終章
「なるほど、あの紙で栞を作ったんだ。よく考えたね」
七瀬が運んできた『蟲本』を大切そうに本棚に飾りながら、店主が満足げに微笑んだ。白々しい。七瀬はため息をつく。
「わざわざ光一郎にあの紙を渡したんだ。あなたの計画通りですよね?」
あの紙は全く別の物語の1ページだった。つながりのない物語が差し込まれたら蟲は混乱する。その混乱の間に宿主を引き離すことができれば、連れて行かれることはない。しかも、栞をページに挟むことで、まだ語られていない物語があると蟲に思わせてそこに巣食い続けさせる。
「そんなことはない。七瀬の腕前のおかげだよ」
薄ら笑いを浮かべながら七瀬を褒める店主に、ここ数日で何度目かわからないため息をついてから七瀬は口を開いた。
「素直じゃないなぁ」
「はて?」
首をかしげてとぼけたように微笑む店主に七瀬はもう一度ため息をついてから、ゆっくりと歩き出した。昼も夜もなくランタンに照らされてぼんやりと浮かび上がる物語の蟲たちにすでに心惹かれてしまっている自分を感じて、きっとまたここに自分はすぐに足を運ぶだろうなと思った。
でも、それも悪くない。七瀬は、この前の少女が見せてくれた幻の花火を思い出しながらゆっくりと歩き続けた。耳には彼女の言葉がしっかりと残っている。「一緒に見てくれてありがとう」。今までもらった言葉の中で、一番大切なものだった。
蟲本 ふじの @saikei17253
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