第41話 こちらのフライドポテトは夜専用ですよ

「ん~おいしかった~」


 寧々はフライドポテトを食べながら、幸せそうな表情を浮かべる。


「そう言ってもらえると私も嬉しいです」


 清子は自分のことのように喜んでいる。


「結構ボリュームがあったのに、リーズナブルで学生にはありがたいな」

「うん。味も量も料金も全て良かった」


 翼も菫もこのファミレスをべた褒めする。


 基本、放課後どこか寄り道することがない翼はどこにも寄るところがなく、あっても精々ファストフード店ぐらいだ。


 やっぱり一人でファミレスに入る勇気はない。


 伊織と怜奈が一緒の時でも基本、ファストフード店だ。


「清子。この店にはどれぐらいいて良いんだ。あまり長い間占拠してるのも悪いだろ」

「それは問題ありません。ちゃんとその分の代金は渡してありますので」


 翼は清子にマナー的な問題で聞いたつもりだったのだが、予想の斜め上の回答が返ってきた。


「それに私はずっとこのまま翼さんの隣にいたいですし」


 清子は妖艶に微笑むと、自分の左手を翼の右手に乗せてきた。

 清子の手は少し汗ばんでいたが、全然嫌な感じではなくむしろ清子の手から清子の体温が伝わってきてドキドキした。


 それに目ざとく気づくのが寧々である。


「ちょっと清子。なんで翼と手を握り合ってるのよ」

「あらあら寧々さん。嫉妬は醜いですよ」


 テーブルを挟み、なぜか火花を散らす二人。

 男の娘同士仲良くすれば良いと思うんだが、現実は難しいらしい。


「それに翼も翼よ。嫌ならその手をどかしなさい」


 今度はなぜか翼のほうに寧々のとばっちりが飛んできた。

 これ以上寧々を怒らせるのも悪いと思い、手をどかそうとした時、ギュッと清子に握られてしまった。


 これではどかそうもどけない。


「翼さんは嫌じゃないからどけないんです。それにこの場所を獲得したのは私です。ならなんの問題もありません」


 清子はにこやかに笑うも、意思を変えるつもりはなさそうだ。

 それに清子は一度こうと決めればなかなか意見を変えない男の娘だ。


 良く言えば、芯が強い。悪く言えば、頑固者である。


「ちょっとイチャつきすぎだと思う」


 あまり自分の意見を言わない菫が自分の意見を口に出す。


 その行為に翼は驚いた。


「佐藤の言う通りよ。その手を離しなさい」


 菫の意見に便乗するかのように、寧々も責め立てる。


「それは無理な相談ですね」


 しかし清子はなにもなかったかのように受け流す。


 最近、寧々よりも清子の方が怖いと思い始めた翼だった。


 とりあえずなぜ三人が火花を散らしているのか分からないが、首を突っ込む勇気のない翼はフライドポテトを食べて間をつなげようとした。


 右手は塞がっているので左手でフライドポテトを食べようとした時、清子に止められた。


「翼さん、左手で食べるのは大変そうですから、私は変わりに食べさせてあげますね」


 清子はニッコリ微笑むと右手でフライドポテトを取り、先端にマヨネーズをつけて翼の口元に運ぶ。


「だったら、手を離せば済む話でしょ」


 寧々が清子に抗議するも、清子は涼しい顔で受け流す。

 ここまでされて断るのも悪いだろう。

 でも、同級生のしかも男の娘に食べさせてもらうのはどうにも恥ずかしい。


「翼さん、私のフライドポテトを食べてください」


 清子が妖艶な表情で促してくる。


 微かに目がトロンとしているのは翼の気のせいだろうか。

 それに言葉のチョイスにも悪意がありそうで怖い。


 このまま放置しておくのも可愛そうなので、翼は恥を忍んで清子のフライドポテトを食べる。


 その時、寧々にはずっと睨まれ、菫は困惑の表情を浮かべていた。


 翼は半分齧ると、咀嚼して飲み込む。


「おいしいですか」

「うん、おいしいよ」


 店で作られているんだからもちろん、味はおいしい。

 それに清子から直接食べさせてもらうというシチュエーションがさらにフライドポテトのおいしさを倍増させる。


「それは良かったですわ」


 残りの半分を翼に食べさせると、頬に手を添えてクネクネと悶える清子。


 その姿はまるで恋する乙女のようだった。

 そんな清子を眺めていた翼が悪かったのだろう。


 翼の視線に気づいた清子は急にスカートの股付近を押さえると、恥ずかしそうに呟く。


「こちらのフライドポテトは夜専用ですよ」

「「「……」」」


 まさか清子の下ネタに翼を含める三人は絶句した。


 率直に言って清子の下ネタにどう反応すれば良いか分からなかったからだ。

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