第21話 異能バトルも異世界転生も始まらない普通の帰り道

「なるほど。私の感性はおもしろいのですか。初めて知りました」


 清子が自分の新たな発見に気づき、驚いた表情を浮かべる。


「……俺も寧々と一緒に下の名前で呼んで良いか」


 もし翼がリア充だったらもっとスムーズに言えたのかもしれないが、翼は非リア充だ。


 タイミングやたどたどしいのは目を瞑ってもらいたい。


「はいもちろんです。翼さん」


 清子は嬉しそうに翼の名前を呼んでくれた。


 この笑顔は反則ではないだろうか。


 この笑顔で心を撃ちぬかれない男子がいるだろうか。いや、いない。


 翼は清子が男の娘ということを忘れて、心を撃ちぬかれてしまった。


 隣では寧々が忌々しそうな目をしていたが、それは一瞬のことだったので誰も気づかなかった。


「こっちこそ……き……清子」


 翼は緊張しながらもなんとか、発音することができた。

 伊織や寧々は幼馴染だったり妹だから、下の名前で呼ぶことに抵抗はない。

 寧々も、どちらかというと明るくて下の名前を呼びやすいオーラを出していたので寧々もあまり抵抗はなかった。


 でも清子のように大人しい深窓のお嬢様の名前を呼び捨てにするのは、緊張した。

 こんな可憐な子を自分が呼び捨てにしてしまって良いのだろうかという自責の念にかられる。


 でも清子は気を悪くしたような気配はないのでとりあえず、ホッとする。


「ちょっと翼。緊張しすぎじゃな~い」


 隣では寧々がからかってくる。


 もし、伊織もいたら寧々に便乗してきたかもしれない。

 本当に伊織がこの場にいなくて良かったと心底翼は思う。


「別に、緊張なんかしてねーよ」


 図星をつかれていたため、思わずツンデレ口調になってしまった。

 男子のツンデレなんて誰の需要もないのに。


「下の名前で呼び合うと、距離がグッと縮まりますね」

「確かに苗字よりは名前の方が親密度は増すよね」

「私、翼さんだけではなく寧々さんともお友達になれてとても嬉しいです」

「嬉しいこと言うのね。あたしも清子と友達になれて嬉しいわ」


 翼を挟んで男の娘二人が、意気投合している。


 ……この場に俺って必要なのかな。


 翼は自分の存在がむしろ二人を邪魔しているのではないかと思い、落胆する。


「ところで清子ってゲーセンって初めてなの」

「はい。なのでとてもドキドキしています」

「そんなに身構えることないって。リラックスリラックス」


 女の子同士がすぐに仲良くなれるように男の娘同士もすぐに仲良くなる。

 この光景だけ見ると、昔からの幼馴染、親友にすら見えてくる。


「どうしたの翼。だっきから黙っちゃって」

「どこか具合が悪いのですか」


 寧々が翼をからかい、清子は本気で翼の体調を気にしている。


「別にどこも悪くはねーよ」


 こういうところで素直になれないのが男という生き物だ。

 どうしても男は可愛い子の前では見栄をはってしまう。


「もしかしてあたしと清子ばかり話して寂しくなっちゃったーとか」

「ギクッ」

「ってギクッって言う人初めて見たんだけどー」


 寧々も冗談だったらしく、からかうように言ったのがまさか的を射ていたとは。


 翼は思わず口から声が漏れてしまった。


 それがおもしろくて寧々はさらに翼のことをからかう。


 しかも清子までクスクスと笑いをこらえている。


 何気ない学校の帰り道。


 いきなり異能バトルが始まるわけもなければ、異世界転生も起こらない。

 でもこういう何気ない幸せが十年後、二十年後大人になったら色鮮やかな思い出になるのだろう。


 こういうのを青春というのだろう。


 翼は柄にでもないことを思う。


 でも、確かに今青春してるな~って思う。


 そんな他愛もない会話をしながら三人はゲームセンターへと向かった。




 駅前のゲームセンターは、駅前ということもあり帰宅途中の学生で賑わっていた。

 駅前のゲームセンターは地上二階、地下一階で成り立っている。


 地下は主にメダルゲームがあり、一回にはユーホーキャッチャーやプリクラ、二階には格ゲーなどのアーケードゲームが置いてある。


 内装は暗く、店内の照明よりゲームから漏れている光の方が明るい。


 店内にはオタクなら誰でも聞いたことがあるようなアニソンが大音量で流れている。


 この時間帯だと、やはり学生の姿が多く目に入る。


 さすがは高校生。

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