第27話 ズッ友

「あはは、翼なにしてるの」

「翼さん。今のはおもしろかったです」


 寧々はゲラゲラ笑い、清子までクスクスと笑われる。


 正直言って恥ずかしいが、嫌ではなかった。


 逆に翼自身もおもしろくなり、プッと笑ってしまう。


 プリクラの小さな空間。


 今まさに翼は青春を感じていた。


 寧々が笑い、清子も笑い、翼も笑う。


 今は何気ない日常の一こまも大人になって思い返すと、輝かしい思い出に変わるのだろう。


「ほらっ、早く早く。次のポーズをしないと」


 正気に戻った寧々が急いで次のポーズをさせようと二人を急かす。


「次は親指と人差し指を交差するようにずらしてハートを作るの」

「こんなのハートなのか。いまどきは変わってるなー」

「私、初めてこんなハートを作ります」


 寧々が二人に指だけで作るハートを教えて、翼は訝しむように作り清子はワクワクしながらハートを作る。


 三人が指ハートを作りカメラを見つめた瞬間、写真が撮られる。


 良かった。今度は変なところを向いていない。


 翼は心の中で安堵のため息を吐く。


 そうしているうちにいつの間にか、最後の撮影になる。


「次は最後か。どんなポーズで撮りたい」


 寧々は気を利かせて最後は翼たちの意見を聞く。


「う~ん。俺は初心者だからどんなポーズが良いか分からないな」


 貧困な発想しかできない翼には重すぎる大役だった。


 こんなことならもっとプリクラ撮影が載っているラノベやマンガを読んでおけば良かった。


「せっかくなので私、こんなポーズをとりたいです」


 清子が積極的にアピールすると、いきなり翼の右腕に抱きついてくる。


「こうすればとても友達っぽいです」


 清子は純粋な笑みを浮かべる。


 これはどちらかというと友達よりカップルに近いがどうでも良いや。


 清子が嬉しそうだし。


 だが寧々の目つきが変わる。


 あれは完全に怒っている目だ。


「そうね。こうすれば凄く友達っぽいわね」


 寧々は清子に対抗するかのように翼の左腕に抱きついてくる。

 心のなしか、かなり強く抱きついているような気がする。

 清子の胸はほぼ平坦に近く、それでも女性らしい柔らかみがある。


 一方、寧々の胸は女性らしい膨らみがあり、翼の左腕に押しつけられ度に形が変わり、否応なくドキドキさせられる。


 いくら二人が男の娘と分かっていてもこの女子のような柔らかな胸の前ではそんな情報など無意味だ。


 翼はドキドキしすぎて顔が真っ赤になったまま写真を撮られた。


 見るのと触れるのでは全然違う。


 その後、無事に撮影は終わった。


 清子があっさりと翼の腕から離れ、逆に寧々は名残惜しそうに離れていった。


「……あぁーあ抱きついちゃった。翼の腕に抱きついちゃった。あたし変な顔してないよね。でも幸せだったな~」

「おーい寧々。撮影終わったぞ」


 絶賛独り言を言っている寧々に話しをかけ、外に出ることを促す。


「わ、分かってるわよ。今出るわよ」


 親切に教えてあげたのに、逆に怒られてしまった。


 理不尽だ。


 その後、寧々と清子の主導のもと、プリクラの醍醐味といえる落書きタイムが始まる。


 男子の翼はあまり興味がなかったので、外から傍観していた。


「指ハートに白いペンでハートを描いてみて」

「こうですか」

「そう。上手上手」

「みんなのところに名前でも書きませんか」

「いいわね。あとここら辺に『ズッ友』と書いて」

「分かりました。……なんか良いですね、ズッ友」


 こうしてはしゃぎながら落書きをしている二人はまるで女子高生のように華やかだった。


 もし性別が女の子だったらどちらかを好きになっていたかもしれない。


 それぐらい、二人は可愛かった。


 その後、落書きを終え取り出し口からプリクラが出てくる。


 それを備え付けのハサミで三人分に切り分ける。


「これ、翼のね」

「ありがとう」


 寧々からプリクラを受け取り見ると、可愛く落書きされていた。

 指ハートのところに白いハートが描かれていたり、それぞれに名前が書かれていたり、上の真ん中らへんに大きなピンクの文字で『ズッ友』と書かれていたり、熊のポーズをしている翼の目を黒く塗りつぶし、容疑者っぽくしてあったり。


 本当に自由に落書きがされていた。


「おい寧々。この容疑者風止めろ」

「えー、もう焼いちゃったから無理」


 寧々にクレームをつけるが軽く受け流されてしまった。


 でもこのプリクラもいつか良い思い出になるだろう。


 ちょっとハートのフレームと、二人に抱きつかれたプリクラは恥ずかしいが。


「初めてのプリクラ……感激です」


 清子は初めてプリクラに一人で興奮している。


 その後は、帰りも遅くなると危ないのでゲームセンター前で解散となった。

 帰り道、ゲームセンターの余韻が抜けなかった翼は一人で鼻歌を歌い、通行人から奇異な目で見られてしまった。

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