第238話 ちょっとお散歩

「ふぅ〜...ご馳走様!」


 彼女は俺にお礼を言ってきました。

 その時の表情はとても嬉しそうだったのを覚えています。


「ああ、こちらから誘ったし当然だ」


「気前がいいねローシュは、私そう言う男嫌いじゃないよ」


 にししと笑う彼女はとても美しいと思える。


「男は度胸だしな!、気前がいいのは当たり前さ」


 俺も彼女に笑顔を返す。

 二人で年初めの町をゆっくりと歩いた。

 日はすっかり落ちてしまってはいるが、所々に魔法で光が灯っている為、そこまで暗くはないように感じる。

 そのおかげか白い息を吐く彼女が見えたので、俺は何かプレゼントをしてあげようと思うのだった。


「エルシー...、寒くないか?」


「一応防寒着はいくつか備えてあるけど...、やっぱりまだ寒いわね、帰ったら暖かいお風呂に入りたい」


 そう呟く彼女を見た俺は一声かける。


「なぁエルシー、ちょっと寄り道していかないか?」


「えっ?、別にいいけど...」


「じゃあ決まりだな」


 俺は彼女の手を握ってとあるお店に向かうのだった。


「ちょっと!ローシュ!」


「いいからいいから!、俺についてこいって!」


 彼女の声が後ろから聞こえるが、これも作戦のうちである。

 今のうちから積極的にアプローチをかけて行けばいずれは...。

 二人の未来を一瞬だけ想像したらニヤケが止まらなくなる俺。


(いや〜...、彼女か...なんかいいな!)


 ちょっとだけ振り返り彼女の様子を見てみると、若干恥ずかしそうにしているのが表情から読み取れた。

 年の近しい男に手を握られていれば当然かもしれない。

 俺も正直ちょっと恥ずかしいが、男がリードしなきゃ行けないよな!?。

 そうこうしているとお目当てのお店に着いた。


 〜服屋〜


「いらしゃいませ〜、本日からクティル王国は冬でございますよ〜」


 店員さんの声が店内に響くくらいには小さいお店だが、俺はよくここに服を買いに来る。

 この店は値段の割に質の良い服を売っている為、冒険者だけでなく一般の人たちにも知られている名店なのだ。

 ただ...、立地条件が悪く目立ち辛い場所にある為、知る人ぞ知る名店っと言った方がいいのかもしれない。

 何でこんな場所に店を構えたんだ!と言われているところを良く見る。


「こんな所に服屋なんてあったんだ...」


 彼女も少し驚いているようだ。


「まあな、ここ結構いい物売ってるからな、おっ!これなんかどうだ?エルシーに似合いそうだぞ」


 俺はそう言って赤いマフラーを指さしましたが...。


「赤色はファッションにはいいけど冒険には向かないのよね〜...、特に森とかだと場所が丸見えになっちゃうし、洞窟とかでも位置が割れやすくなるから却下かな〜」


 彼女が冒険者だったのをこの言葉で思い出した。


(赤いマフラー...、絶対エルシーが巻けば映えると思うんだけどな)


 ちょっと重い浮かべて見ます。

 緑色の髪と赤いマフラーを舞わせながら踊る彼女を...。


「うん!格好いい!」


「誰に言ってるの?」


 あくまで俺の妄想の中だけなので彼女には伝わりません。

 これは失敗したかなと思いつつも次の商品を指さしました。


「あれなんかどうかな?」


「ああ...、あれね...、悪くないかも...」


 そう言って俺が指差したのは赤い羽の形をしたネックレスでした。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る