第34話 動物園デート

「じゃあユウトくん、どっから見て回ろうか? 結構大きいし、全部回れるかなぁ。えーと、順路は……」


 切符を2枚買って入園ゲートをくぐり、入口にあった園内マップを見ながら考え込みはじめたマナカだが、


「見る順番は既に俺が決めている。俺についてこい」

「ふぇ?」


 俺は有無を言わさぬ態度で、びしっと言ってやった。

 すると、何故かうつむいてちょっともじもじしだしたマナカ。


「い、いきなり亭主関白でついてこい(キリッ)って感じで、け、けっこう格好良かったかも……ぐいぐいひっぱってく男らしさっていうのかな。うん、強引なのは、割ときらいじゃないかも……」


 なんかまた小声でぶつぶつと言っているのだ。

 割とはっきり物申す性格のマナカらしくなくて、ちょっとよく聞こえなかった。


 ただまぁ、俺も今の一方的な言い方は少しどうかと思わなくもない。

 いきなりの俺の言いように対する不満のようなものもあるだろう。


 言いたいけど強くは言えない――そうマナカが考えたとすれば、もごもご小声になっていたことにも納得がいく。


 ふっ、こう見えて俺は、割とそのへん気が利くタイプだからな。


 久々の動物園で俺も浮かれて調子に乗っていたところも否めない。

 不満を解消してもらうためにも、ちょっと説明しておくとするか。


「今のは言い方があれだったな。不満に感じたのなら謝ろう。だがしかし安心してくれ。巡回ルートは完全にシミュレート済みだ。効率的かつ情緒的にエスコートしてみせようじゃないか」


「え、あ、うん。ありがとう……って、不満?」

 マナカがよくわかってないって感じで首をかしげた。


「なに、皆まで言うな。俺には全部お見通しだからな。そしてだ。ここは言うなれば俺の庭だ。だから大船に乗った気で俺に任せてくれ」


「ところどころよくわかんなかったんだけど、でも何この溢れんばかりのやる気……? 普段と完全にキャラが違っているような……」



 …………

 ……



「よし、次はペンギンコーナーに行くぞ」

「えっと、先はサイを見た方が早くない? すぐそこだよ?」


「甘いなマナカ。今から15分後にペンギンの餌やりショーがある。ここのペンギンは芸達者で投げたエサを空中キャッチするんだ。しかも今日は、新しく生まれた子ペンギンが餌やりショーデビューをすることになっていて、最前列で見たいから今から席取りをする」


「リサーチ細かっ!? ……っていうか動物園楽しみにしすぎでしょ……いやいいんだけど」


「あのなマナカ。休日の動物園は戦場なんだよ」

「せ、戦場……?」

 マナカがきょとんと首をかしげる。


 ったく、分かってないって顔してやがるな。

 いいだろう、いい機会だから色々と教えてやろう。


「マナカ、個性的な動物園が多数登場して人気が一極集中し始めた昨今は、動物園が生き残りのためにあの手この手を尽くす動物園戦国時代なんだ」


「動物園戦国時代……!」


「休日ともなればペンギンやゾウの餌やりショー、ヒツジの毛刈りショー、ウサギなんかの小動物に触ることができるふれあいタイム、健康維持のためのトレーニングを公開する運動タイムといった、様々なイベントが目白押しになる」


「ふむふむ、ほぅほぅ」


「そしてそれらは必ずしも順路通りには行われないんだ。事前にイベントスケジュールを把握し綿密なタイムテーブルを組んで初めて、休日の動物園を完璧に堪能できるというわけだ」


「ほほぅ!」


「つまり事前にイベントをチェックせずに休日の動物園に来るのは、戦場に武器も持たず丸腰で赴くようなものだ! 分かったら、マナカ二等兵! これよりペンギンショーの最前列に突撃する! 俺についてこい!」


「ユウト隊長、了解であります!」


 こうして俺たちは、不思議なハイテンションのまま休日の動物園を満喫したのだった。

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