第49話 カップル

 屋台があるところに近づくにつれて、どんどん人が多くなってきた。


 それに加え、焼きそばやたこ焼きから香ばしいソースの匂いが漂ってきたり、玉コンや焼きとうもろこしのバター醤油の匂いも漂ってきて、空腹にさらに拍車をかける。


「どのお店も混んでるな」

「そうね。やっぱりみんな夕飯時だからでしょ。桐谷はなにか食べたいものとかある」

「俺はたこ焼きとか食べたいな。白河もなにかあるか」

「あたしもたこ焼きで良いかな。それじゃー一緒に並ぼうか」


 たこ焼きの屋台を見つけた優は、翼を手招きして誘う。

 その後に続こうとした翼はまた誰かの視線を感じる。


 だが、後ろを振り返っても誰もいない。


 もしかしたら、こんなに人が多いので分からないだけかもしれないが、とりあえず見つけられないものは見つけられないので諦めることにした。


 優が先に並んでいたので、そこに翼もお邪魔する。

 翼たち以外にも男女で列に並んでいるグループを発見する。


 きっとそのグループもカップルなのだろう。

 二人で手を握りながら楽しそうに談笑している。

 そして、翼たちもきっと傍から見ればカップルに思われているのかもしれない。


 カップルだけど。


 そう思うと、なんだかむず痒くなる。


「やっぱりお祭りって結構男女のカップルが多いんだね」

「そうだな、やっぱりこういうイベントはカレカノで来た方が楽しいしな」

「桐谷もそう思うの?」

「そうだな。高校生なら誰でもカレカノでお祭りに行きたいと思うだろ」

「ふ~ん、そうなんだ」


 最後の優の相槌は少しだけそっけない気がしたのは気のせいだろうか。

 それとも付き合ったばかりで緊張しているのだろうか。


 やっぱりここは男子の俺がリードしなければ。


 翼はさらに意気込む。


「いらっしゃい、おっ、二人はカップルか」


 翼たちの番まで回ってくると屋台のおじさんが気さくに翼に声をかけてくる。


「はい、三日前に付き合ったばかりです」


 優が笑顔で肯定する。


 その笑顔がこれから自分にも向けられると思うと、ますます優のことが愛しく思う。


「おめでとさん。一つで良いか」

「いいえ、あたしたちまだ付き合ったばかりなので、そういうにはなんというか恥ずかしいです」


 おじさんが気を利かせたつもりだったが、余計なお世話だったようだ。

 確かに付き合って三日で一つのたこ焼きをシェアするのはハードルが高い。


「そっか、それは残念だ。たこ焼き二つね。箸は何膳にする」

「それも二膳でお願いします」


 買い物は優が進めてくれたので、翼はなにも話すことなく終わってしまった。

 そのまま、笑顔でたこ焼き二パックと箸二膳を受け取り、ここは男の翼が支払うと主張して、翼が全部支払った。


「さすが男の子だね~」

「いいえ、そんなことないです」


 最後だけ屋台のおじさんと会話した後、たこ焼きのパックを持った二人はどこか、座って食べられそうな場所がないか探す。


「あそこは、どうかな」

「良いんじゃないか、結構静かそうだし」


 優が指を示したのは、大通りの外れにある小さな公園だった。

 公園にはあまり人がいないらしく閑散としているが、街灯や屋台から漏れ出す光で明るいし座れるベンチまで設置されている。


 翼と優は空いているベンチに座り、たこ焼きのパックを開ける。

 まだ付き合って三日目だがカレカノの関係ということもあり、優との距離が近い。


 伊織と怜奈とはこれぐらいの距離に座ってもなんとも思わないのに、やっぱり彼女ということを意識すると、緊張して汗をかいてしまう。


 いつもは気にしない自分の体臭すら気になってしまう。

 優は体からは香水なのかとても甘く良い匂いが漂ってくる。


 これこそ女の子の匂いだ。


「いただこうか、桐谷」

「そうだな」


 二人はお互いのたこ焼きに爪楊枝を刺し、冷ましてから食べる。

 冷まさないで食べて、火傷する恥なんてかきたくない。


 たこ焼きはやはりお祭りの屋台レベルというか少し、水っぽい。

 でも優と、彼女と一緒に食べているというシチュエーションがいつもよりもおいしく感じさせてくれる。


 翼の念願だった彼女が今隣にいる。


 一週間前の翼ならそんなことを言われても笑い飛ばしていただろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます