第51話 カップルの巣窟

「どうしたの桐谷」


 翼の心情に気づいた優が心配そうに翼の顔を覗き込んでくる。


「いや、なんでもない」


 翼はなんでもないフリを装う。

 こんなこと彼女に相談できるわけがない。

 せっかくのデートの時に他人のことを考えるなんて、彼女に失礼だ。


「そう?桐谷がなんでもないなら別に良いんだけど」


 優も翼があまり踏み込んでほしくないという意図を察したのだろう。


 優はそれ以上、深くつっ込んで来ることはしなかった。


 それにしても、さっきから視線を感じる。

 いくら街灯や屋台の光が漏れているとはいえ、辺りは薄暗い。


 この薄暗さで人を発見するのは至難の業だろう。


「どうしたの桐谷。さっきから辺りを気にしているけど」

「いや、なんか誰に見られているような気がしてな」

「っ」


 優に心配されたので、素直に心配事を言うと優が息を呑んだ。


 しかし、翼は辺りをキョロキョロ見ていたので、それに気づくことはなかった。


 この心配事は優にも関係するかもしれないので素直に言うことができた。

 もし、優のストーカーなら翼はずっと離れないほうが良いだろう。


「それはあれじゃない。なんかカップルたちが集まってきてるから」


 優は慌てたように話す。


 優の言う通り、辺りも薄暗くなり祭りの雰囲気に当てられたのだろう。


 カップルが誰もいなそうな公園へと集まりだしてきた。

 翼も彼女の優と一緒にいるから、その一組に間違われているかもしれない。

 カップルたちは夜闇に紛れて逢瀬を交わしていた。


「こうちゃん、大好き」

「俺もだよ。早苗」

「たっくん、私がフーフーしてあげるね」

「わーい、嬉しいな」

「もっと近づいて良いかな」

「もうーそんなの許可取らなくても良いのよ」

「あっ、ん、だめ。こんな外で、そんな……」

「大丈夫だろ。ほらお前のこここんなに濡れてるじゃないか」

「そういう、一輝もビンビンじゃない」


 若干名、かなりエロいことをしているカップルがいるが、正直童貞の翼にはこの甘酸っぱい空気は身が重い。


「とりあえず、休んだことだし移動するか」

「えぇー、そう方が良さそうね」


 翼と優は急いで、この淫乱公園の外に飛び出す。


 さすがに付き合って三日目の素人カップルに、あの空間は濃厚すぎた。

 それに優の顔が真っ赤になっていることから、きっとあの声を聞いて恥ずかしがっていたのだろう。


 男子としてなんとかリードはできたかな?


 翼は優の精神衛生を守れたことに、優に聞かれないよう安堵のため息を吐いたのであった。

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