第50話 なぜ翼を好きになったのか

「まっ、こんなもんよね」


 優は辛口のコメントをしながら、口の中にたこ焼きを入れていく。


「でも白河と一緒だから俺は結構おいしいと思うぞ」

「そう、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しい」


 翼なりに考えたフォローだったが、結構上手い感じに決まってくれた。

 翼がファローした時、少しはにかんだ顔をしたのは気のせいではないだろう。


 その後、たこ焼きを食べ終えると優がパックを捨ててくると言い出した。


「別にそれぐらい、自分で捨てるよ」

「良いの。たこ焼き奢ってくれたお礼。ちょっと待ってて」


 優は無理矢理、翼のたこ焼きのパックを奪い取ると、駆け足で捨てに行った。


 そんなに急がなくても良いのに。


 でもそんなに急いでいるということは少しでも翼と一緒にいたいということだろう。

 そう思われていると考えるだけで、胸が嬉しくて痛くなる。


 優がゴミを捨てに行ってから十分後。


 ようやく、優が帰ってきた。


「ごめんね、結構混んでて道に迷っちゃって」

「ううん、別に気にしてないから大丈夫だよ」


 ここまで急いで帰って来たのだろう。


 首元や額に薄っすら汗がかいており、呼吸も少し乱れている。

 それにこんなに遅いということはトイレにでも行ってきたのだろう。

 翼だってそれぐらいのデリカシーはあるため、わざわざ確認することはしない。

 それに女の子ならいくら彼氏でもそんなこと聞かれたくないだろう。


「それじゃーどっかに行く?」

「それよりも俺たち付き合ってからあまり話してないから少しだけここで話さない。周りにはあまり人がいないし」


 せっかくの優の申し出だが、翼はもっと優と話したかった。


 付き合って三日目。


 他クラスということもあり、これまでなかなか話す機会もなかった。

 せっかくのデートなんだからもう少し、優と話をしたかった。


「そうね。付き合ったのは良いけどあたしたちあまり会話してないよね」


 優も今頃気づいたのか、翼の言い分に納得し隣に座る。


「俺と白河は違うクラスだからなかなか話す機会もなかったしな」

「そうね、違うクラスとカレカノになってもなかなか話すタイミングもなかったしね」


 翼は当たり障りのない会話を優としていく。

 正直言って、カレカノがデートをする時どんな会話をしているのか分からない。


 これが童貞の限界だった。


「そう言えば白河って俺のどこが好きなんだ」


 傍から見れば惚気に聞えるが、翼はいたって真面目だった。

 翼と優の接点なんて、付き合うまでほとんどなかった気がする。


「……う~ん、なんか改めて言われると照れるわね。全部が好きって言うと嘘っぽくなるから誠実なところかな。桐谷って優しそうだし」


 最初の間は熟考したせいだろう。


 優がまさかそんなところを好きだなんて。


 今まで真面目に優しく、誠実に生きていて良かったと心の底からそう思えた。


 もし、ここに誰もいなかったらきっと泣いていただろう。


「そういう桐谷はどうなの。あたしばかりに言わせないでよ」


 自分だけ惚気て恥ずかしいのか、唇を尖らせて翼にも言わせようとする。


「俺はまず、白河に告白されて嬉しかった」

「えーそれじゃー誰でも良かったって意味?」


 優が意地悪い笑みを浮かべて、翼をからかう。

 そんな顔も可愛いと思ったのは、優には内緒だ。


「そんなことないよ。告白されて意識し始めて良い人だって気づくこともあると思うんだ。白河なんてその典型的な人だった。だから俺は白河に告白されて良かったと思うし誇らしい。こんな美人で可愛い女の子が俺の彼女なんて今すぐ誰かに自慢してあげたいよ」


 最初は恥ずかしがっていた翼も、話しているうちに熱が入り、饒舌に惚気てしまった。


 それを隣で聞いていた優は本当に恥ずかしそうに顔を赤く染め、俯いている。


 ちょっと惚気すぎたかもしれない。


 翼は心の中で反省する。


「ちょっ、恥ずかしいってば」

「本当のことなんだからしょうがないだろう、白河が可愛いのが悪い」

「もうーそうおだてても無駄だからね。桐谷も何気に恰好良いじゃないの」


 意趣返しのつもりか、優も翼のことを褒め反撃する。


 生まれて初めて女の子に可愛いと言われた翼は天に昇ってしまうんじゃないかというぐらい幸せだった。


 こんな幸せで良いのだろうか。


 いや、良いのだろう。


 隣には恥ずかしそうに自分のことを好きでいてくれる彼女がいる。


 もし、これが夢なら覚めないでほしいと思うし、現実ならいつまでも続いてほしいと思う。


 そんな幸せを想像していた時、不意にあの三人のことが脳裏をよぎる。


 本当は寧々たち三人と一緒に来る予定だった七夕祭り。


 もし、優からの告白がなかったら三人と七夕祭りを楽しんでいただろう。


 三人で七夕祭りを楽しむ姿を想像すると、なぜか涙があふれそうになる。


 今、彼女といて幸せなのに心の真ん中がぽっかりと開いたむなしさが襲ってくる。

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