第24話 罪悪感

 お菓子を大量ゲットし、お腹を満たすために店内に設置してあるベンチに座り、翼たちはお菓子を食べていた。

 一円も出していない翼が食べて良いものか清子に聞いてみたが、清子が笑顔で食べて良いって言ってくれた。


 一瞬、清子が女神に見えた。


 その清子は今お手洗いに行っており、寧々と二人っきりでベンチに座っている。


「最後の寧々は凄かったな。百円で十個もお菓子を取るなんて」


 翼は包装紙に包まれているチョコを食べながら寧々に話しかける。

 チョコの甘さが口の中に広がり、疲れが抜けていく。


「っていうか自分でも驚きなんだけど。まさか十個も取れるなんて思わなかった」


 寧々もまさかあんなに取れるなんて思わなかったのだろう。


 クスッと翼に笑い返す。


「寧々ってクレーンゲームって得意なのか」

「友達と来る時は結構やるわね。翼は?」

「俺はシューティングゲームやメダルゲームが中心かな。俺、クレーンゲームって苦手だし」


 翼もゲームセンターには来るが、ほとんど一人なので一人で遊べるゲームしかしない。

 クレーンゲームも一人で遊べるのだが、生憎翼にクレーンゲームの才能がないため、どぶにお金を捨てるまねはしない。


「クレーンゲームはコツさえ掴めば誰でもできるようになるって。今度は二人でみっちり教えてあげるから」


 寧々はクレーンゲームが苦手な翼のことを励ます。


 その笑顔を見ているとクレーンゲームが苦手な翼も得意になれそうな気がする。


「……悪い寧々。今日最初に約束をしたのは寧々なのに」


 今の発言で思い出してしまったが、最初今日は寧々と遊ぶ約束をしていた。


 それを忘れて清子と約束をしてしまったのは完全に翼が悪い。


 そのせいで翼の声には覇気がなく、本当に申し訳なさそうにうなだれている。


「最初はイラッとしたけど、三人で来るゲーセンも楽しいし。でも次はあたしとの約束を忘れないでよね。……せっかく二人っきりだって思って楽しみにしてたんだから」

「あぁー今度は絶対に忘れない」


 最後の方は声が小さく、ゲームセンターの喧騒で聞き取れなかった。

 翼はもう二度と同じようなミスはしないと豪語し、寧々と約束を交わす。


「あぁーあ、あたしもトイレしたくなったから、トイレに行ってくるね」

「あぁー」


 寧々は急にトイレに行きたくなり立ち上がると、急いでトイレに行ってしまった。


 その時、頬が赤かったのはクレーンゲームに熱中しすぎたせいだろうか。


 翼は急のことで呆気に取られ曖昧な返事しかできなかった。


 寧々とすれ違うように、今度は清子がやって来た。


 急いでトイレに向こうとする寧々とすれ違った清子は不思議そうに首を傾げていたが、声をかけることはしなかった。


「すみません、待たせてしまって」

「別に謝らなくても良いよ。トイレは我慢すると良くないし」


 律儀に謝る清子に、翼はできるだけ罪悪感を抱かせないようなフォローをする。


 その後、翼が座っているベンチまで来ると、寧々とは反対側に腰掛ける。


 つまり、右から寧々、翼、清子の順で座っている。


 寧々は今トイレに行っていないが。


「こっちこそごめん。寧々との約束を忘れて清子と約束をしちゃうなんて」


 清子が腰掛けたタイミングで翼は清子に謝罪する。


 寧々にも謝ったが、清子にも悪いことをしてしまった。


 そのせいで、寧々といざこざを起こしてしまった。


「私こそすみません。まさか今日寧々さんと遊ぶ約束があるなんて知りませんでした」

「清子が謝ることじゃないよ。約束を忘れてた俺が悪いんだし」


 なぜか清子が申し訳なさそうに翼に謝る。


 でもこれは寧々との約束を忘れていた翼が完全に悪い。


 だから清子が謝る必要は何一つない。


「今度はちゃんと予定が空いているか確認して約束するよ」

「私もその方が良いと思います。私が言うのもおこがましいかもしれませんがきっと寧々さんは今日の翼さんとの約束を楽しみにしていたんだと思います。でなければあんなに私に敵愾心をむき出しに威嚇なんかしません。だから翼さんも寧々さんの気持ちを汲み取ってあげてください。寧々さんはあー見えて繊細な男の娘ですから」


 清子はあくまでも翼を責めているわけではない。


 ただ、もう少し寧々の気持ちを分かってほしいと言っているだけだ。


 清子に言われて改めて、自分がどれだけ寧々に無神経なことをしてしまったかと反省する。


 もし伊織と遊ぶ約束をしていて、急に彼氏が来たら気まずくて嫌だ。


 それに面識もない。


 多分、今の寧々の心情はそんな感じなのだろう。


「……すみません、偉そうに言ってしまって」


 清子が自分でも偉そうに言い過ぎてしまったのだろう。でも翼はそうは思わない。

 清子の言っていることは的を射ている。


 だから清子が謝ることなんて一切ない。


「いや、清子のおかげで俺がどれだけ寧々に失礼なことをしたのか分かったよ。ありがとう」

「……いえ、どうしたしまして」


 翼は再度寧々にしでかしたことを深く反省する。


 そして、それを気づかせてくれた清子に改めてお礼を言う。


 清子は少し戸惑いながらも、嬉しかったのか頬を赤く染めて小さな声で呟く。


「……そのっ、チョコ食べて良いですか」

「これは清子が取ったんだから俺に許可取る必要なんてないって」


 気まずい空気に耐えられなかった清子が、口を開く。

 元々これは清子が自分のお金で取ったものなので別に翼に許可を取る必要はない。


 きっとそれさえも分からないぐらい清子は混乱をしていたのだろう。

 清子は包装紙に包まっているチョコを開けると、小動物のように可愛らしく半分だけ食べる。


「とても甘くておいしいですね」

「甘くておいしいには同感だな。やっぱりチョコは甘い方が好きだ」

「私もです。私、甘いチョコが大好きです」


 チョコを食べた清子が、おいしそうに頬を蕩けさせる。


 そのおかげで、翼と清子の周りにあった気まずい空気はいつの間にかどこかに流れていっていた。


 その後、トイレから戻ってきた寧々と合流し、お菓子を食べ終えてからまた移動を開始した。

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