第46話 絶交

 次の日の放課後。


 翼は昨日のことを説明するために三人を自分の教室に呼び出した。

 寧々と菫は同じクラスだからすぐ集合できたが、清子は違うクラスなため、集合に少し遅れた。


「すみません。今日もホームルームが長引いてしまって」


 急いで二組にやってきたのだろう。


 息が乱れ、額に薄っすらと汗をかいている。


「それで、急に呼び出して一体なんの用なのよ」


 急に呼び出された寧々は訝しそうに翼を睨む。

 あまり前置きしても誠意に欠けると思ったので、三人がそろったタイミングで三人に頭を下げる。


「ごめん。今週の七夕祭りなんだけど、急に予定が入っちゃって三人とは行けなくなってしまった」

「「「……」」」


 翼が誠意を込めて謝罪すると、三人の視線の圧を感じる。

 それは怒りや驚き、困惑、疑問などさまざまな感情が混ざっていた。


「どういうことよ。なんで急に予定が入るのよ。そこらへん、詳しく説明しなさいよ」


 最初に声を上げたのは寧々だった。

 寧々の口調は激しくし、今にも殴りかかってきそうな迫力があった。


「寧々さんの言う通り、なぜ急に予定が入ったのか教えてくれませんか」

「……そうだよ。ちゃんと説明して」


 清子も菫も非難めいた目で翼を見つめている。


 翼は一旦、顔を上げ、昨日の放課後告白されたことを白状する。


 だけど名前だけは相手のプライバシーや恥ずかしさもあって言えなかった。


「はっ?昨日告白されて今週の土曜日に七夕祭りに行くって馬鹿なの。じゃーあたしたちの約束はどうなるのよ」


 それにキレた寧々が翼の胸倉を掴み、睨んでくる。


 その目には薄っすらと涙が浮かんでいた。


 きっと、寧々は翼と行く七夕祭りを楽しみに思っていたのだろう。

 だが、そこまで翼は寧々の気持ちには気づかなかった。


「ごめん、だから今週の七夕祭りは寧々じゃなく彼女と行く」


 罪悪感に苛まれながらも、翼は言葉を返す。

 翼だってやっとできた彼女なのだ。


 今までどれだけほしいと願ってもできなかった彼女ができたのだ。

 なら、彼女と一緒に七夕祭りに行きたいと思うのは当然だろう。


 だが、翼は初めての告白に浮かれすぎて、寧々たちの気持ちを考えることができなかった。


「ふざけないで。なんでそんなできたばかりの彼女と行くのよ。それに夏祭りだって夏休みに入ればたくさん行われるでしょ。なのにどうしてその日に約束しちゃうのよ」


 寧々は吼える。


 心から血を流しながら。


「私も正直に申し上げると今の翼さんは最低です。私たちのこと、全然なにも分かっていません」


 清子も珍しく厳しい言葉を吐いてくる。

 清子もそれぐらい、翼と一緒に行く七夕祭りを楽しみにしていたということだ。


「……見損なったよ翼君」


 菫は引っ込み思案な性格なため、大きな声では言わなかったが、菫も菫で翼に不満をぶつけた。


「悪い。だって俺に初めてできた彼女なんだ。ずっと彼女がほしかったんだ」


 翼はただ自分のわがままを叫ぶ。


 その叫びはただの自己中心的な考えであり、三人のことをなにも思いやれていない言葉だった。


 その言葉を聞いた寧々はあまりのショックに手を翼の襟元から離す。


「……そうやって前のあたしの約束も忘れたくせに。また約束を破るのね。最低。もう翼とは絶交よ。それじゃーね」


 今の言葉に堪忍袋の緒が切れた寧々は吐き捨てるように言うと、そのまま教室を出て行った。


「さすがに絶交は言いすぎだと思いますが、見損ないました。しばらくは私に声をかけないでもらえますか」


 清子も冷たい言葉を吐き捨てると寧々を追いかけるように、教室の外へ出て行ってしまった。


「翼君はなにも分かってないよ。自分のことしか見えてない」


 菫もそれだけ言い残すと二人の後を追うように出て行ってしまった。


 そうして教室には翼一人だけが残されてしまった。


 確かに約束を反故した翼が悪いがまさかあそこまで怒られるとは思わなかった。


 それほど、三人は七夕祭りを楽しみにしていたのだろう。


 でも翼にだって理由がある。

 やっとできた彼女なのだ。


 ここで断れば一生彼女なんてできないかもしれない。

 翼は彼女一人と引き換えに友達三人を失ったのだ。

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