第48話 七夕祭り当日

 七月七日。


 つまり七夕祭り当日。


 開始時間は夜の六時からだ。


 翼は待ち合わせ場所である、駅前で優を待っていた。


 時刻は五時五十分過ぎ。


 駅前には男子だけのグループや女子だけのグループ、もちろん男女グループもいる。

 その他には家族連れやカップルなども目立つ。


 男女で浴衣を着て、手を繋いでいる姿はまさにリア充である。

 途中、会社帰りのサラリーマンやOLが邪魔そうな目で、お祭りに来た人を睨んでいる。

 浴衣や甚平などは持っていないため、翼は普段着で来ている。

 グレーのカットソーに紺のスキニーパンツ。

 あと、黒のスニーカーを履いている。


 太陽は見えないが、まだ空が明るい。


 東の空は夜の帳を迎えているが、西の空はまだ夕暮れである。

 夏の湿った温かい空気のせいで汗ばみ、少し気持ちが悪い。


「お待たせ、待った?」

「ううん、今来たところ」


 駅から優が出てきて合流する。


 カップル定番の挨拶を現実世界でするとは思わなかった翼は、興奮する。

 こういうやり取りに憧れを抱いていた翼は、感無量である。


 それにこのやり取りはラノベで予習済みだ。


 失敗するわけがない。


「それで、この浴衣はどうかな」

「凄く綺麗だよ。とても似合ってる」

「ありがとう」


 優に浴衣の感想を求められたので翼は素直に応える。

 優は女の子らしく、浴衣を着てやって来た。


 白を基調とし、赤や黒の金魚が泳いでいるように描かれている。

 その姿を見るだけで清涼感を与えてくれる。

 下は下駄らしく、歩くたびカコカコと甲高い音を奏でる。


「それじゃー、行こうか」

「うん」


 優にリードされ、歩行者天国に足を運ぶ。


 七夕祭りは駅前で行われるため、その時間帯だけこの大通りが歩行者天国になる。

 手を繋ぐか繋がないか迷ったが、まだ付き合って三日目だ。


 さすがにガッツキすぎは良くないと思い、自重した。


 それに、彼女がそのアクションを起こさないということは、そういうつもりはまだないのだろう。


 まだ祭りは始まったばかりだ。チャンスならいくらでもあるだろう。


「なんかこうして二人で歩くとカップルに思われるな」

「えっ、あたしたちカップルでしょ。別に思われても良いじゃん」


 翼は優と歩いていると、途端に周りの視線が気になりだした。


 だって、七夕祭りを男女二人で歩いているのだ。


 周りからは確実にカップルに思われているに違いない。


 そう思うと急に恥ずかしくなる。


 それに、どこからか分からないが翼たちを見ている視線を感じるような気がする。


 でもこの人数の多さだ。


 たまたま、こちらを見ていただけかもしれない。


「それよりどこから回ろうか」

「白河が行きたいところで良いよ」

「う~ん、どうしようかな~。もう夕飯近い時間帯だからなにか屋台で食べ物でも買わない」

「うん、良いよ」


 二人の話はまとまり、とりあえず腹を満たすため食べ物を売っている屋台へと向かうことに決めた。

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