別訳日本神話 ~忘れられた邪神の物語~

作者 浅田 千恋

動摩擦係数の少ない、サスペンス・コミック!?

  • ★★★ Excellent!!!

空前に面白い――。

レビューのひとことめとして、この言葉を綴りたいです。
この作品にはドラマが描かれているから。設定だけじゃないから。主人公の大学講師ヤマトと、日本神話の世界で生きる神々。運命的な邂逅がもたらすドラマは、詠む人の心を惹きつけてやみません。絶対に引きこまれる。断言してもいい。人も神も『生きて』いるんだって実感することができる。もちろん、あなたも。

「設定だけ」と書いてしまいましたが、その設定からしてお見事。日本神話をテーマにするというのは非常にハードルが高い。まず資料分析やキャラクター設定が難しいですし、信仰や宗教に絡む題材でもある。加えて読者がすんなりと作中世界に入ってくれるかどうかの心配もモヤモヤ。だけど、どうか入ってみてください。入念に、そして丁寧に、読者の喜びだけをその一心に宿して描かれた日本神話の世界。読みやすさには太鼓判を押します。読者が「ん……今のってなんだっけ?」と思ったところ……そう、かゆいところを主人公のヤマトが独白で復唱してくれるのです! だから読みやすい。物語の構造と進むべき道を理解しながら、めくるめくドラマの群れへと沈んでいくことができます。だから設定をこころゆくまで味わうことができる。実際、わたしは本作を読んで日本神話にめちゃくちゃ興味をもちました。読後は本を探したり、ネット検索で神様のことを調べてしまうこと請け合い。知識欲を心地よく撫でてもらえる、という点でも本作はすばらしいのです。

本作は天孫降臨と呼ばれる大戦における、天津神と国津神、そして龍の一族(アーンド、みんな大好きミシャグジさま!)をモチーフにしています。とてつもなくヤバい世界です。神同士の一大決戦ですからね。だけど主人公のヤマトは自らの研究内容をたよりにして、現実世界に存在する道具を使いながら『あるべき答え』を探し求めます。この行動にはしびれますよ。受け身の主人公じゃない。自分から、自分の答えを求めてどこまでも突貫していくわけです。
そんな彼の近くには二人のヒロインが現れます。大学の生徒の真琴と、龍神の少女アルタ。このヒロイン争いも見どころの一つです。だってどっちもカリスマ的だもん! しかもセリフがいちいちキュートだもん! ちなみにわたしはアルタ派! 物語の最後までたどり着いた時、うん、とうなずきを一つ。アルタ派なんだってば! どうしてもね!

最後に、表題の「サスペンス・コミック」という文言についてお話します。
これは本作最大の長所だと思っています。それはシーン変遷と謎解きの展開がものすごくスムーズだということ! 動摩擦係数めっちゃ低いんです。読み始めたら止まらない。ワンシーンを無駄に使わない。シーンには必ず意味があり、読者はそこでヒントを得たとしたらすぐに次のシーンへと飛ぶことができる。思うに、これはコミックの手法ですよ。それを小説で表現できている。筆者がいかに高い力量を有しているかがわかるというものです。本当に、サスペンスコミックを読んでいるように滑らかに物語が進んでいきます。すばらしい読書体験だと思うので、ぜひみなさまも味わってみてください。

ここで冒頭に戻ります。

ドラマ。

やっぱりわたしたち読者はそれを見たい! 日本神話の神様たちはなにを望み、なにに悲しみ、なにに愛を感じたのか。そしてわたしたちと同時代を生きるヤマトはどんな振る舞いをするのか、どうして涙を流すのか。

人間と神って、どう交わっていけるのか。

読書の喜びの全てが、本作には詰まっています。
この作品に込められた『愛』の全てを、あなたの網膜に焼きつかせていただきたいなとわたしは思います。

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