第8話 ファッションヤンキ-、次の目標を見つける

 パックンさんの木刀作成を待つ間、何もボーッと待ちぼうけしていたわけじゃないんだな。私はヤンキーっぽい椅子の座り方を真剣に考えていたんだよ。

 まず、脚を組むのは確定として腕はどうしようか。座っている椅子は病因にあるような長椅子だから、背もたれに腕を掛けるってのがそれっぽいかな。いや待てよ?胸の前で腕を組むのは……うーん、お父さんっぽいかな。背もたれに腕かけの方向で行こう。寝っ転ぶのは違うよね、そもそも眠くないし他の人に迷惑だしね。


「何やってんのアンタ……?」

「そのセリフ今日で2回目じゃの。」


 座り方で試行錯誤している間に、作業が終了したのか、呆れ顔のパックンさんがやってきた。その手には木刀が……!無いわ。インベントに入れてるのかな?え、それとも木刀作るの失敗した?マジ?

 そんなことを考えていると、下から私の顔を覗いていたパックンさんがいきなり噴出した。


「ぷふっ!アンタ、表情が喜んだり消沈したり忙しいわねぇーそんな感じでヤンキープレイ務まるの?」

「で、できらぁ!」

「はいはい。……で、木刀の方だけど安心なさい、出来てるわよ。」


 パックンさんがインベントリから取り出した木刀を掴み私に差し出す。これが夢にまで見た木刀……!心なしか輝いて見える。震える手で木刀の柄を掴み縦に持つ……おぉ!

 わーい、やったー!ねんがんのぼくとうをてにいれたぞー!苦節4時間そこら……私は漸くヤンキープレイのスタートラインに立った!

 さて、木刀はどんな具合かなー?


トレントの木刀

トレントの木材によって作成された刀。刀と書いてあるが、素材が木なので斬武器ではなく打撃武器扱いとなる。

魔力による防護力により、木の弱点と言われる炎を浴びても着火はしない。また、他の武器とも打ち合うことができる。

打撃武器ではあるが、素材となったトレントそのものは魔法型なのでINTも上がる。

ATK+6 INT+3


 物理アタッカーヤンキー目指している私からしたら、あんまり必要のない一文があるけど……これはいい!このゲーム魔法なんて普通にあるし火の魔法なんてありふれた魔法だ。それを喰らってしまえば木刀人生終わりでは!?って可能性も考えたけど、この木刀はその不安を払しょくしてくれた!でもやっぱりINTはいらない!馬鹿でいい!


「満足したようね。私も新鮮だったわー、そりゃ練習用に木剣とか作ったけど実践に使うための木刀なんて初めてだからいい経験になったわ。あ、銘入れれるけどどうする?湖の名前入れとく?」

「それ、違うプレイになるから嫌。桜花で頼むわ。」

「はいはーい。……でも何でアンタは片仮名でオウカなの?漢字でも入力出来たじゃない。」

「このゲームの舞台が日本っぽかったらそれでもよかったんじゃけどな。」


 なるほどね、と納得したパックンさんは私から受け取った木刀の柄に名前を刻んでいく。

 銘を掘り終わった木刀を再び受け取り、今回の依頼料である3000Gを渡した。初心者の私からしたら大金かも知れないが、木刀を手に入れたんだ、惜しくはない!ごめんなさい、ちょっと惜しい。


「確かに、頂いたわ。」


 3000Gがきっちり入金されたことを確認し、パックンさんは大きく頷く。そんなに注意深く確認するのかと聞いたところ、微妙に足りない金を渡してとんずらをこくプレイヤーは極稀にいるらしい。勿論私はそんなことしませんよ、そんなせこい真似。

 そういえば、ワンズフォレストってパックンさんが勧めたんだよね。コング・コング・コングの事知ってるか聞いてみよ。


「え、アンタあのゴリラに遭遇したの?」

「そうなんよ。二撃食らって死に戻りしたんじゃけど。」

「はぁ、よく初撃を耐えられたわねぇ。あいつはね、元々森の奥のボスエリアに鎮座するボスだったのよ。」


 普通はワンパンなのか。それを耐えた私は凄いのでは……!?まぁ一撃で瀕死だったから運がよかったのかもしれないけど。

 でも待って。今何て言った?


「鎮座するボスって……あいつ普通に森の奥から来たんじゃけど?」

「どうやら一回攻略されたら、徘徊型ボスになるみたいなのよね、あのゴリラ。おかげでワンズフォレストは初心者用のエリアなんだけど同時に初心者殺しのエリアになっちゃったの。」


 何それ怖い。ただ、コング・コング・コングに遭遇するのはそれこそ、運以外何物でもないらしい。なので大半の初心者は意気揚々と森に入って楽しんでいたらコング・コング・コングに遭遇し軽くトラウマに。再びワンズフォレストに行くときはボスの陰に怯えながら探索することになるらしい。


「でも、1回倒されたってことは弱体化しとるんじゃろ?」

「しているわ。でも、そう易々と倒せる相手じゃないとあなたは知ってるでしょ?」

「そうじゃのぅ。ちなみに初討伐はパーティなん?」

「そうよ。私と、あと他に剣士と弓使いと魔法使いだったわね。」


 へぇ、パーティで討伐したんだ。なるほど、ならソロの私じゃそもそも厳しかったと。

 でもこの人また爆弾投下したー


「パックンがコング・コング・コング殺ったんかぁ……」

「ソロ専なんだけどね?最初のボスだけでも力を貸してくれって頼まれて当時の最強メンツで挑んだのよ。あぁ、もう私は前線張ってるわけじゃないから最強ではないわ。」

「そうなんか。……参考までに討伐レベル教えてくれん?」

「Lv10ね。当時は職業スミスだったわ。」


 私の今のLv4。あと最低でも6レベル上げないとコング・コング・コングと打ち合えなさそうですね。あれ、でも弱体化してるならもう少し低くてもいいのかな。で?今度は職業ですか。それも聞こう。


「職業とかあったんか。」

「Lv5で就けるわよ。ただ望んでいるものに必ずなれるという訳じゃないから注意なさい。」

「何ぃそれ。」

「知り合いから聞くに、どうもLv5に達成するまでの行動によって選べる職業が決まるらしいのよ。私の時はスミスと戦士と剣士だったわ。」

「その候補に心当たりは?」

「スミスは見ての通り、鍛冶をよくしてたからね。戦士と剣士はそれぞれ自作のハンマーと剣をよく使っていたからかしらね。」


 私の場合は……えぇと、ゴブリン等をメリケンサックなり蹴りなりで倒しているから拳闘系の職業かなぁ……?でも棍棒も投げてたけどあれはどう判定されるんだろう。もしかして今から木刀でモンスター倒しに行けば剣士ルートなのかな?ヤンキーっぽいのって拳闘系ってことになりそうだね。


「でもこのゲーム、結構職業豊富にあるそうよ?変なのだと、クッキングファイターだったり、指揮官なんてのも。もしかしてヤンキー系の職業もあるかも――」

「ありがとな、パックン!俺は急用思い出したから行ってくるけぇ!」

「……あぁはいはい、アンタの今後を祈ってるわー。」

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