第55話 花火

「いい加減にしないよ。あたしもう我慢の限界。翼はどれほどお前に告白されて嬉しがっていたと思うんだ。あたしたちの約束を破ってまでお前を選んだんだ。それなのにこれは罰ゲーム?ふざけるんじゃないわよ。人の、翼の恋心を弄んで。あたし、絶対にお前のこと許さないから」


 優を平手打ちしたのは寧々だった。

 寧々は悲しみや怒りをこらえるように歯を食いしばり、涙をこらえていた。


 その姿を見た瞬間、自分は寧々に愛されていたんだなと思った。

 人のためにここまで怒って心配してくれる人はそうはいない。


「私もあなたたちがした行為は最低だと思います。ですからもう二度と私たちに近づかないでください」

「人の恋心は弄んじゃダメです」


 清子はきつい口調できっぱり言い切り、菫もおどおどとたどたどしかったが自分の思いを伝える。


 ぶたれた優は、左頬を押さえながら寧々を睨みつけて、そのまま友達の方に歩いていく。


「もう興ざめ。さっさと移動するわよ」


 優の一声に五人は気まずそうに視線を交わすと、優の言うことを聞き移動を開始した。

 優が見えなくなると、今までの喧騒さは嘘のように静かな空間に包まれる。


「すまん、みんな。俺がどうかしてた。俺なんかそんな簡単に告白なんてされるわけもないのに調子に乗っちゃってしまって。そのせいで、お前たちを傷つけてしまって。だからもし許されるのなら許してほしい。本当にごめん」


 翼は頭を九十度に下げ、謝罪する。


 元々と言えば翼は優に告白され、有頂天になっていたのが原因である。

 今まで告白もされなかった自分が、あんなに可愛い子に告白されるわけがない。


 それに気づいていれば、こんな悲劇は起こらなかっただろう。


 彼女に目がくらんで、友達を傷つけるなんて人として最低な行為をしてしまったと反省する。


「分かれば良いのよ。でもあたしもごめん。カッとなったとはいえ、絶交なんて言っちゃって。だから翼が許してくれるならあの発言はなかったことにしてくれるかな」


 寧々もあの時のことを後悔しているのだろう。

 翼に向かって礼儀正しく頭を下げて謝る。


「私もいくら翼さんとの約束を反故されたからといって、言い過ぎてしまいました。本当に申し訳ありません」

「私もいろいろきついこと言ってごめんなさい」


 寧々だけでなく、清子も菫も翼に頭を下げる。


「止めろよ。元はといえば俺が悪いんだろ。俺が告白されて有頂天になってたから」

「それはその通りね」

「反論の余地がありません」

「恋は盲目って言うしね」


 あれ、そこはもう少し庇ってくれるところじゃないのかな。

 でも、翼が百パーセント悪いことは明らかだ。


「今回は本当にすまなかった。だからこんな俺がお前たちに言って良いのか分からないけどまたいつものように友達になってくれないか。そしてこの後の花火を一緒に見てくれないか」


 虫の良い話ということは十分に理解している。


 でもこのまま、この三人と離れ離れになるなんて嫌だ。


 もし対価が必要なら命以外ならなんでも支払うつもりだ。


 翼は恐る恐る、三人の反応を待つ。


「まっ、翼もこれでかなりこりたでしょ。一緒に花火を見てあげても良いわ」

「あらあら、寧々さんは素直じゃないですね。私はもちろん大丈夫ですよ。一緒に見ましょう、翼さん」

「私もみんなで花火を見たい」

「……みんな、ありがとう」


 みんな今回犯してしまった翼の罪を許してくれた。

 それが嬉しくて、翼は涙を流しながら三人に抱きつく。


「俺、お前たちが友達で本当に良かった」

「ちょ、翼。鼻水出てるって」

「私は翼さんの体液ならなんでも舐めて差し上げますよ」

「清子、キモッ」

「く、苦しいです」


 寧々は嫌そうな声をしていたが、振りほどくことはしなかった。

 清子はいつもの笑みを浮かべながら冗談なのか本気なのか分からないことを言っている。


 菫は一番小さいのでみんなに押しつぶされていて苦しそうだ。


 今日改めて思ったが、何気ない日常こそが一番大切なのだ。


 ラノベみたいに、いきなり異能バトルが始まったり、急にハーレムになったり、異世界転生や異世界転移するもおもしろいかもしれない。


 でもここは現実だ。


 そんなこと、逆立ちしてもありえない。

 だからこそ、みんなで過ごす何気ない日常が一番大切で楽しい。


「ちょっと翼、もう花火が打ちあがってるわよ」

「私、翼さんに抱かれて昇天しそうです」

「みんな、ありがちょー。だいずきー」

「さ、さすがに息が……」


 花火が夜を彩るこの日に、四人はまたさらに絆を深めた。


 翼はみんなに支えられたこの日を一生忘れない。

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