第63話 泥仕合
俺の一直線の踏み込みに対して《
「コほ――っ」
かろうじて残っていた《スーパーダイラタンシー》の
普段は攻撃に使うクロの《想念》放射を防御に転用してなお、この強烈な被ダメージ。
疲れた身体に鞭打つ限界すれすれの戦闘機動と、許容値を大きく超えた痛みによって身体中が悲鳴を上げているが――構わない。
「おおおぉぉぉぉ――っ!」
俺は再び突撃を行うも、またもや同じように《
「ぐぅ――っ、くっ、かほ――っ」
呼吸がつらい。
さっきから鼻血が酷いからってのと、あとこれは鼻が折れてるな。
呼吸と言う機能を失った鼻を諦めて口呼吸に切り替えたものの、口の中は口の中で、血が充満していて鉄の味が酷かった。
口の端からこぼれる血は、口の中を切ったからというだけではない。
これは壊れはじめた内臓から逆流してきた血だ。
俺の中で、明確な死へのカウントダウンが始まっていた。
だが、そんなことは大した問題ではない。
いくつかの臓器を失っても人間はすぐに死にはしない、しばらくは生きられるのだから。
心臓や肺といった即死に繋がる重要器官は、ろっ骨や筋肉で強固に守られている。
加えてある程度ボディを自由に打たせた代わりに、最も守るべき頭部への被弾はゼロに近い。
もちろん打たれに打たれた腹周りは紫色に変色しているが、気分が滅入ることを進んでやる必要はないだろう。
見て見ぬふりでしてスルーした。
「《
《
《
ならあとは単純な我慢比べだ。
「打てるだけ打つがいいさ――」
《
必ずもう一度チャンスは来る――!
根性だけなら絶対に負けはしない。
生命力の全てを賭して――、
「もう少しだけ動け、俺の身体よ!」
今、動ければ何の問題もない。
この後のことなどどうでもいい。
だって俺は――なぜなら俺は――今この瞬間のために生きてきたのだから。
俺の顔に満面の笑みがこぼれた。
血まみれの身体に、血まみれの手足、血まみれの顏。
激痛に時おり頬が引きつりながらも、
「まだまだ、ここからだ……!」
頭の中で火花が飛び散り、口の中は逆流した胃液と血で溢れ返っている。
霞み始めた目に額から流れ落ちた血がにじんで、少しずつ視界を奪いはじめた。
全ての感覚がひたすらに猛烈な痛みを訴えつづけ、レッドアラートに支配されるその中で、
「へっ、へへ――っ」
しかし痛みだけしか感じないがゆえに、研ぎ澄まされてゆく野生の獣のような闘争本能。
生物として根源に備わっている野生が、人間的な理性や知性を超越し、生命の限界点を超えてなお戦いを希求し、俺の身体をさらにさらにと激しく駆り立ててゆく――!
俺は《認識阻害》で存在を消しながら間合いに飛び込んでは、《
「泥試合ならお手の物だ。お高く留まったそのツラを、底の見えない憎悪の泥沼に引きずり込んでやる……!」
そんな総力戦の消耗戦はしかし――、
「これは、あまりにつまらないな――ひどく、ひどくナンセンスだ。我が求める究極の闘争とは、決してこのような無粋なものではない。……
その言葉とともに、俺の周りを《想念》の剣の嵐が吹き荒れた――!
「これは――っ!」
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