第31話 相合傘

 次の日の放課後。


 今日は夕方頃から雨が降ると予報されていたので、今まさに雨が降っている。

 雨脚は強く、傘なしでは一瞬でずぶ濡れになってしまうだろう。

 翼はいつものように一人で帰るため、昇降口に向かう。

 伊織は職員室に行き、怜奈は学年が違うのでそもそも帰りは別だ。


 寧々はいつものメンバーと談笑していて、清子は他のクラスなので分からない。

 何度も言うが翼はボッチなわけではなく、ただ友達が少ないだけだ。


 今日はたまたま一人なのだ。


 そんな言い訳を独りでしながら翼は傘たてから傘を取り出し、帰ろうとすると見知った人が昇降口で困っていた。


「……どうしよう。今日傘忘れちゃった」

「どうしたんだ佐藤。そんなところで立ち止まって」

「きゃっ、桐谷君」


 困っていそうな菫に声をかけたら逆に驚かせてしまった。

 菫は日頃声をかけられない生活をしているのだろう。


 そのせいもあって、驚いたリアクションが大きかった。


 周りで帰りの準備をしていた生徒は訝し気に翼と菫を見て帰っていた。

 周りの目が冷たかったのは、きっと翼が菫にナンパか恐喝をしていると思ったのだろう。


 翼からすればかなり理不尽だ。


「悪い驚かせてしまって」

「いえ、私も大きな声を出しすぎました。ごめんなさい」

「それで佐藤はどうしたんだ。もしかして傘でも忘れたのか」


 外は傘なしでは帰るの無理そうなぐらいの土砂降り。


 そして、翼は一人ここで立ち尽くしている菫を見て、推察する。


「はい、桐谷君の言う通り、今日傘を忘れてきました」


 菫は恥ずかしいのか、話している声が小さかった。


 こんな日に傘を忘れるなんて災難だろう。


 さすがに翼もこの雨の中を傘なしで帰る勇気はない。


「私ダメですね。クラスでも一人で今日傘も忘れて。私はどうしようないぐらいダメな子です」


 傘を忘れて自己嫌悪に陥っているのか、ブツブツと菫は自分を責めている。

 これが見ず知らずの生徒だったら翼だって無視して帰る。


 でも菫とは昨日、声をかわした仲だ。

 それに、クラスメイトでもある。


 こんなに困っているクラスメイトを無視して帰るほど、翼も冷血ではない。

 それに乗りかかった船だ。最後まで面倒をみよう。


「それなら俺と一緒の傘に入るか。一応大人の男性でも余裕で入れるぐらい大きいから二人でも大丈夫だと思うけど」


 翼は怜奈や伊織よりも体格というか肩幅が大きいので、傘も大きい傘を持ち歩いている。


「そんな、桐谷君に申し訳ないよ」


 昨日初めて話しかけたといっても過言ではない翼に遠慮し、断る菫。

 確かに立場を変えて考えると、昨日話したばかりのクラスメイトにいきなり、相合傘をしようと言われたら断るだろう。

 でもここまで関わってこの雨の中を一人で傘も差さないで歩かせるのは忍びない。


「大丈夫だよ。それに一人で帰るのつまらないし。たまには誰かと帰りたいなと思うんだけど、佐藤と一緒じゃダメか」


 我ながらひどい提案だと思うが、半分は本音だ。


 翼も健全な高校生の一人だ。


 一人で帰るよりも、誰かと一緒に帰る方が楽しい。


 それにストレートに傘に入れると言っても菫みたいな人種には効果がないだろう。

 なら、間接的に言う方が抵抗はなくなるだろう。


 翼は一緒に菫と帰りたい。


 だから一緒に傘に入って帰ろう。


 もし、菫が女の子だったら、こんな大胆なことはできなかっただろう。


 男女で相合傘をしたら、確実にカップルに間違われてしまう。


 特に好意もない男子とくっついていると言われる女子は精神的にきついものがあるだろう。


 その点、菫は男の娘なのでそういう心配はない。


「……その~……桐谷君が良ければ」


 菫は控えめな声で翼に聞き返す。


「俺から誘ってるんだ。佐藤さえ良ければ俺は大丈夫だ」

「……」


 菫は外の雨を見て、翼の好意を考える。


「すみません。一緒に入らせてもらっても大丈夫ですか」


 さすがの菫もこんな雨の中は帰れないと判断したのだろう。

 恐る恐る、翼のことを上目づかいで見つめる。


「もちろん、いいぜ」


 というころで翼は菫と相合傘をしながら帰ることになった。

 この光景を寧々と清子が見ていると知らずに。

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