第38話 提督襲来
シェルディアが帰城家の隣の部屋を滞在先として、陽華と明夜が風音と模擬戦を行った日から、数日が経過した。
暦は6月を記し始めた日、影人は照りつける太陽に辟易としながら、学校へと向かっていた。
6月といえば小さい頃はまだ多少は暑さがましだったと影人は記憶しているが、現在の6月の暑さは中々に殺人的だ。
「・・・・・・・・くそ暑い」
まだ朝のはずだが、それでも暑い。
なんだか最近は暑いしか言っていないような気もするが、暑いのだから仕方ない。影人は基本的に暑がりなのだ。
「・・・・・・・・・今日は嬢ちゃんに呼ばれもしてねえし、あいつからの仕事もなければ、放課後は久しぶりにゆっくりできそうだ・・・・・・・・」
ボソボソと癖の独り言を呟きながら、影人は前髪の下で死んだような目をしている。あいつというのは、もちろんソレイユのことだ。
ここ最近、影人は忙しかった。学校はもちろんのことだが、それ以外にも放課後は隣のシェルディアと遊んだり(半ば強引にだが)、町を案内していたりしていたからだ。
だが、影人が最もここ最近を忙しいと感じた要因は、スプリガンとしての活動だった。
ダミー活動として影人はここ数日、日本各地の光導姫と守護者にその姿を確認させた。もちろん、光導姫と守護者が現れるということは、闇奴も出現したということなので、適当に闇奴を攻撃したりもした。
(まあ、東京以外にも転移でスプリガンとして現れたから、ダミー効果はあるだろうと信じたいがな・・・・・)
逆を言ってしまえば、スプリガンはまだ日本にしか出現していないということになる。だが、外国でスプリガンを知っている光導姫と守護者の数は相当に限られているはずだ。光導姫だけについて言うのならば、正確にスプリガンの情報を知っている外国の光導姫はまだ8人ほどしかいないのだから。
(俺は俺で色々と工作まがいのことをやってたが、あいつらはなんか特訓してるらしいし・・・・・・・・・よく分からんな)
あいつら、つまり陽華と明夜のことだが、2人は週に1回程度、ある光導姫に稽古をつけてもらっているらしい。光導姫の神であるソレイユが、その情報を自分に伝えてきたのだ。
しかも稽古をつけてもらっている光導姫は、日本最強の光導姫『巫女』であるようだ。
(・・・・・・なんか王道マンガみたいだな)
『巫女』というのは自分も一度会ったことのある、あの巫女装束の光導姫のことだ。もちろんスプリガンの姿でだが、周囲に何か札のようなものを浮かせていて、ビームを撃ちまくっていたというのが影人の印象だった。中々にイカれた印象である。
「・・・・・・・・まあ、俺には関係ないか」
あの2人がいくら強くなろうが、自分には関係のないことだ。自分はただ影から仕事をするだけなのだから。
前にもそんなことを思った気がするが、人間というのは同じようなことを何度も考えてしまう生き物なので仕方ないだろう。
「でも、今日くらいは平和な日になるといいな・・・・・・・」
雲の少ない晴れた青空を見上げながら、見た目の暗い少年は少し疲れたようにそう言った。
「――!」
「くそッ! 闇奴如きがッ!」
「下がれディレーヴァ! 死にたいのか!?」
北方の地ロシア。その首都であるモスクワで光導姫と守護者が闇奴と戦っていた。
そしてその状況はというと、光導姫・守護者サイドの方が劣勢であった。
最初は2人が優勢であった。基本的に光導姫と守護者は、その実力に見合った相手と戦う。そのためのランキング制度であるし、ソレイユも光導姫と守護者を死なせたくはないからだ。例外があるとすれば、光導十姫くらいだろうか。
だから2人は問題なく勝てると思っていた。それは決して自惚れではないし、また手を抜いたり油断もしてもいなかった。
光導姫の名はディレーヴァ。守護者の名はべーリー。どちらもこの世界に身を置き始めて、2年少しのベテランだ。ランキング外ではあるが、2人とも実力はあるほうだ。
今回2人は市街地に出現した闇奴の対応を各神(ソレイユとラルバ)から受けた。といっても、言葉ではなく知らせの合図だ。
現地に急行した2人の目の前に現れたのは、熊のような姿の闇奴であった。協力して浄化するまであと少しといったところで、闇奴は
「――! ――!」
非常に不愉快な声を上げながら、イカやタコのような触手を無数に伸ばす闇奴。元の熊のような姿を残しつつも、体から新たに触手の生えた姿は生理的な嫌悪を抱くのには充分な姿であった。
「ッ!? 木々よ!」
ディレーヴァは小剣と一体型になっている杖を振るった。すると、アスファルトを突き破り地面から太いと形容できる枝が無数に伸びて、2人を狙う触手に絡みついた。
「べーリー! 今だッ!」
「
ディレーヴァに感謝の言葉を述べ、べーリーは真っ白な斧を持ち闇奴に距離を詰めていく。守護者に闇奴を浄化することは出来ないが、ダメージを与えて弱体化させることは出来る。
「――!」
闇奴がべーリーに意識を向けるが、闇奴はその場から動けないでいた。ディレーヴァが闇奴の体から生えた触手を枝で拘束しているからだ。
「せやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
触手以外の中遠距離の攻撃手段を持たない闇奴は、べーリーの接近を許してしまう。べーリーは至近距離から、その真白な斧を振りかぶった。
闇奴は両腕を交差させてその攻撃を受け止めようとするが、それは意味を為さなかった。べーリーの剛斧がその両腕を切断したからだ。
「――――!」
(いけるッ!)
両腕を切断され身もだえする闇奴を見て、べーリーが勝機を見いだす。べーリーの大上段の一撃がそのまま闇奴の頭をかち割るかに思えたその時、闇奴が大きく口を開いた。
そしてその口の中から5本の触手が出現し、べーリーの肉体を打ちつけた。
「がはっ・・・・・・・・・・!」
「べーリー!?」
残念ながらべーリーの斧が闇奴の頭を割ることはなかった。べーリーは触手の強打を受けて後ろへと吹き飛ばされた。
「ちっ! まだ生えてくるのか!」
アスファルトに転がったべーリーを心配しつつも、ディレーヴァは闇奴に意識を傾けた。元々の熊のような姿に触手が生えただけでも気色の悪いというのに、口からも触手の生えたその姿は、まさに化け物と形容するのにふさわしいものだった。
「――! ――!」
べーリーが切断することに成功した両腕からもすぐさま触手が生えてきた。
闇奴は自分の両腕を切断したべーリーに対し怒ったのか、ディレーヴァに拘束されている以外の触手は全てべーリーへを矛先にした。
「ぐ・・・・・・・」
「やらせるかぁッ!」
ディレーヴァが全ての力のリソースを割き、新たに木々による攻撃を行おうと杖を振るおうとする。そのため、元々触手を拘束していた枝の力が弱まる。闇奴はまるでそれが狙いであるかのように、拘束を無理矢理破り、ディレーヴァの腕に絡みついた。
「ッ!? 離せ!」
「――!」
闇奴はディレーヴァを嘲笑うかのように、気味の悪い声を上げ攻撃の手段を失ったディレーヴァを触手で
「ぐぅっ!? あ、あああああああああああッ!」
「ディ・・・・・・・レーヴァ!」
闇奴はまるで鞭のように光導姫に触手を叩きつける。悲鳴を上げるディレーヴァを、べーリーは助けようとなんとか立ち上がる。先ほどの闇奴の攻撃は、いくら守護者の肉体といえども、無視できないダメージを与えられた。
斧を持ち上げべーリーはよろよろとディレーヴァの元へと向かった。
「? ――!」
闇奴はまだ動くことのできるべーリーを察知して、適当な数の触手をべーリーにあてがった。
「くっ・・・・・・・!」
べーリーは自分に向かってくる触手を切り払おうと、斧を振るった。1,2本なら対応は出来たが、ダメージを負った体ではそれが限界だった。
残り無数の触手が、べーリーを殴打した。
「~~~~~ッ!」
べーリーは声を上げず必死にその殴打に耐えようとするが、6~7発目で地面へと叩きつけられた。
「う・・・・・・・・うう」
「――!」
闇奴はボロボロになったべーリーの元に、同じくボロボロになったディレーヴァを放り投げた。2人がうめき声を上げながら、それでも立ち上がろうと必死に力を振り絞る。闇奴は2人にとどめを刺すべく、全触手を2人に放った。
「ここ・・・・・・までか」
「っ・・・・・・・せめて、君だけは・・・・・・!」
ディレーヴァだけでも守らなければとべーリーは考えたが、もう守るには間に合わなかった。
死が2人に迫る。無慈悲な触手が2人の命を奪おうとしたその時――奇跡は起きた。
何かの発射音が複数回聞こえたかと思うと、2人に迫ろうとしていた闇奴の触手が全てはじけ飛んだのだ。
「――! ――!」
闇奴は全ての触手がはじけ飛んだ激痛に悶えながら、耳障りな悪い悲鳴を上げた。
「「!?」」
突然の出来事にディレーヴァとべーリーの2人も驚いた。いったい何が起こったというのか。
「――間に合ったか」
コツコツという靴の音と共に、女性の声がその場に響き渡った。
倒れている2人の後方から、1人の少女が姿を現す。
軍服のような服を纏ったその少女は、あらゆる意味で人の目を引くような存在だった。
出で立ちは、白を基調とした軍服のような服と軍帽のような帽子を被っている。長い銀髪を揺らしながら、鮮やかな赤い瞳を闇奴に向ける少女は、まるで幻想のように美しかった。
だが、幻想ではないと示すかのように、少女の両手には現実を象徴するかのような、無骨な2丁の拳銃が握られていた。
「大丈夫か? 同士たちよ」
倒れている2人を闇奴から守るように、銀髪の少女はディレーヴァとべーリーの前に立ち塞がった。
その特徴的な服装と2丁の拳銃を見た2人は、驚いたように目を見開く。
「まさか・・・・・・・・あなたは・・・・・」
「なぜ・・・・・・・あなたがここに・・・・・」
2人とも直接その姿を見るのは初めてだったが、彼女を知っている。
ロシアの光導姫と守護者で彼女を知らない者はいない。その名は世界の光導姫や守護者にも轟いている。
正義と規律の
「「『
光導姫ランキング3位『提督』。それが彼女の名であった。
「なに、ソレイユ様から援軍を頼まれただけだ。闇奴が段階進化したようだから、彼女たちの手に余るかもしれないとな。直接お言葉を聞いたわけではないが、そのような思いと共にこの座標へと送っていただいた」
よく通る明瞭な声で2人に事情を説明すると、提督はチラリと傷つき倒れている2人を見た。
「よくここまで耐えた。30秒ほどであの闇奴を浄化するから、もう少し待ってくれ。結界の外で政府の車が待機しているから、そのまま治癒系の光導姫の元へ連れて行ってもらうといい」
「ッ!? あり、がとう、ございます・・・・・・! しかし・・・・・!」
「いくら、御身といえども・・・・・・1人では・・・・・・!」
提督からの労いの言葉に2人の胸に嬉しさが込み上げる。だが、いくら提督といえど段階進化を起こしたあの闇奴を浄化するのは、1人では厳しいのではないかとディレーヴァとべーリーは感じた。
「問題ない。今言っただろう? 30秒あれば充分だ。なにせ、奴は雑魚だからな」
「――――!」
雑魚呼ばわりされたことに怒ったわけではないだろうが、提督に触手を全て打ち抜かれた闇奴は、全ての触手を再生させ、提督に触手を伸ばした。
「ふん、取り柄はその気持ちの悪いものと再生力だけか」
提督が見下すようにそう呟く。何十と自らに迫る触手を、提督はつまらなさそうに再び全て撃ち落とした。
「――! ――!」
「
そして浄化の力を宿した銃弾の嵐が闇奴の本体を襲った。
「――!」
闇奴は体を蜂の巣にされて光に包まれた。そして、そこには1人の大柄な男性が気を失って地面に伏せていた。闇奴の浄化に成功したのだ。
「「!?」」
「30秒もかからなかったか。君たちが闇奴を弱らせてくれたおかげだな」
つい先ほどまで自分たちを苦しませていた闇奴を、数秒ほどで浄化してみせた『提督』にディレーヴァとべーリーは畏敬の念を抱く。確かに何度か再生などをさせたから多少は弱っていたとは思うが、それでもだ。
これが『提督』。ロシア連邦最強の光導姫。
「同士たちよ、立てるか?」
「は、はい・・・・・・・・なんとか」
「大・・・・・・丈夫です」
提督の言葉に、2人はよろよろとだが立ち上がってみせた。光導姫と守護者の肉体でなければ間違いなく死んでいた。
「そうか。肩を貸してやりたいが、私は情報部に呼ばれていてな。すまない、許してくれ」
「いえ、そんなことは・・・・・・・!」
「私は守護者ですが、
2人とも『提督』と会えたことで一時的に感情が昂ぶっているのだろう。途切れ途切れであった言葉が、通常通りに戻っている。
「そうか、ありがたい言葉だ。では、私はこれで失礼する」
そう言い残して光導姫『提督』はどこかへと足早に去っていった。
モスクワ市内のとある小さな3階建てのビル。一見ただの変哲もないビルだが、このビルには地下フロアが存在する。そこに光導姫『提督』こと、アイティレ・フィルガラルガは呼び出しを受けていた。
「突然の招集、すまなく思う。予定などはなかったか? フィルガラルガ君」
「問題ありません。して、用件は何でしょうか?」
イスとテーブルのある応接室のような場所で、アイティレは壮年の男性と面会していた。テーブルの上には紅茶のカップが2つ用意されている。
髪を綺麗に撫でつけた体格のしっかりとしたその男性は、アイティレの問いかけに真剣な声色で答えた。
「話というのは、君が女神ソレイユから受け取った手紙にあったスプリガンなる人物についてのことだ」
「スプリガン・・・・・・・闇の力を扱う正体不明の怪人のことですか」
その名を聞いて、アイティレの表情が険しくなる。その存在を知ったのは、ソレイユの手紙でだったが、アイティレはスプリガンにあまりいい印象を抱いていなかった。
(フェリートとレイゼロールと戦ったことから、闇人ではないという事も考えられるが、闇の力を扱うという点でロクな者ではないだろう)
アイティレはソレイユの手紙に記してあった情報を、ロシア政府の超常情報部へと報告していた。超常情報部とは、光導姫や守護者、闇奴などの情報を取り扱う政府の秘密機関だ。アイティレの目の前にいるこの男性は、その情報部のトップだ。
「ああ。君と同じく男神ラルバから、手紙を受け取った守護者『
「・・・・・・・・そうですか」
守護者『凍士』。ロシア語ではリオート・ソルダート、つまり氷の兵士と呼ばれる彼はロシアの守護者だ。だが、アイティレが気になったのはその部分ではなかった。
(私がソレイユ様から受け取った手紙には、スプリガンなる怪人が現れた地域までは書かれていなかった。ラルバ様の手紙に出現した地域も書かれていたのか?)
もしくはそのスプリガンの情報を受けて、ロシア政府がどこからか情報を探ったのか。しかし、途中で考えても仕方の無いことだと気がつく。
自分はただ戦う者。細かな事を考えるのは自分の役割ではない。
「最近は、日本の各地でその姿が光導姫や守護者などに確認されているようだが、東京が奴の出没率の高い地域であることに変わりは無い」
「・・・・・・・・長官、失礼を承知で申し上げます。いったい、何を仰りたいのですか?」
遠回りな言い回しばかりで、アイティレには目の前の男が何を言いたいのか理解出来なかった。
「・・・・・・君のその真っ直ぐさは美徳だな。すまない、どうも私は回りくどい人間のようだ」
自分より年下の少女にそう言われた皮肉からではなく、長官と呼ばれた男は素直に褒めるようにそう言った。
「では、本題に入ろう。――君には日本に留学してもらい、スプリガンと接触してほしい。可能ならば、その身柄の拘束をお願いしたい」
「・・・・・・・・・・・・・・理由を伺っても?」
あまりに突然なその提案に、アイティレは取り乱すことなく対応した。
「もちろんだ。理由は様々あるのだが、主な理由は3つだ。1つは、君が日本の言葉を話せるということ。日本に留学する以上、その国の言語を話せることは必須だからね。2つ目は、君レベルの戦闘能力でなければ件の怪人の相手をするのは難しいということ。女神ソレイユと男神ラルバの手紙には、スプリガンはレイゼロールすら退却させたほどの力の持ち主とあった。にわかには信じ難いが、事実ならば殆どの者がスプリガンの相手にはならない」
そこまで言うと、男は一旦言葉を切って、テーブルの上の紅茶に口をつけた。そして、息を吐くと3つ目の理由を語り始めた。
「3つ目は、君の正義観だ。君の正義観を我々はよく知っている。そして君の正義観で言うならば、闇の力を扱うスプリガンは『悪しき者』だろう? 以上が主な理由だ。・・・・・・・・・・・もちろん、断ってもらっても構わない。無理で急なことは我々も承知しているからね。だが、受けてくれるというなら――」
「お受けします」
男の言葉の途中で、アイティレは答えを返した。
「・・・・・・・・・・いいのかね?」
これには男も驚いたような表情を浮かべているが、アイティレからしてみれば、自分の方から提案してきたのに、何を驚いているのかといった感じだ。
「はい。長官の仰った通り、スプリガンは私にとって『悪しき者』です。であれば、私が日本に赴く理由には充分です。いつ頃起つのですか?」
「あ、ああ。・・・・・・・・・起ってもらうのは、一週間後。滞在期間は1年ほどを目処にしている。留学という形で、日本の光導姫・守護者の集まる扇陣高校という学校に留学してもらうという形になる。君の通っている高校やご家族にはこちら側から連絡しておく。日本での滞在先や費用は全てこちら持ちだ。もちろん、これは歴とした依頼であるから、報酬も用意させてもらう」
「ご厚意感謝します。――ああ、それと長官。先ほど伺った理由はあくまで私に依頼を提案した理由であって、なぜスプリガンを拘束する必要があるのかは伺っておりません。そちらの方を私は聞いたつもりだったのですが、お聞きしても?」
トントンと話が進んでいく中、アイティレは先ほど煙に巻かれた、いや論点をすり替えられた理由を鋭い目つきで質問した。
「・・・・・・・分かったと言いたいところだが、私もあまり理由を聞かされてはいないんだ。この指令は上から仰せつかったものだからね。だが、拘束することが困難な場合は滅ぼしてしまってもかまわない、と言われたよ」
(殺してもよいと来たか・・・・・・・・ますますきな臭いな)
滅ぼすというのはそういうことだろう。そして、男の言葉を信じるなら、スプリガンを捕える、または殺すのはロシア政府上層部の意向ということになる。いったい何を企んでいるのか。
「・・・・・・・・・そうですか、了解しました。では、お話も終わったと思いますが失礼してもよろしいでしょうか?」
疑問を飲み込んで、アイティレは退室の許可を求めた。
「全く構わないよ。依頼を受けてくれて本当にありがとう。・・・・・・・・でも良かったのかね? 受けてもらってこんなことを言うのは失礼だが、友人やご家族と離れるのはつらいだろう・・・・・・・」
「・・・・・・寂しくないといえば嘘になりますが、留学という理由でなら友人や家族も理解してくれるでしょう。それに日本には前々から行ってみたいと思っていましたし、問題はありません」
「・・・・・・・・そうか、ありがとう。フィルガラルガ君」
「いえ、ではこれで失礼させていただきます」
アイティレはそう言って頭を下げると、応接室を後にした。
壮年の男はぬるくなった紅茶を飲み干すと、先ほどまでアイティレが座っていたイスに焦点を定めて、ポツリと言葉を呟いた。
「・・・・・・・・まだ16の少女に言う内容ではないだろうに」
どこかやるせなさを感じながら、男はため息をついた。
こうして一週間後、光導姫ランキング3位『提督』は留学生として扇陣高校にやって来た。その真の目的を隠しながら。
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