第44話 女の子からのラブレター

 そして七月になり、水曜日。


 つまり、今日は七夕祭りの三日前である。


 七月になるとさらに暑さは増していき、朝通学路を歩くだけで汗が噴き出し気持ち悪い。


 今日も伊織と怜奈と登校して、昇降口を開けて上靴に履き替えようとした時、翼は驚きのあまり下駄箱のドアを閉じてしまう。


 なぜなら、そこに手紙が入っていたからだ。


 下駄箱に手紙。


 これはラノベでもあるラブレターではないか。


 まだ中身も確認していないのに、勝手に決め付ける翼。

 翼は今までラブレターどころか、告白された経験もない童貞である。

 それだけで童貞の翼の脈は速くなり、夏の暑さも相まって汗が噴き出してくる。


「どうしたの翼ちゃん。上靴も取り出さないで閉めちゃって」


 となりの伊織は不思議そうに首を傾げる。

 もしこのラブレターを伊織に知られれば、からかわれたり茶化させるのは目に見えている。


 だからなにがなんでもばれるわけにはいかない。


「なんでもねーよ」


 翼は平静を装いながら、下駄箱を開けると急いで手紙を回収し上靴に履き替える。

 伊織がなにも言ってこないことを見ると、下駄箱に入っていたラブレターには気づかれていないようだ。


 翼は少し安堵すると、伊織と一緒に教室へと向かう。


 休み時間、こっそり男子トイレの個室で読もうと決意する翼だった。




 やっと放課後になった。


 翼はこれほどまでに放課後が待ち遠しかったことなんてなかった。

 朝のホームルームが終わると、すぐにトイレにダッシュし、個室に閉じこもってから手紙を開封した。


 そこにはやはりというか、丸っこい字で可愛らしい文字でこう書かれていた。


『桐谷翼君へ

 初めまして、あたし二年三組の白河優と申します。

 いきなりの手紙、申し訳ありません。

 実はあたし、あなたにどうしても伝えたいことがあるんです。

 もし良ければ、今日の放課後、体育館裏で待ってます。

 白河 優』


 これは誰がどう見てもラブレターだった。


 翼はトイレの個室の中で喜びの雄たけびをこらえながら、喜ぶ。


 ついに俺に春が来た。


 それに白河優は完全に女子である。


 なぜ、翼が優の性別を知っているかというと優は三組のトップカースト集団の一人だからである。


 だから他のクラスでも名前と性別ぐらいは知っている。


 まさかあの優が自分に告白してくるなんて。


 これは夢だろうか。いや、夢ではない。


 なぜなら、いくら頬をつねっても痛いからだ。


 あまりにも嬉しすぎた翼は授業中でもニヤニヤしてしまい、今日習ったことはほとんど頭に入っていない。


「それじゃー伊織、今日は先に帰るわ」

「うん、じゃーね翼ちゃん」

「おう」


 帰りのホームルームが終わると、翼はすぐに鞄に教科書やノートを詰め込むとすぐに教室を飛び出した。


 その急ぎっぷりに幼馴染の伊織も呆然である。


 翼は急いで体育館裏に向かうと、すでに白河優は待っていた。


 身長は百五十半ばと少し小さい。

 白河優は翼と同じ高校二年生で女の子である。

 黒色の髪で、耳は隠れているが肩にかからないぐらい短いボブカットである。

 目はキリッとしていて、いかにもクラスの学級委員や、カースト上位のような猛禽類を想像させるような目である。

 頬もプックラしていて、唇も厚い。

 肌は日焼けに注意しているか真っ白で、美肌だった。

 胸も制服の上からも分かるぐらい盛り上がっていて、推定Cカップぐらいあるだろう。

 半そで、スカートから覗く手や足は、程よい脂肪に包まれていて柔らかそうである。


「ごめん、待った」

「別に。あたしが呼び出したんだから桐谷は気にしないで」


 遅れたことにわびを入れると、高圧的な態度で返される。


 さすがはクラス上位カースト。


 下位カーストの翼を見下している。


「それで用ってなんなんだ?」

「手紙で呼び出されたんだからそれぐらい察しなさいよ」


 翼が用件を聞き出したら、逆に怒られてしまった。

 最近理不尽なことにしか起こらないなと翼は心の中で悲しみ、嘆く。


「悪い」


 カースト上位に逆らうほど、翼も馬鹿ではない。

 見た目は美少女だが、罵られるのは精神的にきつい。


「……こっちこそごめん。言いすぎた」


 翼のことを可哀想に思ったのだろう。


 優も決まりの悪い顔で謝る。

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