第23話 両替してもお金は増えない

「そういう時は両替をするんだよ」

「あっ……なるほど」


 清子も納得しか、絶望しかなかった表情に希望が灯る。


「……清子ってホントにお嬢様なのね」


 寧々が遠い目をしながら呟いている。


 男の娘をお嬢様と呼ぶべきかそうでないべきかはこの際おいておく。


 とりあえず翼たちは、清子のお金を両替すべく両替機を探す。


 両替機はすぐに見つかり、翼が使い方を説明する。


「まずここに一万円を入れる」

「はい、入れました」


「これで終了だ。後は取り出し口からお金を取り出せば終わりだ」


 なんの説明でもない。


 小学生でも両替機の使い方ぐらいは知っているだろう。

 両替機からは千円札九枚と百円玉が十枚出てくる。


「なんかお金が増えています」


 うん、全然増えていない。


 その反応が新鮮だったのか寧々が清子を見ながらクスクスと笑いをこらえている。

 その後、翼が清子にお金は増えていないことを説明し、再びあのクレーンゲームに戻ってきた。


「ここに百円玉を入れれば良いですね」


 清子は翼と寧々に確認を取りながらゲームを進めていく。


「やり方は、お菓子をすくってこの動く台に落として、落としたお菓子が下にあるお菓子を動かしてこの手前の穴に落とせばお菓子が入る仕組み。どう分かった?」

「なるほど。ではやってみます」


 寧々が簡単にこのクレーンゲームのやり方を説明し、それを元に清子がプレイをしてみる。


 清子は本当に初心者なので、最初は下手に教えず清子が考えたやり方でプレイしてもらうことにする。


 このクレーンゲームは翼たちから見てお菓子が左にゆっくりと回っている。


 お菓子をすくうクレーンは右側についており、中央にはお菓子が乗っている二段の台があり、上段が動き下段の上にあるお菓子を押し出す設計に作られている。

 上段にも下段にもそれなりの量のお菓子があり、清子の腕次第ではかなり取れるかもしれない。


 清子は緊張しているのか集中しているのか静かに動くお菓子を眺めている。


「えい」


 掛け声とともに清子はボタンを押す。


 するとクレーンが下がっていき流れているお菓子をすくおうとする。

 清子はあの山のように積みあがっているお菓子をすくおうとしたのだろう。

 でもタイミングが遅く、ほとんどなにもないところにクレーンは落ちてしまう。


「あっ……」


 清子の口から悲しみの声が漏れる。


 翼も自分のように悲しかった。


 そしてクレーンはなにも取ることができずに戻ってきた。


「狙いは良かったわよ。でもクレーンが落ちる速さを考えないとダメね。でもこれは初見では分からないからしょうがない。これでクレーンが落ちるタイミングは分かったでしょ。狙いは悪くないからその調子で次もやってみて」

「はい」

「あと、お菓子の山の少し前を狙った方が良いわ。やってみて分かったと思うけどクレーンも下に落ちる時、少しその場で待っているでしょ。その時間と流れる速さを計算して上手く乗せるの」

「はい、やってみます」


 まるでプロのような指導に思わず隣で聞いていた翼は舌を巻く。

 清子は嬉しそうに寧々の指導を聞きながら、再びクレーンゲームに向き合う。


 その後ろ姿に悲壮な面影はない。


「寧々ってプロなのか」

「別にプロっていうほどでもないけど、結構友達とゲーセンには来てるからね。覚えちちゃったわ」


 寧々は驕るような態度は取らずに、淡々と事実だけを翼に伝えていく。

 でもその表情が少し赤いのは清子の一生懸命さに心を打たれたせいだろうか。

 それともこのゲームセンターの中が少し暑いせいだろうか。


 翼には分からなかった。


「ここです」


 寧々と話していて気づかなかったがどうやらお菓子の山が来ていたらしい。


 清子は気合を込めてボタンを押す。


 落ちていくクレーンはお菓子の山の少し前に落ち、お菓子がクレーンに自ら乗り込んでいく。


 そしてクレーンは大量のお菓子をすくい、戻ってくる。


「やりましたわ」

「安心するのはまだ早いわ。ここでの落とし方も重要よ。みんな上に落とすと思うんだけどそれは間違い。このゲームは下段にも落ちるような仕組みになっているの。上段が一番奥に引っ込んだ瞬間にボタンを押しなさい」

「はい」


 寧々の指導に元気良く返事をする清子。


 その後、清子は寧々の指導どおりに動き、見事にお菓子を二つゲットした。


 これには翼も驚いた。


 翼もクレーンゲームはしたことはあったが、それは一回上段に落としてから上段が落としたお菓子で下段のお菓子をゲットすると思っていた。


 でも寧々のやり方は一回分のプロセスを省くことより、より効率的にお菓子を取ることができる。


 まさに目から鱗である。


 もう、清子には驚かせられっぱなしである。 今度このゲームをする時、寧々のやり方で取ってみようと決意する翼だった。


 その後、味をしめた清子がクレーンゲームをやり続け、最後に寧々が一回でお菓子十個を取る神業を成し遂げた。


「やったー」

「凄いです、寧々さん」


 寧々は心の底から嬉しそうな顔をし、清子とハイタッチをかわす。


 この興奮を味わうべく、翼も見よう見まねで両手を上げる。


 こんなリア充的イベントに自分は不相応だろうかと思ったがそれは杞憂だった。

 寧々は清子にした時と変わらない笑顔で翼とハイタッチをしてくれた。


 パチンと乾いた音が気持ち良い。


 そしてキモい考えかもしれないが、手のひらから伝わる寧々の感触が気持ち良かった。


 女の子のようにプニプニとし、少し汗ばんだ手がなんとも言えなかった。


「翼さん」

「そうだな清子ともな」


 清子がハイタッチしたような目で翼を見てくれたおかげで、なんの抵抗もなく清子ともハイタッチをかわすことができた。


 清子も寧々と同じように柔らかく、一瞬、この手を洗いたくないという衝動に駆られそうになった。

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