付いた。もしこれが当たってしまえばこれ私通報対象になるのでは?その考えがよぎったところで私の拳は急には止まれない。

 ……ん?止まった?でも殴りつけた感覚は無い。恐る恐る私の腕の先を見てみると……真っ黒のローブを羽織った如何にも怪しい男がそこに立って私の拳を片手1つで受け止めている。


「驚かせちゃったか?すまねぇな。って君、噂のヤンキーちゃんか?」


 ローブの先から聞こえたのは若い男の声。


「わ……俺のこと知っとるんか?」

「そりゃあ情報屋だからなぁ。つっても君、割と有名だぞ?」


 有名って私が?そんな馬鹿な。私特に何かを成しえたわけでも無いんだけれど。

 ってかこの人情報屋なの?こんなピンポイントで出会う?それに私のイメージぴったりの風貌なんだけど。口調は気さくな感じがするけどね。


「俺の評判はどうでもいいんじゃけどのぉ。」

「言うねぇ。ま、安心しなよ。君の情報は、顔が怖い・ヤンキーみたい・シャドルのリアフレかも?ってくらいだ。悪い話は聞かねぇな。で、シャドルのリアフレ云々はどうなんだ?」

「リアフレじゃけど。」

「おーそうかい!おっと、流石にリアルに関しての情報は売らないから安心してくれ。――っとそうだ。ヤンキーちゃんは俺に用があってここに来たのか?」

「シャドルから聞いたんよ。まぁ見つけたのは偶然じゃけどの。」


 いや、本当に偶然会うことが出来て良かった。もし彼がピンポイントにここにいなければ見つけることが出来なかっただろう。いや、黒ずくめの格好で大通りに出ていればそれはそれで目立っていたかもしれないけど。


「なるほど、シャドルの。ふむ、彼女にはいい情報売ってもらってるからな。何かの縁ということで1つ、高すぎない情報をただで教えよう。」

「高すぎないのなんか。」

「そりゃそこは商売だからな。寧ろこんなサービスは滅多にしないんだぞ?で、何が知りたい?プレゼントボックスの在処とかか?教えられるかは俺が考えるからとりあえず聞いてみてくれ。」


 表情はこそ見えないが、声が明るく身振り手振りで説明する情報屋。プレゼントボックスの在処かぁ……確かにそれも気になるけどそれの中身が当たりかどうかまでは分からないだろうし。それなら確実に分かるもので私が今一番必要な情報とくれば――!


「いい木材知らん?」

「も、木材?え?木材?」

「そう、木材。」

「待って。そうか、木材……木材ね。うん、木工でもするの?」

「木刀新調したいけぇ。パックンさんに作ってもらおうと思ってのぉ。」

「あー、確かにヤンキーちゃん木刀持ってるねぇ……それパックン作なのね……それの情報も気になるけど……」


 私の欲しい情報が予想外だったのか、情報屋はうんうんと唸りながらウィンドウを操作し始めた。内容は見えないけれど、持っている情報の中から木材に関する情報を洗っているのだろう。


「のぉ、見つからんのんなら別の情報で――」

「ダメだ!ただの木材で情報が出せなかったは情報屋の名折れ!少し時間をくれないか!仕入れてくるから!明日またここに来てくれ!」

「は?いや、だから別に無理せんくても――」

「アデュー!!」


 情報屋は小路の出口に向かって猛然とダッシュして去ってしまった。

 取り残された私はぽつりとつぶやいた。


「このゲーム、変な人多いのぉ。」

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