第126話 母の本領

 確かに発動したはずの魔法はかき消されていた。

 そして消える予定だったはずの私の体はちゃんとここに存在している。

 諦めたはずだったのに心臓がまだ動いていることに安堵した私はその場にゆっくりと倒れ意識を失った...。


「...、よく1人でここまで頑張ったわね、ここからはお母さんが頑張らないとね!」


 むふ〜っと荒い鼻息を出した私は3人の白装束を見て微笑みながら倒れた彼女に回復の魔法をかけてあげた。

 彼女のボロボロだった体から傷が癒えたのを確認すると、彼女の周りに防御陣を展開し、とどめを刺されないように配慮した。


「貴方達輪廻教の人たちよね?、ちょっと話をしない?、そこの死骸についてなんだけど!」


 私が言い終わる前に3人の教徒達は動き出していた。


「あらあら、せっかちさんね、お母さん悲しいわ」


「私の魔法障壁を超えて来れる人物となると...、あれは恐らく賢聖エルカ...!、打ち取れば我が同胞達全てが喜ぶ、ゴウ!エリサ!援護しなさい!」


「がってん!」


「任せろ..!、相手は噂に名高き賢聖...、相手にとって不足はない!」


 私を取り囲む様に展開された彼らのチームワークは素晴らしいものでした。

 しっかりと訓練された動きで的確に私との距離を詰めてきますが。


「おあいにく様、お母さんはその程度じゃ倒せないわよ!」


 私はニッコリと笑いながら行動に移りました。

 すると...。


「そのおっきいオッパイ貰った〜!!」


 小刀を振り回しながら元気に私の胸をそぎ落としにくるのですが。

 刃が胸に当たると完全に止まってしまったのを見てから、大声で叫んでいました。


「このオッパイ...カッチカチだァ〜!!」


「うふふ、残念!、戦闘中のお母さんの体は全身を魔法で硬化してるのよ!」


 口に手を置いて微笑んでいると、炎の矢がとんで来たので、魔法陣を複数展開して防ぎました。


「おしいおしい」


「...、あの一瞬で高難度の防魔法を複数展開するとはな...、やはり賢聖の名は伊達ではないという事か...」


「我らの攻撃をいとも容易く止めれる所を見るに、貴女は本物のエルカ様のようですね...」


「あらあら、敵に様付けで呼ばれるなんて、私も有名になった物ね〜」


 笑顔を振りまきながらどうにか会話を試みるが、やはりお相手さんは本気で私を殺しにきている様である。

 別にこの喋り方で相手を煽っている訳ではない。

 エルカの考え方はシンプルだ。

 二度と戦いを起こさせない、その一点のみに極集中している為、どのような相手にも会話を試みる。

 たとえ昔敵対していたとしても、いずれは友になれると本気で信じているのが彼女のいいところでもあり、また弱点でもある。

 いつでもとどめをさせるというのにそれをしないのは、彼らとも分かり合えると思っているからに他ならない。

 今も戦いをしているというよりは、実力差を見せつけ降伏させようとしているだけなのである。

 なので笑顔であることを彼女はやめないのだ。

 だがそれが逆効果である事を彼女は知らない。

 3体1のこの状況ですら全く脅威を感じていないエルカに対し、輪廻教の3人は確かな恐怖を感じていたのだ。

 この圧倒的有利な状況で賢聖を殺せないのであれば、これから先に彼女を殺せる可能性など満に一つもないのだから...。

 躍起になって賢聖に挑み続ける3人。

 たとえ勝てないと分かっていても最後の一兵まで戦えという輪廻教の狂った教えがまだ続いているのであった。

 そう思うと彼女は涙を浮かべ憂う。

 たとえ敵であろうと同じ人間と戦う事に心が痛んでいるのだ。

 だが、この戦いはどちらかが死ぬまで続くのだろう。

 彼女が死ぬか、教徒達が死ぬか。

 二つに一つの回答に胸を抑える彼女こそまさしく賢聖なのだろう。

 その心の清さこそ彼女が賢聖たる由縁なのだった。

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